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  • 管理会計と後継者 ~経営者の悩み~

2015.05.29

[企業審査人シリーズvol.83] 

年齢が比較的近い審査課の青山と経理課の木下はすっかり打ち解けたようで、その週末もまた先日と同じ居酒屋で向かい合って乾杯をしていた。

 「木下さん、会計事務所の仕事って、社長の相談を受けることも多かったんですよね?」
 そうですね。私はコンサルタントというわけじゃなかったけど、かといって決算書や申告書を作るだけの裏方ということでもなかったですよ」
いつもはレクチャーモードに入る木下も、かつての自分を振り返るような目でリラックスしている。

 「いろんな社長がいますよね。そのあたりの思い出話も多いでしょうね」
 「数字への苦手意識が強い社長の相談は、よく受けましたね。それまでずっと『どんぶり勘定』のような状態だったのを改めて管理会計を導入したいけど、どこから手を付けていいのかわからない、といったケースです」
 「そういう社長には、やっぱり損益計算書や貸借対照表から教えるんですか?」
 「それもやってみましたが、逆効果でした。数字嫌いの人にとっては専門用語や数字まみれの決算書はわかりにくいですからね。ですから、まずは売上と原価の対応関係の把握から入ります」 

 「なるほど。原価計算をしっかり固めていくイメージですね。それで数字アレルギーは和らぎますか?」
 「売上と原価は商売の基本ですから、数字が嫌いな社長にもとっつきやすいようです。月商ベースで話をすすめるのも効果的でしたね。先月の売上とか直接かかった経費なら、社長もすぐに思い出してくれますから、順を追って年商ベースの話につなげて、個々の科目のすり合わせに入ります」
 「なるほど。いきなりコストカットとかの話になると、前提としてそれぞれの勘定科目の数字をある程度把握していないと難しいでしょうからね」
 「はい。売上については製品別か種類別か、または地域別かの区分をおおまかに分けて、それぞれ原価を紐付けていくようなプロセスから入ります。それから経費面は原価をはっきりさせて、主に外部要因によって価格が決定されるものと、社長の裁量でコントロールできるものと分けました」

 「なかなか面白そうですね。そうやれば、会計のプロとその業界のプロで、問題意識が共有できそうですね」
 「こちらの頭の中でも、科目名だけで把握していた実体が鮮明になって、それぞれの業界の特徴を知ることが出来るんです。土台が組みあがったら、社長が悩んでいる問題点を洗い出して、優先順位をつけて解決策を一緒に考えていく、というフェーズにようやく入ります」
 青山が面白そうな顔をしているのは、何も会計の奥深い世界に足を踏み入れているからではなく、営業担当時代に数字に疎い社長にいかに資料を出してもらうかに苦労したことによる共感である。
 「社長の悩みといえば、木下さんは会計以外の相談も聞いたりするんですか?」
 「中小企業の社長の悩みは多いですからね。とくに後継者についての相談はとても難しかったですね」
 「後継者問題ですね。代替わりって、一筋縄ではいかないんでしょうね」

 「製造業の会社で息子さんに少しずつ継いで行きたいんだけど、具体的なステップがわからないという相談を受けたことがありました。その時も、社長が考えている問題の洗い出しと共有から始めましたね」
 「そういうときって、具体的にどういうことが問題になっているんですか?」
 「私が担当した会社では、モノ作りの技術面は問題なく引き継げたのですが、経理の内容を息子さんに見せたことがなかったので、見積りとか請求書といった数字周りが不安だったようです。そこで、まずは息子さんを役員に登記しました。給与を役員報酬に切り替えて、試算表や決算書の説明のときに立ち会ってもらうことにしたんです」

 「なるほど、役員としての自覚をもってもらって、それを機に財務や経理にも携わってもらうということですね」
 「役員報酬は原則として、毎月固定の給料になります。自分の報酬をアップするためには、どれだけ売上が必要で、原価はどこまで抑える必要があるのか、ということから説明させてもらいました。そういう私のやりかたは邪道なのかもしれませんが、正しい進め方のノウハウがほとんどなかったので、素直に社長の感じている問題点を解決するための最短距離を辿った感じです。ただ、息子さんのほうも面と向かって父親でもある社長に言いづらい事があったようで、それが言えるきっかけができたと喜んでくれましたよ」

 「なるほど。後継者問題が多いということは聞いていましたけど、やはり事例を聞くとリアルですね」

会計面からも商流把握のヒントをさぐる

 今回の木下のエピソードは、いわば管理会計を具体的に施策する視点の話でしたが、ここではできあがった原価報告書を見る側の立場で、チェックのポイントを整理しておきましょう。

 以前にも月間取引量を通して商流を確認する話をコラムで取り上げましたが、決算書などの会計面からも商流の実態をつかむヒントをさぐることが大切です。売上から原価を差引いた売上総利益(粗利)は、商品やサービスのもつ収益力を反映しており、販売管理費を賄う源泉といえます。
 製造業や建設工事業においては、原価報告書の重要性が高く、その中から会社の状況をイメージすることができます。例えば、売上は大きくても粗利が少ない場合は、自社での生産能力を超えた受注をして外注費支出で利益を減らしているのかもしれませんし、売上が下がっているのに期末の材料や製品の棚卸が増えている場合は、ヒット商品の見込みが外れてしまったのかもしれません。

 原価報告書は業界により千差万別で、その会社の特性が出やすい資料といえます。損益計算書をはじめ財務諸表や定性情報は重要ですが、商材の流れの裏付けとしては原価報告書が良い助けになります。

事業継承の難しさ

 TDBの「2015年度の全国社長分析」では、2014年における社長の平均年齢は59.0歳と過去最高を更新しました。社長の高齢化が進んでいる半面、事業継承の遅れが問題視されています。
 中小企業においては、経営者が自らの経験で獲得してきた独自のノウハウが会社の強みにつながっていることも多く、複合的な要因が事業承継を難しいものにしています。また、木下が事例として話したように、何から手を付けて良いのかわからない、あるいは本業は引き継げるが相続など資産の継承については自分だけでは手がつかないという社長も多いのが現実です。

 TDBの調査報告書の代表者のページには「後継者」という項目があり、後継者が特定できる場合は「いる」と表示され、他のケースでは「未定」「いない」「未詳」の区分で掲載しています。このような情報は決算書などの財務資料からは判明し得ないものです。社長が高齢の会社後継者の存在、事業承継の進み具合といった定性情報を出入りする営業担当から吸い上げるといった形で、情報収集に努めることが大切です。
 
 

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