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  • 融通手形と経営者 ~2,000万円の失敗~

2015.05.01

[企業審査人シリーズvol.80] 

金曜日、いつものように中谷の誘いで、いつもの居酒屋に向かった青山は、店に入るなり、いつもの席に中谷しかいないことに面食らった。いつもは審査課の仲間がすでに3~4人集まっているからだ。

 「お疲れ様です。あれ?今日は私だけですか?」と、青山は聞いた。

 「そうよ、青山の異動の内示があってね・・・」と中谷がニコリともせず言うので、椅子に座ったばかりの青山は「え?!」と仰け反った。名前通りの素直な反応を見た中谷が、満足そうな顔を浮かべた。

 「・・・というのは嘘よ。後で千葉さんが来るわ」

 「定期異動の追加があると聞いていたので、ホントかと思いましたよ!人が悪い・・・」
 「まだ来たばかりなのに、異動するはずないでしょ。今異動されたら教え損だわ」

 千葉さんは1時間ほど遅れるというので先に生ビールで乾杯したふたりは、その日の昼間の出来事などをひとしきり話していたが、ふと青山が中谷に聞いた。
 「そういえばまた年度が替わりましたけど、中谷課長は審査課で何年目でしたっけ?」

 「ちょうど干支がひとまわりしたわ。この4月で13年目よ。青山がまだ中学生の坊主だった頃からね」
 「中谷さんって、今は審査では絶対的な信頼がありますけど、失敗したことはあるんですか?」
 「そりゃ、あるわよ。失敗をしてきたから、今の私があるのよ」と言った中谷のジョッキがもう空いている。

 「今まで一番大きな失敗は何だったんですか?」
 「そうね。大きな失敗というのは、損失額で言えばいいかしら。2,000万円というのが最大ね」
 「随分具体的な失敗ですね・・・・・でも、それは営業や当時の中谷さんの上司の責任もあるんでしょう?」

 「それはもちろん共同責任はあるけど、自分が審査を担当して判断を誤った失敗というのは忘れないわ」
 「その2,000万円はどういう案件だったんですか?」

 「そんなに珍しいことじゃないわ。融通手形をしていたのを見落としたのよ。そこそこ大きな工務店だったし、取引も長かったから、過信があったのは認めるわ。融通手形を始めて1年足らずの破綻で、直近の決算書から業績が悪いことだけはつかめていたんだけど、融通手形の形跡は読み取れなかったわ」
 「それはきついですね・・・手がかりなし、ですか」

 「ただ、後で考えると、経営者が変わったことについてもう少し注意しておくべきだったとは思ってるの。破綻した1年前に社長が交代したんだけど、前の社長が外から連れてきた人だったの」
 「でも、審査でそこまでチェックするのは厳しいですよね」

 「私も一度営業と一緒に会ったことがあったのよ。まあ、工務店の社長としてはちょっと違和感があったのよね。結局はそれだけ業績が悪化したということだと思うのだけど、そういう急場で融手に手を染めてしまうのは、やはり経験不足もあったのね。あら、千葉ちゃんが来たわ」

融通手形は倒産のカタチ

 融通手形については以前も取り上げました。資金繰りに窮した会社が、他の会社と結託してお互いに手形を振り出し、それを割り引くなどして資金を融通するものです。
 一時的には資金を手当てできますが、手形の決済日にはお金を用意する必要があるため、だんだん手形の金額が大きくなり、早晩決済資金の手当てがつかなくなり、行き詰まりを迎えます。
 「ここだけ乗り切れば何とかなるはず」との思いもあるのでしょうが、経営者がそうした心理状態に追い込まれるような窮地において局面が回復するケースは少なく、もはや運に頼るのと同じ状態と言えます。
 自分の会社の経営状態はそこまで悪くないのに、知り合いの会社の窮状に手を貸す形で巻き込まれてしまうケースもありますが、多くはありません。そういう意味では、融通手形は倒産の原因というよりも、倒産に至る形態といえるかもしれません。与信判断において融通手形を見抜くことは難しいですが、そうした不正な取引に手を染める背景にある、本業での業績不振、そして経営者のモラルの低さをどれだけ見抜けるかが重要と言えます。 

経営者の観察

 経営者のモラルを見抜くのもまた容易ではありませんし、審査担当者はそもそも与信先の経営者と直接接触する機会が少なく、そこは営業担当者のアンテナに委ねるケースも多いでしょう。
 ただ、経営者の人柄については日頃から情報入手に努めておきたいところです。営業担当者にとって与信先はお客さまになるため、往々にして与信先が強い立場になることが多くなります。 強い相手には誰もが同じような態度をとるものですが、弱い相手に対する態度は人によって異なってきます。
 商談における時間の守り方、名刺の受け取り方、態度、話し方、話の聞き方など、面談によって観察できることは多くあります。また世間話として趣味や休日の過ごし方を聞くことで、経済感覚や金遣いを知ることもできます。こうした定性情報の中に、その会社の体質や経営姿勢がたくさん埋まっており、場合によっては有事の対応を想定することもできます。業績が悪化している会社については、経営者がどういう人なのかについて情報収集するとともに、今後どうやって局面を打開していくのかという考え方や方針をヒアリングしましょう。

 営業にとって最高決裁者である社長と会うことは常に念頭にあるはずで、その目利きは営業の基本でもあるはずですが、長年の固定的な取引で窓口担当者が決まっている場合や、そもそも新規開拓が少ない場合などは、社長に会わずに取引が続いているケースも多いはずです。
 とくに経営者の資質が命運を左右する中小企業においては、継続取引の中でも社長と接点を持ったり、日頃の言動について情報を収集したりすることを営業担当者に意識付け、営業担当者の経営者に対する「目利き力」を養うことが、適切な与信判断はもちろん、営業機会の創出にもつながるはずです。
 
 

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