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  • 税効果会計の話 ~コーヒー党?紅茶党?~

2015.10.26

[企業審査人シリーズvol.99] 

居酒屋での課長の中谷による引継開始宣言があった翌週、青山はさっそく秋庭から「学習のために」と渡された上場企業案件の決算書を見ていた。しかし、損益計算書の下に「法人税等調整額」という見慣れない科目がある。
 営業畑から審査部門にやってきた青山は、新規の中小零細企業の決算書にはかなり目を通してきたが、上場企業については有価証券報告書すらほとんど見た記憶がない。戸惑った青山は、このところ社内のリフレッシュコーナーでランチをとっている木下へ相談を持ちかけることとした。そして昼休み・・・

 「・・・という事なんですよ」と、損益計算書とコーヒーを持ってやってきた青山が説明を終えると、サンドウィッチを食べ終えて紅茶タイムに入っていた木下は、さっそく「どれどれ」と身を乗り出した。
 「これは『税効果会計』ですよ。正直に話すと、会計事務所に勤務していたとき担当していた会社はどれも小さかったので、私も実務で適用したことはありません。でも、どういうものかは説明できますよ」と木下は手応えのある話に楽しそうである。
 「税効果…、法人税を調整しているということは、税務の分野の話なんですよね?」
 「そうですね。前に、損金算入・不算入とか益金算入・不算入といった話をしたのを覚えていますか?」
 「はい。会計上の収益・費用と税務上の益金・損金は必ずしも一致しない、という話ですよね。ズレた部分は申告書の別表で調整すると教えてもらいました」
 「そうなんですが、上場会社などの大企業だと、そのズレが必然的に大きくなるため調整が必要です」
 「なるほど。それが法人税等調整額、というわけですか」
 「法人税等調整額が表示されている場合は、対応する科目として、貸借対照表の資産・負債に繰延税金資産や繰延税金負債が計上されているはずですが・・・貸借対照表は持ってきていませんよね」
 「戻って確認してみます。ありがとうございました」と席を立とうとする青山を、木下が制止した。
 「いやいや、青山さん、それだけじゃわからないでしょう。『税効果会計』はそんなに単純じゃありません。会計と税務のズレについては、『一時差異』と『永久差異』という重要な概念があります」
 「そうなんですか。ではそのナントカ差異について教えてください」と青山は素直にペンを取り出した。
 「会計と税務の間に生じる差異です。まず分かりやすいのは、交際費などの『永久差異』です。これは、会計上は費用処理されますが、税務上では原則的に損金不算入となり、このズレは解消されないため『税効果会計』の対象外となります」
 なるほど。それで『永久』なんですか。ということは、『一時差異』はいずれ一致する、ということですか?」
 「冴えていますね。まさにその通りです。期のズレによる差異は、将来的には解消します。ですから『税効果会計』では、この『一時差異』によるズレを把握して調整するわけです」
 「ということは・・・当期決算を締めたら、会計上は費用計上した経費の一部が損金不算入になった。けれども、来期にズレは解消し、損金算入する見込みである、といった場合に調整するんですね」
 「今、青山さんが言ったのは、『将来減算一時差異』というやつです」
 「また難しいワードが出てきましたね・・・そうか、『一時差異』にはいろんなパターンがあるんですね」
 前向きな言葉を吐きながら、木下には青山が3mくらい後退したように見えた。
 「いやいや、そんなに引かなくても大丈夫ですよ。2種類しかありませんから。『将来減算一時差異』というのは、この差異が将来において解消するタイミングで課税所得を減額する効果をもたらすものを意味します」
 「当期は損金不算入となって税金が会計上より高くなったけど、来期は損金算入されてその分の税金が安くなる。だから『将来減算』ということですね。ということは、もう一種類は『将来加算一時差異』ですか?」
 「正解!意味としても、『将来減算一時差異』の逆ですね。これは私の考えですけど、会計の面白さというのは、いろいろな考え方や概念を、何とかまとめようと工夫を凝らしているところにあると思います」
 「木下さんの会計原則のレクチャーを受けてから、何のためにそんな会計基準があるのかを少し考えるようになってきましたよ。僕にも木下さんの会計センスが身につく効果が認められる、ということでしょうかね」
 「どうでしょう。会計好きな私は紅茶党ですが青山さんは相変わらずコーヒー党です。コーヒー好きと紅茶好きとでは将来加算と将来減算くらい真逆ですね」と木下が言うと、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

税効果会計と適用会社

 会計上と税務上の損益が必ずしも一致しないことは、以前に触れました。このズレが大きくなるケースでは、会計上の税引前及び税引後当期純利益と法人税等の対応関係が合わなくなってしまい、結果として適正な業績測定を損なう恐れがあります。
 極端なケースでは、税引前当期純利益が黒字だが、法人税等がその金額を上回ってしまい、税引後当期純利益が赤字になってしまうこともあります。そこで、税効果会計では損益認識のタイミングのズレによるものを「一時差異」として把握・調整します。ただし、税効果会計という仕組みはタイミングによるズレを対象としたものであり、交際費等の損金不算入額や受取配当金の益金不算入額といった将来的にも解消されない恒久的な差異、つまり「永久差異」は対象外となります。
 なお、税効果会計の適用は金融商品取引法の対象となる上場企業等については強制されていますが、非上場の中小企業においてはその適用は任意となっています。

「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」

 二人の会話にもあったように、一時差異には「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」があります。この将来減算・将来加算は、課税所得への加減算を意味しています。
 具体例を挙げると、会計上で賞与引当金を費用に計上したとします。しかし、税務上は損金不算入となるため税効果会計を適用しました。この差異は、実際に賞与が支払われるタイミングでは損金として認められ課税所得を減らす効果をもたらすため、「将来減算一時差異」となります。なお、税効果会計の処理として「将来減算一時差異」が発生した期に損益計算書上の「法人税等」を減らす処理をする一方で、同額の「繰延税金資産」が資産計上されます。そして、この差異が解消する期ではこの逆の処理がされ、資産計上されていた「繰延税金資産」も消滅します。
 しかし、一時期、金融機関の「繰延税金資産」が話題になったように注意も必要です。それは、「繰延税金資産」の計上により自己資本が増加しますが、将来の収益が見込めず税負担も発生しないといった税効果の確実性が低い場合はこの資産性が低下するリスクを含んでいるためです。なお、「将来加算一時差異」については「将来減算一時差異」と表裏の意味合いになります。

 上場企業においては有価証券報告書で税効果会計の注記がされるため、一時差異の発生要因や影響度合いを確認することができます。税効果会計は会計・税務双方の基本的な知識が求められることから難解と受け止められがちですが、その目的や範囲をしっかり理解することで上場企業における財務諸表分析の近道になるでしょう。
 
 
  
 

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