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  • 審査部門のペーパレス化 ~課長・中谷の取り組み~

2014.09.12

[企業審査人シリーズvol.50]

横田の1回目のレクチャーを受けた翌日の夕方、青山は中谷の声掛けに乗って、会社近くの居酒屋に向かった。終業時間の前後に営業部時代の同僚の長電話につかまった青山が15分遅れで到着すると、すでに中谷と水田、それに有能なアシスタント・千葉がテーブル席で待っていた。いや、待っていたのではない。すで に一杯目のビールが半分以上空いていた。
 「あれ?秋庭さんは今日も欠席ですか?」と青山が聞いた。付き合いがいいほうではない秋庭だが、今日はそうした理由ではないようだ。ひとしきり話をした後、中谷が青山の顔をまじまじと見ながら、言った。
 「青山も審査課に来てもうすぐ一年ね。配属が決まったときはびっくりしていたけど、すっかりなじんだわね」
 「そりゃもう、中谷さんにも水田さんにも千葉さんにもかわいがってもらっていますからね」
 青山は冗談半分、本音半分でそう答えた。まだ入社4年目の青山に比較の術は少ないが、最初に入った営業部は当然外出が多く、職場でいやなことがあっても外で発散できた。審査課ではめったに外に出ることがないが、そういう長時間を過ごす職場で、たいしたストレスも感じず仕事ができるのは、感謝すべき境遇だ。
 その後はまたしばらく四方山話が続き、酔いも回ったが、手洗いから戻った中谷が真顔で青山に聞いた。
 「あんた、うちの職場でここは何とかしたほうがいい、とか思っていること、ないの?」
 酔いが回ると「あんた」になる。昼間は「青山」という呼び捨てだが、夜はさらに粗暴化する。
「そうですねえ、職場環境には何も不満はないですけど・・・やっぱり紙が多いですよね」
「紙ねえ、そうよね。これでも秋庭君が来てから、だいぶデジタル化を進めたんだけど、まだよねえ」
「あんた」と呼びながらも、何でも素直に聞く耳を持つのが中谷である。だから、モノが言いやすい。
「私もそう思います。仕事柄、仕方がないのかな、とも思いますけど、もう少し何とかできないかなあ」とアシスタントの千葉もうなずいた。
 「池井戸潤さんの小説を読むと、銀行でも融資先の情報を紙のフォルダで管理しているわね。彼が銀行にいた頃に比べると、その後IT化されているのかもしれないけど、うちには大量の取引先フォルダが健在だわ」
知り合いでもないのに著名人を「さん」付けで呼ぶのは、中谷のちょっとしたこだわりである。
 「僕がいるうちに、何とかしましょうかね」と、青山は酔いも手伝って大きく出てみたが、中谷がすぐに言った。
「あんた、エクセルのマクロもまだ組めないでしょ。そこは秋庭君に任せればいいわ。あんたは現場の使い勝手を秋庭君にフィードバックしてやってちょうだい!」
「・・エクセル?そんな大口先があったかのう・・」と、酔いとともに眠りに落ちていた水田が顔を上げた。
「水田さんったら・・・。表計算ソフトの話ですよ。」と中谷が笑う。
「表計算ソフト?それくらい知っておるよ、俺だって。ロータス、いち、に、さん、よん・・・とか言ったな」
「水田さんの寝起きに乾杯!」と千葉さんがグラスを高く上げ、この晩最後の乾杯の声が響いた。 

審査部門のペーパレス化

 職場のペーパレス化・デジタル化は審査部門に限らず、会社の職場に共通の課題です。ただ、流行りだからと、よくコンセプトを固めずに進めてしまうと、後々使いづらい仕組みになってしまいます。
 ペーパレス化・デジタル化には、ペーパーやコピーなどの直接的なコスト削減、保管スペースの削減といった最大公約数の期待効果がありますが、こと審査部門のペーパレス化・デジタル化は主に次のような目的で進めるべきものではないかと思います。
①取引先データの一元管理・体系的な管理を容易にし、与信管理業務の質を高める
②営業部門の申請事務を簡素化し、情報が出てきやすい仕組みをつくる
③営業部門を含む社内で情報を共有し、各職場が自律的に考えて与信管理行動をとれる状態にする
  ①については、データ化により取引先の分類やリスク分析に役立てるのみならず、資料整理や雑務の手間を省いた分の時間を個別審査に充てる効用を含みます。 ②については、ユーザーとなる営業部門のITレベルにも影響されるところですが、どこかで思い切って切り替えるという見切りが必要と言えるでしょう。 

中谷の取り組み

  ウッドワーク社の審査課でも、課長の中谷にはそういう問題意識があり、やれることからやってきました。かつては個別審査に基づいた紙保存が主体でしたが、エクセルによるデータ化をこつこつ進め、デジタルに強い秋庭が来てからは、彼の貢献により与信申請書のデジタル化も進めました。調査会社の企業概要データ を企業指定で定期的に購入し、更新時にこのデータを申請書ファイルに自動表示して、営業部門が取引先の基本データを入力する手間を省きました。
 申請書類のデジタル化では押印処理が最大のネックでしたが、営業パーソンの申請時に上司が押印代わりにコメントを入力する形に改め、審査課の処理が済んだファイルを上司宛に戻し、上司が紙出力したものに押印して審査課に戻す流れにしました。これによって、帳票運用をほぼデジタル化しましたが、最終的な申請 書は未だに紙保存であり、審査時の添付書類とともに紙の取引先フォルダに保存するところは変わっていません。また、申請書データを取り込んで、企業概要データと経理課の債権データを月次でマッチングさせ、チェックに活用していますが、こうした処理は個別に仕組みを継ぎはぎした状態であり、まだすっきりした流れはできていません。
 「守り」と「攻め」の与信管理を標榜する中谷は、いずれは営業部門も巻き込んで、顧客管理データベースと与信管理データを一元化したいと考えているようですが、まだ道半ばのようです。

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