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  • 銀行取引・資金現況その1【借入先と借入】~報告書の読み解き方-17~

2014.10.17

[企業審査人シリーズvol.55]

「次は銀行取引・・・だんだん内容が重くなっていく感じがしますね」と青山が笑うと、「報告書の読み方から脱線したことまで説明していますからね」と横田も笑った。
 「銀行取引って、財布の中身みたいな情報ですよね。よく取材できるなあ・・・といつも思います」
 「それはもう、信頼関係ですよ」と横田は胸を張って見せたが、「資金面の情報を出さないと痛くもない腹を探られる、と思われている経営者も多いのだろうと思います」と付け加えた。
 「銀行取引状況の時点が書いてありますが、ここは基本的には決算期末ですか?」
 「いや、基本的には、調査時点で取材するようにはしているのですが、ここはひとえに調査先の公開状況にかかってきます。決算期末でしか作表できないときは、直近の変化について付記するようにしています」
 「取引金融機関については、都銀が多くて信用がある、くらいの見方でよいのでしょうか?」
 「都市銀行、地銀、信金・信組は、昔ほどではないにせよ、今でも融資先の棲み分けがありますし、企業側でも『うちも都銀と取引できるようになった』といった感覚を持っていると思います。そうした部分は借入の内容と一緒に見る必要があります。ビジネスローンと、信用で借りるのとでは、意味がぜんぜん違いますから」
 「取引銀行の数というのは、何かありますか?」
「これも一概には言えませんが、通常は主力銀行とサブ銀行を含めて2~3行、あるいは3~4行との取引という形になると思います。これを超えて、取引銀行が十数行もある多行取引は、理由を確認した方がよいでしょう。対行信用が確立していない状態や経営不振に陥った状態で、調達ルートを無闇に増やしている場合や、対外的な信用誇示のために分散させている場合があります。そこには信用の実態を隠す意図があります。また、銀行の取引支店が本店や代表の住所から遠い場所や関係が想像できない場所にあるようなときも、その理由をチェックしておく必要があります。普通は本店に近い場所を取引行とするはずですから」
 「なるほど、そういう見方があるんですね。取引銀行が多い方が、調達力があって良いと思っていました。借入額のほうは、多い、少ない、を見るだけでいいですか?」
 「借入額は総額の大小が一番のポイントになるでしょうが、銀行別の内訳についてはその時点の額というより、変化を追っていくとよいと思います。報告書には銀行別の内訳の履歴が残りませんが、時系列で見ると、どの銀行が突っ込んでいて、どの銀行が引いているか、ということがつかめます」
 「借入は銀行以外にもありますね。社長や役員から、とか」
 「ええ。これも重要な情報ですね。社長や役員からの借り入れというのは創業直後に発生しやすいものですが、それがずっと残っているケースが中小零細企業ではよく出てきます。負債にはなりますが、『社長が会社にお金を入れている』という意味では、資本金と置き換えることもできます。金融庁の金融検査マニュアルでもそうした見方をしてもよい、としています。 ただ、本来なら、社長だって自分のお金をいつまでも中途半端に会社に入れておきたいわけではないでしょうし、そういうものがいつまでもあるというのは、会社がそれを引き上げるだけの蓄財に至っていない、と見るのがベーシックでしょうね」 

銀行取引欄の見方

 金融機関名と取引の内訳(割引手形・短期借入金・長期借入金・定期預金)、その取引の時点を掲載しています。金融機関については、TDBでは全国銀行協会の銀行コードを用いてデータを管理しているため、ノンバンクやコードのない金融機関については「その他」とし、付記欄に金融機関名を掲載しています。
 取材状況については、調査員は調査時点の前月末の内訳数字を取材しに行きますが、入手状況によって前期末の数字になったり、内訳数字が判明せずに取引があることだけを「*」で示したりしているケースがあります。
 取引金融機関を特定するには、不動産登記の担保設定が重要なトリガー情報になりますが、そうした情報もなく取引金融機関が判明しないと、資金調達力を判定できないため、判明分報告となります。
 なおTDBが2014年3月に全国の金融機関に実施した融資方針に関するアンケート(全国の503の銀行・信用金庫・信用組合を対象都市401機関から回答)では「融資に積極的になる」「やや積極的になる」という回答が57.6%を占め、中小企業の金融環境は改善しつつあります。

中小企業の社債は私募債が多い

 会話の中には登場しませんでしたが、ここには社債の情報もあります。社債といえば、かつては上場企業などの大会社が発行するイメージでしたし、今でも社債審査が通るという意味で対外的信用のプラス材料ととらえることができます。ただ、上場企業の社債が市場を通じて広く流通するものであるのに対し、中小企業の社債の多くは私募債と言われ、特定・少人数から調達するもの、さらには銀行から社債という形で調達するものが大半です。
 私募債への担保差入要件の緩和や保証協会の保証を付けるといった金融政策、金融機関側の積極姿勢もあって、昨今は中小企業でも私募債による資金調達が増えています。社債は償還期限に一括返済するのが基本なので、発行会社は中長期で安定的な資金を確保できるメリットがあります。 

見極めが必要な社長・役員・関係会社からの借入

 社長や役員といった「身内」からの借入の見方については、横田が説明しました。返済期限が明確でない借り入れであり、「資本」と見なすことができる半面、企業の実態によっては内容を精査する必要があります。
 「事業者金融がこれだけあるのに、報告書の借入先にそうした業者が出てこないのはなぜですか?」という質問を受けることがあります。事業者金融から借り入れる場合、それを税務申告書などでわかるように示すケースは少ないと考えられます。
 代表個人が借り入れて会社に差し入れる形をとっているケースが考えられ、創業当初でもないのにこの部分の借入が急に増えたりしている場合は、チェックが必要と言えるでしょう。

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