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  • 従業員・設備概要その2【設備情報】~報告書の読み解き方-6~

2014.07.25

[企業審査人シリーズvol.43]

「設備のほうは、いろいろ見るべきところが多そうですね」と聞いた青山に、横田が質問を返した。
 「実際、青山さんはどんなところを見ていますか?」
 不意を突かれたような顔をした青山は、「まず不動産をどれくらい持っているかと・・・・どこで商売をしているかというのも見ます。拡充計画があれば、それも商談の動きと合わせて確認するようにしています」と答えた。
 「いいですね。ここの情報からは大きく分けて、『営業状況』と『資産背景』が読み取れます。青山さんはさすがです。どちらもちゃんと押さえていますね」と言う横山に、青山はほっとした顔をした。
 「調査員は、どこに不動産を持っているかっていう情報源を何か持っているんですか?」
 「そんなものはありません。基本的には調査先への取材です。支店や倉庫といった事業拠点は、どこの会社も会社案内や名刺の裏に書いてありますからね。あとは不動産登記でわかることもあります」
 「不動産登記は、場所を特定しないと見ることができないんじゃないですか?」

不動産登記

「共同担保目録が使えます。担保設定が複数の不動産にまたがる場合は、ある不動産の担保設定を閲覧すると一緒に担保に入っている不動産の地番を確認できますから」
 「そうなんですね。不動産登記はまだあまり実務で使えていないので・・・」と青山がメモをとった。
 「ただ、共同担保が付いていれば、ということですけどね。あと、取材の場面では決算書をいただけたときに、照合します。社有の拠点はないと聞いたのに、貸借対照表に土地・建物が載っている、なんてことがあります。聞いてみると、社員寮としてマンションを数部屋所有していたとか、昔保養所として取得した熱海のマンションがあったとか、香港に倉庫をつくったときに出資した、といった話をいただけることがあります」と横田が説明した。
 「そういえば、こちらで所有を確認していたマンションが報告書に書いてないこともありました」
 「それは失礼しました。残念ながら、すべてを把握しきれていないケースもあります。もしその不動産が重要な意味を持つ場合は、調査をご依頼いただくときに住所と、不動産登記の閲覧を求める旨を指定事項として伝えていただくと、こちらもそれを踏まえた調査報告を行います」
 「それって、クイズの出題者がヒントを出す、みたいなものですね」と青山が舌を出すと、横田は苦笑いをした。「そんな意地悪を言わないでください。その手がかりをもとに数倍の情報を引き出せることもあるんですから」

「営業状況」としての設備情報

「設備概要」欄にはその会社の拠点と主要設備を掲載します。「事業所数」には内訳と推移を掲載していますが、これは従業員数の履歴と同様、調査の頻度に左右されます。また事業所数の内訳には、人が常駐しない拠点(無人倉庫や駐車場など)は含みません。
 「営業状況」としては、まず支店・営業所が調査先の商圏を示すことになり、取引先(主に得意先)の所在地と照合することで商圏をつかむことができます。また支店や営業所が社有物件になっている場合は、そこが「長い取引」を想定した重要拠点であると見ることができます。従業員数と同様、拠点の統廃合はその会社の業況や経営状態を表す重要な情報ですが、その変化については系列・沿革のページの「特記事項」欄に「新設」「閉鎖」などの履歴を、把握の範囲で掲載していますので、そちらを見てください。
 製造業の場合は工場の所在地を確認しましょう。工場物件が見あたらない場合は、生産を外部に依存したファブレスメーカーである可能性があります。「自社製造」を標榜しながら、実は製造を外部に委託している、という会社は意外と多いものです。それによってビジネスモデルはもちろん、抱える従業員も設備の中身も変わってくるので、製造実体の確認は企業調査の基本と言えます。
 なお、商業登記上の本店と実際の本店が異なる場合、実際の本店と別に登記面本店を掲載していますが、以前このコラムでも触れたように、実体に関係ない一等地に登記面本店を置いている場合、信用を嵩上げする意図を持っていることがあります。経緯を確認するとよいでしょう。

「資産背景」としての設備情報

主要な所有不動産については不動産登記写を添付していますので、併せて見ましょう。決算書が付いている場合は貸借対照表の固定資産、土地・建物と照合しましょう。
 設備についても同様で、減価償却費の規模と合わせて裏付けをとることができます。資産背景を厳密に見るためには時価評価が必要ですが、報告書では物件別の時価評価を示していません。その会社の資金調達余力の判定において必要な場合のみ、時価評価を示すことがあります。

新設・拡充計画の重要性

取材で把握しえた設備投資の内容を掲載していますが、情報性を高めるために、確定している計画だけでなく、その予兆となる未確定の計画についても掲載することがあります。設備投資は博打的な要素があり、景況を読み間違えて過大投資に踏み切ったものの、思ったような効果を得られず、その借入が重荷になって倒産する、というのはよくある事例です。
 取引継続先の与信では投資額と借入依存度、投資効果の実現状況を、営業担当者の協力を得ながらモニタリングしていくことが重要です。なお経営不振の会社が財務健全化を目的に所有設備を売却した、といった情報は「系列・沿革」のページの「特記事項」欄を参照してください。
 設備投資は購買や借入など、その会社の経済活動が広がる動きなので、自社に新たな商機をもたらすことが多いものです。自社の営業部門がすでにつかんでいる情報も多いとは思いますが、漏れがないように営業部門に情報を展開するとよいでしょう。

続き(従業員・設備概要その3【不動産登記】)は こちら

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