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  • 金融円滑化法の話 ~企業再建の行方~

2014.01.24

[企業審査人シリーズvol.17]

「金融円滑化法が終了したって言いますけど、倒産はあまり増えてませんね」
帝国ニュースの回覧を渡しながら、青山が独り言のようにつぶやいたが、水田がすぐに乗ってきた。
「円滑化法は倒産の先延ばし策なんて言われとったから、期限が切れて動きはあるのかもと言われておったが、まだあまり気にならんね。アベノミクスで環境も変わったし、倒産が増えたとしてもその要因は複合的なものになるじゃろうから、直接的な影響は見えづらくなる一方じゃろな」
軽くつぶやいたつもりだったが、話がながくなりそうだ。

「青山君はどういうときに倒産が増えるか知っとるか?」
「やっぱり景気が悪いときには増えるんじゃないですか」
青山は午前中に片付けなければならない仕事を思い出しながら、そう答えた。
「そうじゃな。それは間違いない。しかし景気がよくなるときにも倒産は増えるんじゃ」
「景気がよくなるのに、ですか?」忙しいことを忘れ、青山は水田の顔をしげしげと見ながら聞いた。
「景気がよくなると急に受注が増えて、今までよりお金が必要になる。その手当が追いつかなかったり、手当の順番を間違えたりして、倒産してしまうことがあるんじゃ」
「運転資金需要が増えて、その手当がつかなくなるということですか」
「そうじゃ。言うことが審査っぽくなってきたな、青山君。まあ景気がよくなるとみんな気持ちが大きくなって、いい方向にあてこんで商売を進めるのが人の常じゃ。そうした心理に付け込んで詐欺を働く輩も増えるから、これから倒産が増えるなら、そういうことも要因になるはずじゃ」
「そうなんですね。勉強になります」

金融円滑化法の効果、倒産件数は減少へ

 2009年12月に開始された中小企業金融円滑化法(以下、金融円滑化法)が、昨年3月末に終了を迎えました。2008年のリーマンショック以降、中小企業の倒産件数は増加傾向を辿っていましたが、この金融円滑化法の効果もあってか、2012年の1年間の倒産件数は前年を2.1%下回り、2013年も7.1%減と減少トレンドとなっています。
 金融円滑化法は、正確には「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」であり、当時の自民党連立政権下、時限立法として施行されました。借入金の元本返済猶予を受けた利用企業が、猶予期間中に経営を改善して通常の借入返済を再開できるようになる、というシナリオを描いた法律でしたが、法律施行後も円高の進行や欧州危機、中国経済の失速など、中小企業の経営状況の本格的な改善には至りませんでした。このため、金融円滑化法は二度にわたり期間を延長されてきました。

不良債権予備軍の増加

 過剰債務や業績不振に苦しんでいた中小企業には助けとなったこの法律ですが、貸し手側である銀行においては不良債権の予備軍が増加したとの懸念があります。もともとバブル崩壊後、金融機関の不良債権問題は10年以上も続き、この間金融機関の破綻や公的資金注入、自己査定基準の整備と厳格化といった動きを経て、金融行政は不良債権問題の解消(貸し手の健全化)と中小企業の金融円滑化(借り手の健全化)の舵取りをしてきました。

こうした中、借り手の健全化に比重を置いた金融円滑化法の施行にあたり、金融庁は元本返済猶予を受けている債権について不良債権の引当基準を緩和し、「金利の支払いがあることを前提に、経営改善計画が1年以内に受けられる先においては不良債権として扱わなくても良い」としました。しかし潜在的な不良債権予備軍が増加しているとの指摘から、これ以上の期間延長はできないとの判断に至ったと見られます。

 この法律の施行期間において計画通り業況を回復しキャッシュフローを改善した会社は、文字通り延命できたわけですが、改善できなかった会社は今後も破綻に追い込まれる可能性があります。延命を支えてきた金融機関が結論を出して見切るケースも出てきています。今後はより一層、個別企業の営業キャッシュフロー・財務キャッシュフローの動きが注目されます。

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