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  • 従業員・設備概要その3【不動産登記】~報告書の読み解き方-7~

2014.08.01

[企業審査人シリーズvol.44]

調査会社の横田による報告書レクチャーが続いている。

 「設備概要の話のついでに、不動産登記のことも聞いていいですか?」と青山が聞くと、横田がうなずいた。
 「うちの会社では不動産を担保にとったりすることはあまりないですし、報告書を読んでいても不動産はだいたい銀行が押さえちゃっていますから、実務ではあんまり意味がないんじゃないかって思うことがあるんです」
 青山は常日頃から思っていたことを口にした。横田の笑顔を見ていると、何でも聞ける気になる。
 「実務ではそうでしょうね。担保をとる、という個別の目的ではそうかもしれません。でも調査員の立場では、不動産登記はその会社全体の信用判断に欠かせないものだと思っています。青山さんの与信判断でも、きっとそうなんじゃないかな」
 「もちろん、取引先の資産の中身を確認することはできますけど・・・」
 「そうそう、それが大切なんです。私たちは不動産登記を見ずして報告書を書くことはできません。そして、不動産登記の変化がまた重要なんですよ」と横田が力強く言った。

不動産登記の変化

 「持っていた不動産を売却した、というのは大きな変化ですよね」と青山が確認するように言った。
 「そうですね。それは決算書の簿価の変化と一緒に確認したいところですね。他にはどうですか?」と横田が質問する。
 「不動産を相続したとか、取引銀行が変わったとか、新しい借金をしたというのもわかりますね」
「そうです。あと資産の中身という点で言えば、社有不動産の時価をはじいて、簿価の含みを確認することも大切ですね。決算書は取得原価主義ですからね」
 「決算書の金額は実態とは違うということですよね」
 「そうです。時価会計を導入していない場合は、土地は買ったときの値段がいつまでも載っていますから。時価会計を入れ始めたとき、有名な大企業が丸の内に持っていた不動産が話題になりましたね。当時の政府の払い下げによって数円で取得した不動産が長年簿価で載っていたという話題でした。時価会計が段階的に導入されて、上場企業ではそういう話もなくなってきましたけど、私たちが日々訪問する中小零細企業の決算書では、取得原価のまま計上されているものが大半です」
 「僕も審査課の含み損と言われないように頑張らなきゃ・・・」
青山の唐突なボケに、横田は失笑した。

不動産登記の意味

 一般企業でも、商社が信用力のない代理店に対して担保をとったり、救済の意味合いで卸し先に対して社長の自宅を担保にとったり、ということは「ない」わけではありません。しかし不動産を担保に取りたいと思う相手は概して信用度が低く、すでに多くの借入を抱えて不動産は銀行がすべて押さえているケースが大半です。
 したがって通常の与信管理では、不動産登記から実資産を推計したり、金融機関との取引履歴や関係性を裏付けたり、それらの権利関係の変化を確認したり、といった活用が主体になります。
 不動産登記は大きく分けて物件の概要(表題部)、所有権の動き(権利部の甲区)・担保権の動き(権利部の乙区)という3つで構成されています。表題部にある所在地や面積の情報は主に資産価値を計るための情報となりますが、取得年月日を見ることによって含みを類推できます。バブル期に取得した不動産であれば含み損があると見る、といった具合です。
 他にも事業に用いられていない賃貸用不動産や遊休不動産を保有している場合は、事業計画が頓挫して投資にムダが生じている可能性があります。

権利関係の変化に注目

 権利部の甲区、所有権については、差押えといった重要な信用情報が隠れていることがあります。相続税等の滞納による国税庁による差押えは珍しくありませんが、金融機関や民間企業による差押えは信用上の致命傷です。
 また権利部の乙区には担保権が表示されており、まったく情報がない先についてはここで取引銀行と支店名、各銀行との取引状況がわかります。担保には一度きりの抵当権と、「枠」として反復利用される根抵当権があり、抵当権についてはその価額から不動産取得時の借入額を推定できます。
 根抵当権は設定時期が重要であり、根抵当権として2億円が設定されていても額面通りに借入枠が用意されているケースは稀です。また一般個人が債権者となっている場合は、かなりの確率で高利貸しによる設定と見なせます。
 なお調査会社の調査報告書には社有不動産や代表所有の不動産について登記を写したものが添付されますが、特別に指示しない限り、設定された閲覧金額の上限までしか閲覧されません。
 特定の不動産について取得を依頼する場合や、不動産を重点的に見たい場合は、その旨を指定事項として調査を発注するときに調査会社に伝えましょう。また、どこに不動産を所有しているといった情報は、必ずしも調査会社がつかんでいるわけではないため、権利関係を確認したい気になる不動産がある場合は、調査依頼の際に所在地を伝えた上で、不動産登記の閲覧を指定事項として求めてください。

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