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  • 個人資産の担保供与 ~不動産登記の謎~

2013.12.27

[企業審査人シリーズvol.14]

調査報告書に添付された不動産登記写を見ていた青山は、代表一族の所有不動産の多さに感心しながら、ふと疑問に思った。
 「社長の親族名義の不動産で担保が付いていないものもあるけど、これっていざというときに会社の借金の担保に差し出してくれるのかな」
会社所有の不動産で担保に供与してないものがあるのなら、それは担保余力として見込めるだろう。しかし親族が所有する不動産はどうだろう。青山は、隣で水田が煎餅の袋を取ろうと机の引き出しを開けるタイミングを見計らって質問した。
 「うん、それはもっともな疑問だ。そこはその不動産や親族の関係をよく見ないとわからんもんじゃ」
不動産は所有者との関係を把握することが重要
 「社長の親族が役員になっている、さらに役員の中でも常勤役員となっているような場合は、社長と同じように担保提供する可能性がある。すでに役員を退いていても現社長の親などの場合は、いずれ相続財産となる可能性があるから、担保余力に入れてよかろう。ただ、役員でも非常勤だったり、株主にも入ってなかったりする場合はあてにできんな。そうした続柄の情報は不動産登記には書いてないから、報告書の情報がとても参考になるんじゃ。その不動産が会社の事業に供されているかどうかもポイントにはなるが、最近は遺産相続で事業資産を処分せざるを得なくなるケースもあるというから、やっぱり関係が大事じゃな」
 「やっぱりそうですよね」
 青山は大学生でベンチャー研究会に所属している弟の顔を思い浮かべた。
 「俺が不動産を持っても、あいつには絶対担保供与しないぞ」

個人資産の把握はますます困難に

 中小零細企業の多くは同族企業ですが、審査においては青山のような疑問に遭遇することがあります。前に触れたように、民間企業が販売先の不動産を担保にとるケースは稀ですが、その会社の信用状態や資金繰りを見る上では、保有財産の量やそこに付与された担保権の動きが重要な情報になります。
 また同族企業においては、配当や役員報酬を通じて会社ではなく社長個人が蓄財しているケースもあり、社長個人や親族、関係会社などの資金力は信用判断において重要なファクターです。
 しかし、プライバシー意識の高まりや個人情報保護法の施行によって、個人資産に関する情報の取得や扱いは年々難しくなっています。調査会社においても、「情報を知り得ても報告書に書けない」という場合があります。まして新しい会社の場合は、調査会社といえども把握は容易ではありません。
 こういう場合は、営業パーソンが持つ定性情報を活用することが重要になります。営業パーソンは商談や営業情報の収集活動において、その会社や社長に関する情報を豊富に持っています。会社の資産が薄く与信に不安がある場合、信用を補完する要素が社長個人や一族、あるいは関係会社にないかどうか、営業パーソンに聞いてみるとよいでしょう。その際のポイントについてはまた改めて触れます。

グループや一族の関係を見る重要性

 取引先を関係者と一体としてとらえる重要性は、同族会社に限りません。中小企業でも一族の資産管理会社がグループを束ねるケースはよくあり、最近では大企業と同様に持株会社を設けていることもあります。取引先がグループの1社であれば、グループを束ねる、もしくはグループの収益の柱となる中核会社の動きを一緒に見て、与信を検討することが重要です。

 不動産登記の話に戻ると、登記からは社長一族が持つ不動産の所有形態から、会社の状態を推測できます。自宅についてはもちろん、本社の不動産がまだ先代社長の名義であったり、最近になって社長に相続されていたり、あるいは後継者である専務に相続されたり、といった情報がわかります。近年は中小企業の事業承継が社会一般の経営課題として注目されていますが、不動産の所有権の動きは、役員や株主の動きとともに事業承継の進み具合を見る材料情報になります。

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