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  • 経営改善計画の話 ~平時にも備えよ!~

2015.06.05

[企業審査人シリーズvol.84] 

審査課の青山と経理課の木下の居酒屋談義がまだ続いている。事業継承のエピソードを聞いた青山は、経営者の悩みや持ちかけられる相談について関心を示した。

 「事業承継以外にもそうした印象深い相談はありましたか?」
 「そうですね・・・会社の経営には上り坂、下り坂、そして『まさか』があるとよく言われますよね。リーマンショックの時にその『まさか』という出来事についての相談がありましたよ」

 「あの時期は業界問わず景気が悪かったですね。売上が前年比半減なんて話もよく聞きました」
 「そうです。取引先が営業停止してしまって、売上が大きく下がってしまい、借入金の返済ペースを見直さなきゃいけないけど、どう金融機関と話し合いを進めていけばよいかわからないという相談がありましたよ」

 「それは深刻ですね。そういう危機的な相談にどう対応したんですか?」
 「あくまで私の対応ですけど、金融機関との交渉には『経営改善計画書』を作成して、今後の経営計画や、具体的な返済ペースについて協議を進める形をとりましたね」

 「今後の経営計画について、社長と話し合うんですか?」
 「その手のことは専門にするコンサルタントがいますが、小さな会社ではコンサルタントを雇う余裕がなかったり、そもそもニッチなノウハウで成り立っていて一般的なコンサルの手法がそのまま適用できなかったりします。なので、時と場合によっては私たちのような会計担当者が腐心しなければならないんです」
 すでにジョッキがそれぞれ3杯ずつ空いているが、アルコールが青山の好奇心に消し飛んだのか、居酒屋談義とは思えない硬い話が続いている。もっぱら木下は、こういう話だからこそ興が乗っているとも言える。

 「『経営改善計画書』というのは金融円滑化法が施行されていた頃に、リスケとセットで必要なものと聞いていましたけど、実際はどんなステップで作っていったんですか?」
 「私たちは現状の売上と損益の数字の動きは把握していたので、そこから売上回復にどれだけの見込みがあるのか、横ばいにとどまるのか、さらに下がってしまうのかというのを社長からよくよくヒアリングしましたね」

 「それは、取引先の今後の見通しを見極める審査の目線に近いじゃないですか」と青山が身を乗り出した。
 「そうですね。でも、そこの精査って大変なんですよ。それぞれのパターンに合わせて、かかる原価や経費について組み立てていって、どこに注力していけば良いのかを社長にじっくり考えてもらいます。こちらでは数字面でのサポートが中心となりますけど、そこで重要になってくるのは損益よりキャッシュ・フローです」

 「キャッシュの動きを営業、投資、財務に分けて・・・というやつですね」
 「そうです。直近1~2年分については月ごとに、それ以降の5年くらいまでは年間の損益と資金繰りを組み立てたこともありました。絵に描いた餅じゃいけないので、実現可能性を突き詰めていきました」

 「そういうのを突き詰めるときに、厳密な原価計算とかキャッシュ・フローの考え方が必要なんですね」
 「その通り。キャッシュ・フロー計算書は中小企業では作成が義務付けられていないので、作られてない場合が大半です。でも、会社の現金創出力や支払能力を明らかにするために必要な資料になりますし、本来はいかなる会社経営にも重要な考え方だと思いますよ」

 「私も取引先の業況が芳しくなくて判断に迷うときがありますけど、リーマンショックのような大きな状況があると、改善の可能性を見立てるのも簡単じゃなさそうですね」
 「そうですね。今後の事業計画について、売上アップを目指します、コストカットをしますと言うのは簡単ですけど、その実現可能性について根拠を見極める必要があります。そうしたプロセスを経て『経営改善計画書』が作られるわけですが、最後はその事業のプロである社長が金融機関との交渉の中で、説得力のある説明をしなければなりませんからね」

 「なるほど。そのための手助けをされていたわけですね。まあ長く商売をしていればいろいろあるわけですから、逆境で事業継続の強い意志をどれだけ説得力のある形で関係者に伝えられるかが、社長の腕の見せどころというか、力量になるわけですね」
 「そうです。まあ『経営改善計画書』を作るお手伝いをして思いましたけど、事業計画は金融機関に求められたから作るというのではなく、本来は普段から作っておくべきものだと思いますね」

経営改善計画書

 エピソードに登場した「経営改善計画書」は、経営状態が悪化し、借入金の返済が契約締結時のペースを維持できなくなったため返済計画を見直したい、といった場合に、金融機関との交渉のために作られることが多い資料です。
 税務申告書のような定型資料ではありませんが、経営上の課題や問題点、計画の基本方針と期間、改善目標のほか、直近の財務諸表と向こう5年前後の数値計画などが主に盛り込まれます。
 しかし、危機に瀕している中小企業がこうした専門性の高い資料を独力で作り上げるのは困難なため、この作業を顧問税理士や会計事務所に依頼することもあるでしょう。今は事業再生コンサルタントといったプロもおり、また金融機関や自治体によっては相談の受け皿となる部門や機関が設けられていることもありますが、費用面の問題も相俟って、勝手を知る顧問税理士や会計事務所に相談が持ち込まれるケースも依然として多いようです。

 与信管理の現場でも、得意先が苦境に陥り、厳しい与信判断をせざるを得ないことが往々にしてありますが、その見極めにおいて重要になるのは、その会社が挽回するための明確なビジョンの有無と、その実現可能性です。
 与信の継続のためには、取引先の立場であっても「経営改善計画書」と同様の内容を求めなければならない場面があるかもしれません。そこでの目利きによって、取引縮小でリスクを回避できるか、はたまた後々挽回した企業との取引を失う覚悟で手を引くのか、いずれにせよ与信の腕の見せ所となるでしょう。
 もちろん、業績が悪くなったときの対応策を経営者が常日頃から講じているかどうかを見極めることも大切です。

中小企業経営でも重要なキャッシュ・フロー計算書

 以前も触れたように、キャッシュ・フロー計算書は金融商品取引法において、主に上場企業等の有価証券報告書提出企業に作成が義務付けられています。
 中小企業には作成義務がありませんが、資金繰りの管理においては重要性の高い財務資料と言えます。またエピソードにあったように、「経営改善計画書」を作成する場面では、中小企業であっても資金計画として将来のキャッシュ・フロー計算書を求められることがあります。

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