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  • 銀行取引・資金現況その3【資金現況】~報告書の読み解き方-19~

2014.10.31

[企業審査人シリーズvol.57]

「5分、休憩をください!」と、横田を残して部屋を出た青山は、きっかり5分後に戻ってきた。
手には再びコーヒーのカップが2つ。「さっきのは中谷から、今回のは私からです」と、横田に差し出した。
 「ありがとうございます!青山さんはコーヒー大丈夫ですか?」と、横田がうれしそうにカップを受け取った。
 「私は、1日3回は飲みますから。横田さんは・・・大丈夫そうですね」
横田の顔に、「大丈夫」と書いてある。
 「じゃあ、次は資金現況・・・・マーキングの項目ですね。このマーキングの基準は、公開されていますか?」
 「いや、基準は企業秘密です。以前はマーキングの根拠を付記欄に書いていましたが、同じような文章がまた『現況と見通し』に出てくるので冗長だ、というお客さまのご指摘があり、今は説明文を『現況と見通し』のページの『資金現況と調達力』に集約しています。ここではざっくりと資金の状態をつかんでください。マーキングが左に寄っていれば良い状態、右に寄っていれば悪い状態です」
 「『業況(売上)』というところは、直近2期の売上を比較してマーキングしているんですか?」
基準は秘密と言われても、青山は探ってくる。調査員になったら、いい仕事をするかもしれない。
 「いや、そこは調査時点の状況を前年同時期と比べてマーキングしています。10%程度の増減は横ばいの範囲として、それ以上の増減がある場合に、それぞれにマーキングしています。ここが『大幅増加』や『増加』になっているのは、商売として基本的にはいい状態ですが、それでいて資金調達余力のマーキングが『ほぼ限界』」より右にあると、増加運転資金の手当が不安な状態、ということになりますね」
 「そうか、危ない組み合わせ、というのがあるんですね。『収益性』のほうはどうですか?」
青山の「取材」は先へ先へと進むので、横田もついつい話してしまう。
 「ここは経常利益ベースで、前期の状況と調査時点の状況を比較して判断しています。『悪く改善困難』というマーキングは、私たちもよほどの確信がないと付けられません。ですから、『悪いが改善可能』の見定めが重要ですね。その下の『回収状況』は、不良債権の発生状況で判断しますが、同じページの一番下に『不良債権の発生状況および処理方法』というのがありますね、ここに根拠となる焦付きが出ていることがあります」
 「マーキングの中で一番気になるのは、やっぱり、『支払能力』だと思いますが・・・」
 「そうですね。私たちもそこは一番慎重に付けているかもしれません。そもそも私たちの報告書は、その会社がお金を払えるかの判定を求められていますしね。支払能力が苦しい、というのは決定的な情報ですし。調査員も、あやふやな根拠ではマーキングできません。裏を返せば、『やや苦しい』より右のマーキングがある場合は、かなり精度の高い危険信号と見ていただいてよいと思います。ちなみにここは、手元資金の状態などから判断しますが、手元資金を補填できるかという観点では、『資金調達余力』と一緒に見ていただく必要があります」
 「『資金調達余力』も、同じように判断が難しそうですね」
 「ええ、その通りです。ここは、大きく言えば『借りれる状態か』と『借りても返せる状態か』という2点で見ています。ここの根拠は、『資金現況と調達力』を読んでいただきたいですね」

マーキングは全体を見る

 6つのマーキング要素は相互に関わりのある要素です。横田が言うように、まずはマーキングが全体として右と左のどちらに寄っているのかを見て、全体感をつかんでから、要素毎の状態を「資金現況と調達力」の説明によって確認する、という流れになります。
 評点の『資金現況』はここのマーキング内容に基づいて配点されており、評点全体における配点も比較的大きい部分です。バブル崩壊後の不景気局面では「業況減少・収益性は悪いが改善可能」という状態の会社が多く見られましたが、昨今は景気回復によって、業況の「増加」が増えてきています。
 運転資金需要が発生する会社では、必要運転資金額が増えることになりますが、その不足分を調達できるか否かがポイントとなります。すなわち、業況が「増加」以上+資金調達余力が「ほぼ限界」以下、の組み合わせは注視すべき状態となります。

不良債権は償却状況の確認を

 既述の通り、「不良債権の発生状況および償却方法」には未償却の不良債権、または最近1年以内に発生した不良債権(あるいは前期中に発生した不良債権)を掲載しています。償却済のものは「系列・沿革」ページの「特記事項」に履歴として蓄積しています。
 TDBで入手している債権者名簿の情報も、ここに反映されます。不良債権の償却は、販管費や特別損失の増加、あるいは貸倒引当金繰入額の増加として、損益計算書で費用処理されます。未償却分の処理予定は当然、業績見通しに影響を与えます。不良債権が散発している場合は、業績への直接的な影響を確認するとともに、「その会社の与信管理体制は十分か」あるいは、「業績不振によって、無理な営業をしていないか」といった観点でも見ておく必要があるでしょう。
 実際の調査の場面では、「不良債権の発生」というネガティブな情報は、必ずしも積極的に開示されるわけではありません。一方、調査をする私たちは積極的な開示を求めますが、それは、そうした情報の公開が調査先にとってプラスになると考えるからです。その会社の取引先が、「あの会社、不良債権が出たけど、いくらかわからない」という情報を得たときに、与信管理を行う側は、「よくわからないリスク」を最大に見積もって対処するものです。「損害額を明確に示しておく」ことは、そうした過大な見積もりや対応を防ぐことにもなり、調査先においても大切なことなのです。

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