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  • 役員報酬の変更 ~利益調整は簡単じゃない~

2015.06.12

[企業審査人シリーズvol.85] 

その日の昼休みが終わる頃、少々困った顔をした審査課の青山が、経理課の木下のところにやってきた。

 「木下さん、これなんですけどね」と青山はおもむろに木下の前に決算書を広げた。
「この会社、株主と社長が同じ同族会社なんです。役員報酬は自由に設定できるから、利益の調整がある程度できると思ったのに、うちの課長に見てもらったら、違うと言うんですよ。どう思います?」

 木下のほうは机の上にあったニッキンを閉じながら、涼しい顔で青山を見た。
「利益調整に使えるか否か、という質問については、できないと言わざるを得ないですね」

 「株主と社長が同一なら、役員報酬を決めるのは経営者自身ですよね?なぜ、できないという答えになるんですか?」と、青山はどうにも腑に落ちない様子で質問を返した。

 「役員報酬は定期同額が原則なんです。細かく言うと、決算終了後3カ月以内に開催される株主総会で、その期の役員報酬を定める必要があります」

 「テイキドウガク?」と青山は目を白黒させた。「期中で変更したらどうなるんでしょうか?」

 「例えば、役員報酬を毎月80万円と決めたとしますね。半年後に業績が思ったより良くなったから下半期の役員報酬を月100万円に増額した場合は、当初の80万円との差額である20万円の6カ月分である120万円が、税務処理上は損金不算入になるんですよ」

 「なるほど、会計上は処理できても、増額分に関しては損金にならず税金が減るわけではないんですね」

 「原則的にはそうです。会社の損金にならないのに自分の報酬を上げて、個人としての所得税も増えてしまうような選択をする社長はほぼいないと思います。だから、利益の調整はできないという結論になるんですよ」
勝ち誇った中谷の顔を思い浮かべた青山の顔色を見て、木下がフォローするように言葉を足した。
 「ただ、全てのケースで損金不算入となるわけではありませんよ。一定のやむを得ない事情がある場合は役員報酬の変更が許容されます」

 「それはどんなケースですか?」

 「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更といった『臨時改定事由』に該当する場合や、経営状況が著しく悪化してしまったといった『業績悪化改定事由』に該当する場合ですね」

 「なるほど。当初予測できなかったようなことになれば、そこは許容してくれるのですね。でも、今回の件はそのようなケースは考えられないなぁ」

 「もう少し補足すると、『やむを得ない事情』に合致するかどうかという判断は画一的には決められません」

 「例えば、今後業績が大幅に悪化する見込みが強い、といった微妙なケースはどうなるんでしょうか?」

 「ケーススタディにあたるのが良いでしょうね。国税庁から『役員報酬に関するQ&A』がリリースされていて、その中に解説がある事例であれば参考になるでしょう。Q&Aでは、期中に複数回にわたって役員報酬を変更したケースや、役員が病気で一時入院してしまったケースなど、想定される多くのパターンが紹介されているので、青山さんも一度見てみてください」

 「そうですね、見てみます。・・・同族会社でも役員報酬の決定や変更は簡単じゃないんですね」

 「決算期ごと年1回の改定はできますけど、その場合も当期の見通しから適切な役員報酬を設定するということなので、利益調整も簡単じゃありません。でも年次の役員報酬の推移は見ておく価値がありますよ」

 「そうか、課長に頭を下げるのも簡単じゃないなあ・・・」と言って帰って行く青山の背中は小さかった。

損金として認められる役員報酬の種類

二人の会話を補足しておきましょう。損金として認められる役員報酬には「定期同額給与」と「事前確定届出給与」および「利益連動給与」がありますが、実務上、原則的に用いられるのは「定期同額給与」です。

 「事前確定届出給与」については給与支払前に支払額と時期を決めて税務署へ届出をしなければならず、「利益連動給与」については同族会社では適用できない上、基準となる利益指標は有価証券報告書に記載されたものでなければなりません。このような理由から、役員報酬は毎月固定の定期同額給与となっているケースがほとんどと言えます。

定期同額給与

木下が説明したとおり、役員報酬は「定期同額給与」として毎月同額とし、改定は期首から3カ月を経過する日までに株主総会によって決議することが求められます。
 それ以降に改定を行った場合、差額部分は税務上、原則として損金不算入となります。業績が良くなったため期中で増額する場合のほかにも、最終的な法人の利益確保のために減額したといった場合も、役員報酬の改定前と改定後の差額部分が損金不算入となるので、注意が必要です。
 こうした期中改定の難しさがある一方、見方によっては基本的に役員報酬を1年に1度は改定できるとも言えます。与信管理の視点では、役員報酬の年度ごとの推移が重要な分析材料となります。同族会社が多い中小企業の決算書では、最終的な利益がほとんど計上されていなくても、相応の役員報酬が計上されていれば事業の収益性が十分あるとの判断につながります。逆に、役員報酬をほとんどとらず、無理に利益を出していることもあるかもしれません。

 今回の青山のケースも、審査で青山が単年度の決算書を見て、役員報酬が増えているのを期中に増額したのではないかとの見立てに対し、審査課長の中谷が否定したことから始まった会話でした。
 販売管理費に占める役員報酬の割合が大きい中小企業の場合、その収益性については単純に利益だけで結論付けず、役員報酬の推移も合わせて確認する必要があるでしょう。

臨時改定事由や業績悪化事由による改定

なお、木下が触れていたように、役員報酬を期中に変更しても、差額が損金不算入とならないケースがあります。
 一つは、「臨時改定事由」といい、役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情に該当するケースです。
 もう一つは「業績悪化改定事由」といい、経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由に該当するケースです。ともに会社法施行令に定められています。

 注意すべきは、期中での役員報酬の変更は、年次でまとめられる決算書だけでは把握できないということです。月ごとの推移を追えるケースは稀ですので、前述の通りまずは年次の推移をチェックし、取引先の経営状態や方針の変化を敏感に捉えましょう。

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