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2014.07.11

新規取引開始申請書の制定運用
[企業審査人シリーズvol.41]

「新規取引開始申請書を運用していますか、か・・・」
 調査会社の横田が持参したアンケート・レポートを前に、3人の会話が続いている。

 「ええ。実務アンケートですし、より具体的な話をうかがって共有したいと思いまして。申請書を運用している会社は80%弱あります。この申請書にどのような項目を入れているかを聞いたんですよ」
 「踏み込んだことまで聞いたのね。こういうことは知ることができないから、ありがたいわ」と中谷が言った。
 「それによると、取引先については売上高、資本金、創業・設立年月、従業員数の順に高くて、70%を超えています。資本金が高いのは私の感覚からするとやや意外ですけど、未だに外形的な要件としては強いんですね。利益額については情報入手の難易度もあってか、当期純利益、経常利益、営業利益の順でそれぞれ40%台にとどまっています」と横田の解説が続く。 

申請書の項目

申請書の項目
 「項目は調査報告書とか添付資料とセットで見る必要があるけど、データベース化して管理するためにはやっぱりある程度、属性情報を揃えてもらわないといけないわね」
 「取引先の商流については、得意先が74%、仕入先が62%、主要扱い品目が55%と多くの会社で項目に入れています。8%と少ないですが、商流図という回答もありましたね」
 「商流図があるとすごくわかりやすいですよね。営業の手間は考えてあげる必要がありますけど、簡易な書き方を示せば何とかできなくもなさそうですね」と青山が口を出した。
 「そうね。営業が自ら情報を整理する意味でも役立つわね。ちょっと考えてみましょうか」と中谷も乗り気だ。
 「経営者については項目に入れているところは少ないようで、経歴の27%が最高です」
 「経営者の情報は形式化しづらいわよね。それに個人情報の取り扱いが難しい時代だから、不用意に情報を持つことによるリスクもあるわ。調査報告書とか外部の資料に頼る部分が大きいんじゃないの?」と中谷。
 「取引条件に関する項目はやはり多いですね。取引条件が96%とこれはまあ当然ですが、取引銀行が58%、取引限度額が51%と続きます。取引開始の経緯が49%、当初の予定月商が38%でした」
 「与信限度額を運用する会社には、予定月商は必須の情報になるわね。取引利益率は17%か。ホントは利益率とリスクのバランスを意識した運用ができるとよいのだけど、うちもまだ試行錯誤だし、他の会社さんでも取り入れているところは多くないということね」
 「ちなみにこうした項目の中で優先順位が高いものを5つ選んでいただきましたが、1位は売上高、2位は調査会社評点、3位は取引条件でした。4位と5位は経常利益・当期純利益で、項目としては少ないですけど重視されていることがわかりますね」
 「評点が2位というのはそれだけ与信判断が悩ましいということよね。横田さんたちの責任も重大だわ」
 「はい。気が引き締まります」と背筋を伸ばして見せた横田は続けた。

申請書への添付資料

添付資料
 「添付書類もお聞きしました。企業概要データが62%と一番多いのは当社のお客さまが多いこともあると思いますが、会社案内が47%、信用調査報告書が46%、ホームページ情報が45%と続いていて、商業登記は20%、不動産登記は9%と意外と少ないです。決算書は31%でしたね」
 「不動産登記は調査会社の報告書に添付される以上の情報を持っていないことも多いからでしょうけど、商業登記は意外と少ないわね。商業登記の情報は全部が報告書に載っているわけじゃないから、うちでは全件とっているわよね」と中谷が青山に話を振った。
 「そうですね。今日のレクチャーでも最初に話がありましたけど、商業登記は役員が辞めた理由を推測したり、事業目的の脈絡を確認したり、報告書に載らない情報も多いですよね」と青山は学習成果を誇示した。

 「新規取引申請時の課題として一番多いのは、情報不足による判断の難しさか・・・そうよね。これも審査部門の悩みだわ。営業からどうやって多くの情報をもらうか、が私たちの知恵の絞りどころよね」中谷が続ける。

格付けの階層

格付け階層
 「最後は取引先の格付についてです。自社で取引先の格付を運用しているという回答は62%でした」
 「結構多いのね。まあ、どの程度のものかというのはあるのでしょうけど」と中谷が目を丸くした。
 「それも聞いたんですが、格付は5段階がもっとも多くて、34%でした。でも3段階以下から10段階以上まで、回答はかなりばらついています」と横田が説明した。
 「格付を導くための要素も聞いたのね」と中谷の目線はすでに先に行っている。
 「はい。一番多かったのは調査会社の評点で79%でしたが、続いて売上規模・自己資本比率・借入のほか、財務指標が挙がりました。このあたりも、どれだけ情報が揃うか、揃わなかったときにどうするか、というところが悩みになんでしょうね。格付によって与信限度額を変えているとの回答が76%、決裁者が変わるという回答も35%ありましたが、一方で格付についての課題をお聞きしたところ、54%の回答者が『与信限度額に連動した運用が難しい』と回答しています。こうした部分でも、みなさんが与信管理規定の運用に課題認識をもたれていることがわかります」
 「なるほどね。まさにうちが抱えている悩みでもあるわ。与信管理規定の見直しに着手しようとしているので、社内で話を進める上でもこういう情報は参考になるわ。後日レポートが完成したら送ってね」
 「わかりました。アンケートでは自由回答で与信管理実務のツボやコツについても回答いただいたので、そういうものも入れておきますね」と中谷のリクエストに横田が応えた。
 「ありがとう。あ・・・そういえば、2時に部長に呼ばれていたのを忘れていたわ。戻らなきゃ!」
 中谷がコーヒーを片手に騒がしく会議室を出て行くのを、横田と青山はほほえましく見送った。

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 TDBカレッジのメンバーのみなさまにご協力いただいたアンケートの結果を、3回に分けて紹介させていただきました。解決策が得られるわけではありませんが、「やっぱりそうだよなあ」と、中谷のように課題を共有された方も多かったのではないでしょうか。
 TDBでも課題解決のための場やツールを考えてまいります。「こういうものがないか」「こんなことができないか」といったことがありましたら、カレッジ事務局へお寄せください。
 アンケートにご協力いただいたみなさまに心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

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