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  • 税務申告書と別表 ~大事なものは「別」にある~

2015.03.27

[企業審査人シリーズvol.77]

飲み屋での税務談義が行われた翌週、審査課の青山がさっそく経理課の木下を訪ねた。

 「木下さん、忙しいところ悪いんですけど、税務申告書付の案件が上がってきたので、ちょっと見方を教えてもらっていいですか?」と、空いていた木下の隣に青山が座り込んだ。

 「いいタイミングですね。要点がわからずに雑誌のような分量を見るのはつらいですよね。一緒に見ましょう」

 「助かります。この表紙に書いてあるのが、所得と税額ですよね」

 「正確には『別表一』です。これは、すでに会計上の税引前利益から所得への変換計算が終わったあとの金額です。その所得に応じて税率を掛けて、最終的な税金を求めているのがこの表紙です」

 「なるほど。しかしこの別表をすべて見ていくのは大変そうですね・・・ズバリ肝の部分を教えてください」
 木下のマニアな語り口に3時間コースのレクチャーを予測した青山が、さりげなく釘を刺した。

 「そうですか、それぞれ面白さがあるのですが・・・では、『別表四』を開いてください」

 「四に飛びましたか。ええっと・・・はいはい。一番上に当期利益又は当期欠損の額、左に加算、減算・・・」

 「そう、所得の金額と計算に関する明細書です。前に損金不算入の話をしたのを覚えていますか?」

 「はい・・・思い出しました。ここで、会計上の利益と税務上の所得とのズレを直しているんですか」

 「その通りです。加算と言うのが利益を増やす計算、つまり損金不算入と益金算入。減算というのはその逆で、損金算入と益金不算入です。たとえば、加算には交際費等の損金不算入額、というのがありますよね」

 「あります!そうか、会計上は費用として交際費を計上したけど、別表四に書かれている額は損金にはならないので足し戻されている・・・と言うことですね?」

 「わかっているじゃないですか!そうです。もう少しつっこむと、その損金不算入となる交際費について細かく説明したのが『別表十五』になります。つまり、大雑把に言ってしまうと、ゴールが表紙の『別表一』、『別表四』が所得への計算、他の多くの別表は『別表四』や『別表一』の詳細やその根拠、みたいなイメージです」
 「その他の多くの別表の中で、見ておいた方がよい重要なものはありますか?」

 「『別表七の一』かな。欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書です」

 「これは・・・ああ、繰越欠損控除ですね。過去の赤字はこの欄の数、つまり9年間繰り越しができて、それ以降の黒字と相殺できる・・・ということでしたよね?」

 「基本的にはその理解でいいでしょう。赤字と言っても税務上におけるマイナスなので、欠損金といいます」

 「ここを見れば、過去にどれくらいの欠損金が出ていて、いくら累積しているかということがわかるんですね。9年分もあるから、損益計算書を並べて見るより楽ですね」

 「そこは早合点してはいけませんよ。例えば、2期前に大赤字が出てしまったが、前期にそれをカバーするほどの黒字となり欠損金が相殺されているというケースも想定されます。また、期限切れの欠損金は消えてしまいます。この場合は『別表七』には記入することがなくなり、添付されません。この会社は付いていますけどね」

 「そうなんですか」と青山が少しがっかりした声を出したので、木下が付け足した。

 「ここで全てがわかるわけじゃないですが、財務諸表と組み合わせて見ると役に立ちます。貸借対照表の繰越利益剰余金がマイナスの場合、そのおおよその内訳がわかったり、赤字が出ている会社では、それが稀なことなのか、過去も欠損金が出ていて繰り越されているか、といったことがわかったりしますよ」

 「なるほど。やはり情報は何でも組み合わせて見ないといけない、ということですね」と青山がうなずいた。

税務申告書の構成

 税務申告書を作成工程で見ると、1ページ目から順番に処理されているわけではありません。
 財務諸表とのつながりを確認するうえで肝の部分となるのは、会話の中にもあったように「別表四」と言えるでしょう。
 具体的に言えば「別表四」では、損益計算書の税引前当期純利益に、損金不算入や益金算入の項目を加算し、また損金算入や益金不算入の項目を減算して、所得を求める過程が記載されます。そして、申告書の表紙である「別表一」は、最終的な所得の金額と税額の計算結果が表示されることになります。
 すべてではありませんが、他の別表は「別表一」や「別表四」の詳細や根拠となるもので補助的な役割を果たしていると見ることができます。たとえば、交際費の計算(別表十五)、引当金の計算(別表十一)、償却資産の計算(別表十六)、寄付金等の計算(別表十四)は、別表四の各項目の根拠となっています。

繰越欠損金と別表七(一)

 青色申告法人において欠損金が生じた場合、平成20年4月1日以後に終了した事業年度については9年間にわたって欠損金が繰り越され、翌期以後の所得と相殺することができます。 会計上との違いによる注意点としては、「別表七(一)」にある累計の欠損金と、貸借対照表の純資産の部に計上される繰越利益剰余金のマイナス額とは一致しないということが挙げられます。
 どちらも、“過去の赤字の累計”という意味合いではありますが、税務上でいう欠損金とは所得ベースでのマイナスであり、かつ期限切れのものは表示されません。審査を行う上で申告書を入手していれば、「別表七(一)」に残っている数字から、黒字と相殺しきれていない過去の欠損金があることが読み取れます。また、その欠損金がいつ・いくら出たのか、ということや、通常の青色欠損なのか災害損失なのかといった、欠損金の種類も知り得ることができます。
 しかし、累計の欠損金額以上の所得が出たことで相殺により消えている場合もあり、記載がない期間が黒字続きだったとは言えません。業績を回復させて直近の赤字を埋めている場合もあるので、他の情報と合わせた見立てが必要です。

その他の別表

 会話には登場しませんでしたが、税務上重要な別表として「別表二」「別表五(一)」「別表五(二)」があります。
 「別表二」は同族会社の判定に関する明細書で、提出法人の株主と経営者が同一といったような、同族会社かどうかを判定するために使用し、留保金課税の要否である「別表三」につながります。上場企業では経営者は利益から株主へ配当をすることによって企業価値向上に注力しますが、非上場の同族会社であれば、経営者個人の所得税が高くなることを忌避して、利益を配当せず社内に留保することがあります。
 この場合、配当金が支払われるケースのみ所得税がかかると課税の公平性を欠くことになるため、同族会社では一定の条件を設け留保金に対して特別に課税する措置がとられます。

 「別表五(一)」は利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書で、税務貸借対照表とも呼ばれ、会計上の貸借対照表における純資産の部と対応する別表と言えます。
 「別表五(二)」は租税公課の納付状況等に関する明細書で、その名の通り、税金の納付状況が記載され、当期の納付状況のほか期末の残高が記載されます。これらの別表は、「別表一」「別表四」と合わせて申告書の骨組みになっています。
 

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