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  • 貸借対照表~千葉さんのための決算書基礎講座-1~

2015.01.09

[企業審査人シリーズvol.66]

青山が江戸前の、いや、調査会社の調査員、横田のレクチャーを受けていた頃、審査課ではアシスタントの千葉が、かねてより課長の中谷にリクエストしていた「決算書講義」を受けていた。
 有能な事務員である千葉は、審査課の業務処理やデータ管理で存分に力を発揮していたが、「せっかく審査課に配属されたのだから」と、審査に関する基本的な知識を身につけたいと中谷に度々伝えており、それが実現したのである。
 「千葉ちゃんにはいろいろ助けてもらっているけど、さらに自分で勉強しようなんて、ほんとに偉いわね」
 「いえ、課長もお忙しいので図々しいとは思ったんですけど・・・時間をとっていただいてありがとうございます」
 「少し落ち着いた時期だから、大丈夫。お待たせして悪かったわ。今日は決算書について、ということだけど、決算書はどれくらい知っているかしら?」
 「私は短大でも簿記とか学んでいなかったので、まったくの素人です。本を読んで、貸借対照表とか損益計算書がどういうものか、というのは何となく理解したんですけど、そこからが進まなくて。実務の目の付けどころみたいなものがあれば、教えてほしいです」
 そう言う千葉に、中谷が相づちを入れながら答えた。
 「そうね。基礎から書いた概説書は山ほどあるけど、実務的なものって意外と少ないもんね」
 「中谷さんは、いつも決算書をどこから見ていますか?」
 「決算書の見方は人それぞれのところがあって、正しいかはわからないけど、そこから説明しましょう」
 「損益計算書から見るという人もいるけど、私は貸借対照表から見るわね。損益計算書はその1年間の成績表だけど、それが積み重なったものが貸借対照表だから、そういう蓄積を含めたその会社の今を見るのなら、貸借対照表だわね」
 「貸借対照表はどこから見ていますか?」と千葉が聞いた。
 「そうね、貸借対照表は左側の資産を見て、会社のお金が何に使われているかを見て、そのお金をどこから引っ張っているのかを右側で確認する、というのが基本だと思うけど・・・てっとりばやくその会社の安全性を見るなら、最初は右下の自己資本を見るわね。ここの剰余金に過去の利益が集積されているわけだから、ここを見れば、その会社が生まれてどれだけ利益を蓄えてきたかがすぐにわかるわ。報告書があるときは、最近の業績推移を見て、蓄えが過去のものなのか、今まさに積み上がっているのか、といった見方をするわね。その次は左上の現金預金かな」
 「そっちに行きますか」と千葉が言葉を挟んだ。
 「積み上げた利益が手元資金の厚みになっているかを確認するの。どれだけ自己資本が厚くても、不動産やら株やらに化けていたら、資金繰りはきつくなるわ。大きな会社なら、現預金が積み上がっているのは資金効率が悪いなんて言うけど、小さな会社だと単純に現預金がどれだけあるかが資金繰りを左右するわ。実際は月商の1カ月分もあればまあ無難かな、という見方が多いけどね」
 「現金預金が多い方がいい、というのはわかりやすいですね」
 「簡単に言うと、そう。ただ、細かくはいろいろ見なきゃいけないけどね。借入、とくに短期が多いと、すぐに返さなきゃいけないしね。資産にはいろいろあるけど、大きく分けると売掛金や棚卸資産といった商売の循環に関するもの、不動産や設備、敷金といった生産に関するもの、有価証券などの営業に関係ないもの、といった感じね。商売の循環に関する資産は少ない方がいいわ。仕入れたものが売れて、お金になるまでの期間が短いわけだから、そのほうが効率的よね。生産に関する資産は、それによって売上や収益が生み出されているか、という観点で見るわ。営業に関係ない資産は、リスクの高い資産がないかの確認が必要ね」
 「なるほど。やっぱりこうやって話を聞くと、すっと頭に入ってきます」と千葉が笑顔で言った。 

まずは貸借対照表から見る

 決算書の見方に正解はありません。人によって見方があります。しかし千葉のような素人にとっては、「人によっていろいろ」というのは答えになりませんから、中谷は自分の見方を伝えています。最初に型を教わって、それを自分なりにアレンジしていくというのが習熟の王道ですから、ここで紹介するのもその「型」のひとつとしてお読みください。
 中谷が示したように、貸借対照表の純資産、昔の表現で言うところの「資本の部」には、簡単に言えばその会社の長年の利益の蓄積が示されています。
 当期純利益から配当などの社外流出を差し引いた額が毎年ここに積み上がるのですから、その会社が設立されて通算でどれだけ利益の貯金をつくったのかがわかります。これに株主が出資した資本金を足したものが純資産ですが、多くの会社は純資産だけでは商売ができず、足りない分は、商売で相手に「かけ」で売ってもらう買掛金、銀行からの借入(=負債)によって賄います。この賄い方のバランスが貸借対照表の右側であり、その使い道が左側の「資産」に載っている形になります。

貸借対照表のダイナミズム

 「支払ってくれるお金を持っているか」という審査本来の観点で言えば、「資産」の一番上にある現金預金がどれだけあるかはひとつの着目点になります。現金預金の水準に絶対の安全値はありませんが、最低でも月商の1ヵ月分くらいはないと不測の事態に対応できないと言われています(1カ月回収が途絶えても潰れない、という意味です)。
 会社の生い立ちから見ると、どんな会社の貸借対照表も「左に現金、右に資本金」というバランスからスタートし、商売を始めると左(資産)に仕入れによる在庫、それを売ったことによる売掛金が加わり、右(負債)には買ったけどまだ払ってない買掛金が加わります。そのサイクルを回していてお金が足りなくなると、右に運転資金目的の短期借入金が加わります。  メーカーなら、自前でモノを作るための機械設備や工場不動産を買い、これらが左(資産)に載り、これを買うのに充てた長期借入金が右側に載る、という流れになります。
こうした基本的なダイナミズムを頭に入れて、それぞれのバランスを確認すると、決算書を分析しやすくなります。商売のサイクル(営業循環)に関わる科目は、金額が少ないほど資金効率の高い商売になっていることになります。設備は投資した分、売上増加や費用削減の効果が出ているかが評価のポイントになります。
 なお、貸借対照表の資産は、現金預金以外の資産はすべて取得時の価値が毀損している可能性があります。したがって、中身を定性情報とともに吟味していくことが重要です。また、「その他○○」といったよくわからない科目に多額の計上がないか(隠れた不良資産がないか)を疑うことが審査のベースとなります。
 

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【問314】以下の決算書本表のうち、「時点」の情報を示しているのはどれでしょう?

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