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  • 下準備と営業支援 ~青山の初同行(後編)~

2014.04.11

[企業審査人シリーズvol.28]

「休憩室での秋葉との会話の2日後の夕方、与倉との同行を終えた青山が職場に戻ってきた。何だかうれしそうな顔をしているのを見て、「どう?ちゃんと聞いてきた?」と中谷が明るく声をかけた。

「ええ、一応聞けました。結論としては取引に問題ないと思います」と答えた青山の顔が明るい。
「いやあ、久しぶりに外に出ましたけど、やっぱり外でお客さまに会うのは楽しいですね」と言う青山に、
「でも決算書の質問は煙たがられたんじゃないの?」と中谷が聞く。
「私もそう思って聞き方には気を遣ったんですけど、むしろ相手も聞かれてスッキリしたような顔でしたよ」
「意外とそういうもんじゃ。相手にしたって、触れられたくないところにいつ触れられるかと、いつまでもヒヤヒヤするのはいやじゃからの。何でもスッキリして取引を始めるのが一番じゃ」水田が口を挟んだ。
「そうですね。私も初対面のお客さまにどこまで踏み込めるか、気になりましたけど、与倉君がしっかり信頼関係を作ってくれていたので、それに乗れましたよ」
 青山も自身の営業経験によって初対面の相手と関係をつくるのは苦にならなくなったが、こういう同行では営業担当と相手の信頼関係ができていなければ、同行が余計に関係をこじれさせるリスクがある。そう考えると、今回の同行はラッキーだったと青山は思った。

「その与倉君は何を聞いているか理解してくれたの?デリバティブ損失の話だったから、彼には難しかったんじゃない?」と中谷の質問がつづく。
「ええ、事前にあまり話す時間がなかったので、その場ではキョトンとしていましたけど、あとでしっかり解説しておきましたから、理解してくれたと思います」
「うちからも近い先だったけど、帰りはそんな時間があったのね」
「ええ、ちょっと喫茶店に寄りましたので・・・」青山が少しバツの悪そうな顔をした。
「いいわよ、それくらい。じゃあ、営業パーソンが決算書をもらったときにどこをチェックするかくらい、レクチャーしてくれたのよね」と中谷が言うのを、青山は「さて、報告をまとめますね」と聞こえないふりをした。

同行は下準備が大切

 審査担当が同行するときには、同行の目的を明確にした上で、現地で聞くべきこと、見るべきことを箇条書きにしておきましょう。そして、できれば事前に営業担当者にその内容を説明しておきましょう。
 同行相手がどういう反応をするか、営業担当であれば予想ができるため、聞き方について作戦を練ることができます。またそうした会話を通じて、訪問相手のお客さまと営業担当の関係や距離感をつかんでおけば、現地で戸惑うこともありません。

 さらに、営業担当の要望があれば聞いておきましょう。たとえば相手との関係で普段聞きたくて聞けないこと、言いたくても言えないことを営業担当は持っているかもしれません。同行するときに代わりができれば、営業担当にとっても価値のある場になります。言いたいことがある場合も同様です。同行の場でお客さまと営業担当の信頼関係を壊すようなことになるのは最悪の事態であり、それを回避するにはやはり下準備が大切です。
 こうした積み重ねで、同行や審査に協力してくれる営業担当を増やすのが理想です。付き合いが長くなると、営業担当は「今さら聞きづらいこと」をひとつやふたつ、持っているものです。「何か私から伝えたり聞いたりしてほしいことがありませんか?」と営業担当に聞いてみましょう。
 

同行による営業支援

 ここから先は審査担当の力量にもよりますが、同行するときには何かその相手について気になることがあって訪問するものです。ですから場合によっては厳しい質問をしたり、厳しい条件を提示したりということになります。
 ただ、そうした場面で営業担当とお客さまの関係を支援するならば、その場でお客さまから得た情報についてできるだけお客さまにフィードバックをするようにしましょう。例えば決算書を見せていただいたら、それについて感想や助言のようなことを伝えましょう。

 こうした動きがないと、相手は「見せたのはいいけど、どう思われたのだろう?」と不安になるものです。何かひとことでも返すことで、また素直に聞いてくれる相手であれば、「こういう状態になるといいですね」といった意見交換までできれば、審査担当の訪問が関係強化の一助にもなります。

 お客さま企業の財務改善や懸念払拭は自社の売上につながります。営業にブレーキをかける役割を負う審査部門ですが、一方で目利きにかなう先とは信頼関係を深める程度の営業感覚は持っておきたいものです。

 

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