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  • 倒産動向とトレンド ~「未」年の審査人~

2015.02.20

[企業審査人シリーズvol.72]

「横田さん、長丁場で大変だったでしょうけど、助かったわ。ありがとう」
 江戸前調査員・横田による新米審査人・青山への「報告書の読み方」レクチャーは文字通りの長丁場となったが、最終回が終わった週末、審査課長の中谷が横田をねぎらう席が設けられた。といっても、会場はいつもの居酒屋である。中谷に青山、千葉、そして横田は財務のレクチャーをした小滝も連れてきた。
 「お酒、強いんですね」と青山が向かいの小滝に声をかけた。生ビールでの乾杯から10分もしないうちに、中谷に声をかけて店員に「ぬる燗でお願いします」と注文した小滝を、青山は見ていた。
 「私、吉田類さんの大ファンなんです。『酒場放浪記』で紹介された都内の居酒屋はほぼ踏破しました!」
 「私も『おんな酒場放浪記』は欠かさず見てるわよ」と、酒豪・中谷が乗ってきた。
 「安倍総理じゃないですが、これから女性がますます活躍する時代ですからね。青山君も負けずに頑張らないと!」と横田にポンと背中を叩かれた青山が肩をすくめて見せた。
 「それはそうと、こうして居酒屋にいても、多少は景気が回復してきたのかなと感じますね」と青山が言うと、
 「そうね。今日も席を予約しておかないと入れなかったわ」と小滝のお酌を受けながら中谷が続いた。
 「年末に喫茶店にいたら、居酒屋の店員が忘年会メニューの企画をしていて、去年より高めのメニューでいける、なんて言っていました。景気は少しずつ良くなっているんでしょうね」と、千葉も続いた。
 「金融円滑化法が終わって倒産が増えるという見方もありましたけど、法律が終わっても金融機関が柔軟にリスケに応じていることもあって、去年の倒産件数はさらに減りましたからね」と横田の解説が入った。 
 「倒産が減ると、横田さんのところはあまり商売がうまくないんじゃないの?」と中谷が横田に絡んだ。
 「よくそう言われますが、与信管理は管理コストですから、景気が悪いと削られるんですよ。そういう意味では世の中の動きとあまり変わりませんね。確かに倒産が多い時期はいろんな情報が出てきて忙しくなりますけど、私たちは倒産だけを追っているわけではないので」と横田が返すと、千葉の質問が入った。
 「調査会社で旬な話題って、ありませんか?」
 「そうですね。景気拡大局面では増加運転資金の手当が狂う会社が出てきますから、すでに債務が多い会社は、これからきつくなるところが出てきそうです。また、円安の進み具合でいろんな影響が出てきそうですね。あと、皆さんにはあまり関係ないかもしれませんが、休眠会社の整理作業が始まっているので、調査でそういう登記を見かけることになりそうです」
 「職権によるみなし解散ね。休眠登記が売買されてパクリ屋さんに利用されているけど、そうしたことが少しは減ったりするのかしら。小滝さんのほうはどうなの?」と中谷が小滝のお猪口にぬる燗を注ぎながら聞いた。
 「会計のほうはIFRSや米国会計基準を導入する企業が少しずつ増えていますけど、IFRSはまだ審議が続いていて、思ったより普及はゆっくりですね。IFRSは従来の財務諸表といろいろ違うので、本格的に始まると私たちも対応に追われそうです」と答えて、小滝はぐいとお猪口を空けた。
 「そうよね。ガバナンスの形態とか会計基準とか、大きな会社はどんどん複雑になるわね・・・まあ、倒産は減っているけど、伸びる会社を目利きすることを標榜する私たちは、今年も忙しいわよ!」
 中谷に肘でつつかれた青山が「今年も頑張りましょう、乾杯!」と、おもむろにジョッキを上げると、一同がそれに続いた。それは、審査人・青山のキャリアが本番を迎える合図でもあった。 

景気回復と倒産動向

 本格的な景気回復が期待される2015年ですが、それを裏付けるように2014年は倒産件数がリーマンショック後の最低件数となりそうです。景気回復は業種や地域による濃淡が大きいのが現状ですが、不況一色だった時期とは状況が変わってきています。
 一方、倒産の減少には金融円滑化法の終了後も金融機関がリスケに柔軟に応じていることも寄与しており、リーマンショック前の過大投資で過剰債務を抱えた企業や、もともと資金力が弱い企業が、業況拡大局面で運転資金需要に対応できるかが焦点になってきます。景気回復期には運転資金の手当ができないことによる黒字倒産が増えると言われてきましたが、各金融機関が「企業の目利き」に改めて取り組む中、円安の動向と合わせて倒産件数の推移が注目されます。
 また取り込み詐欺も増える時期ですので、今年も大型連休前の、食品や家電品の大口商談には注意が必要です。 

休眠会社の整理作業

 横田が触れた「休眠会社の整理作業」とは、商業登記を管掌する全国の法務局が実施するもので、本来は恒常的に行われますが、今回は商法改正に対応した2002年以来の大規模な実施となるようです。最後の登記から12年を経過した株式会社は「休眠会社」(一般社団法人・一般財団法人は5年経過すると「休眠一般法人」)と呼ばれ、2014年11月17日時点でそうした状態にあった会社は、2015年1月19日までに登記所の通知に基づいて「まだ事業を廃止していない」旨の届け出、あるいは役員変更等の登記をしない限り、登記官が職権により1月20日付で解散した旨の登記を行います(=みなし解散の登記)。
 なお、みなし解散の登記がなされても、3年以内に株主総会(一般法人は社員総会または評議員会)の特別決議によって法人を継続することができ、その場合は2週間以内に継続の登記を申請しなければなりません。

IFRS・米国会計

 IFRS(国際財務報告基準)適用企業、米国会計基準の適用企業は足してもまだ100社に満たず、適用企業の多くは外国に子会社を持つ国際的な大企業に限られています。適用企業では日本の親会社と海外子会社が同一基準で財務諸表を作成でき、また海外の投資家にとって投資情報の比較が容易になるため、投資を呼び込む効果が期待できます。
 ただIFRSについては包括利益など、従来の会計基準とは概念が大きく異なる部分が多く、当初は金融庁が2015年か2016年度に強制適用する可能性があるとされ、大きな話題になりました。その後の審議において強制適用は見送られ、本格的な普及はこれからになると見られています。なお、TDBでも米国会計基準・IFRSの財務諸表を収録し、財務データベース・COSMOS1および信用調査報告書の添付財務諸表として提供していますので、ご活用ください。 

審査の目利きを高める年に

 2015年は比較的穏やかにスタートしましたが、景気回復の局面は商取引が活発化し、新しい取引先が増えていく時期です。景気回復の流れの中で、景気のいい話も多くなりますが、こういう時期こそ、取引する相手が長く付き合える相手かどうかを「目利き」すべき時期であると言えます。
 「苦境期には人の本性が表れる」とはよく言いますが、好調時にも経営者の本当の姿が現れます。拡大路線を突っ走る経営者もいれば、改めて管理を強化する経営者もいて、そうした舵取りが会社の行く末を左右します。

 今年は「未」年。次々と商談にやって来る「未」(羊)をよくよく目利きしながら、自社の営業基盤と健全な未来を作っていきましょう。

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