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  • 審査業務における「人の仕事」 ~審査愛!~

2016.08.01

[企業審査人シリーズvol.119]

その日、例によって審査課の数名がいつもの居酒屋に集まっていた。審査課は3月決算企業の審査で繁忙の真っ最中だが、金曜日は早帰り日で、緊急の用でもない限り会社には残れない。それぞれ片付かない仕事を机に残したまま、「とりあえず一息つこう」という気持ちで居酒屋ののれんを潜った。18時に退社して居酒屋に直行すると、外はまだ明るい。
いつものように中谷の音頭で乾杯し、ビールをグッと飲んだ。
「いやあ、去年は見習いでしたけど、自分で案件を持つと繁忙期は大変ですねえ」と、審査員として初めて本格的な繁忙期を迎えている青山が、腑抜けのような顔で言った。
「繁忙期が来ると、ああ、今年も夏だなと思うんだよなあ」と、秋庭もビールが染み入った顔で応じた。
「今年は今のところスムーズに捌けているけど、この時期に営業に何度も確認するようなややこしい案件が出てくると一気に滞るから、早目早目に捌いておきたいわね」と、中谷がまだ酔わない感じで発言すると、秋庭が懐かしそうな顔をした。「ああ、去年は確かに大変なのがありましたね。営業の丹生さん、なかなか引かなかったですね。長い付き合いだったから、出荷を絞るという話に怒った社長との板挟みでしたが・・・」
「そういえば、最近新聞にやたらとAIの話が載っていますけど、審査業務もそのうちAIがやってくれるような時代が来るんでしょうかね」と、青山が今朝の新聞記事を思い出しながらつぶやいた。
「ディープラーニングでAIの学習能力も進化しているらしいね。AIが審査の作業も学習してくれるのかな。審査も事例はいろいろだけど、ある程度パターン化はできそうだよね」と、もともと秋葉系の秋庭が乗ってきた。
「企業データを読み込ませて、“この会社は与信を拡大したほうがいいです”、なんて言ってくれるんですかね」と、繁忙期疲れの青山は目を輝かせている。
「私も最近、夜寝る前にスマートフォンにいろいろ話しかけて遊んでいるけど、なかなか賢いわよね」と中谷も乗った。青山は独身の中谷が部屋でひとりスマートフォンに呟いている光景を想像し、少し酔いが醒めた。
「AIというのは人工知能というやつかい。そうなったらわしも引退じゃな」と、ベテラン水田が投げやりなので、「いやいや、水田さんにはまだ引退してもらっては困ります。だって、AIが賢くなってある程度の与信判定をしてくれたとしても、それを営業に説明することまでAIにはできないでしょう」と中谷がフォローに入った。
「AIの説明に片言で応戦してくれるのは八木田課長くらいですよね」との軽口をスルーされた青山が慌てて言葉を足した。「そうですね。AIが結論を出せたとしても、なぜそうなのかを示してくれないと、われわれも説明できないし、営業も納得してくれませんよね」
「事前のチェックや簡易判定には使えそうだけどね。今のように忙しい時期には、事前準備でアラームを出してくれると、時短になるし人為的な見逃しを防げると思うけど」と、秋庭はAI推進派になっている。
「この前、総務の田畑課長とAIの話になったけど、いずれ自分たちの仕事がなくなっちゃうんじゃないかって、田畑さんはロボットに侵略されるようなおびえた顔をしていたわ」と中谷が思い出し笑いをして、話を続けた。 
「でも、要は機械でやれることは機械がやれるといいし、人でしかできない仕事に人が集中できるようになればいい、ということなのよね」
「そうですね。すべての仕事をやってくれなくても、必要な資料を探したり電卓を叩いたり、僕らがやっている機械的な作業をやってくれたら、僕らはもっと密度の濃い仕事ができます」と秋庭が同意した。
「危ない会社や案件は、匂ってくるものじゃ。AIには匂いは嗅ぎ取れんじゃろ!」と水田が元気になっている。
「そうですね。水田さんの経験をAIに読み込ませるには、まだAIは実力不足よね」と中谷が同調すると、水田が冷酒の盃をクッ!と空けながら気炎をあげた。
「わしは審査AIよりも、審査愛じゃ!」
「審査愛?」と聞き返した青山に、「AIをローマ字で読むとどうじゃ?青山君」と水田が真顔で返した。
「ローマ字で?ああ・・・愛。水田さん、去年は“ジャイアンツ愛”でしたね・・・」
青山が水田型ロボットを想像してみた。おやじギャグを言いながら煎餅をかじっているロボット・・・実現にはまだまだ多くの技術革新が必要である。

機械仕事と人の仕事

 このところビジネスにAI、つまり人工知能を活用する事例を新聞紙上でよく見るようになりました。工場では製造機械の故障予測、販売では顧客分析や過去事例の学習に基づく妥当な取引価格の算出など、AI技術は進歩とともにその活用範囲が広がりつつあります。会社の人事評価をAIが行う、ロボットが職場の上司となる、といった話も近い将来の可能性として取り上げられており、ひと昔前の近未来小説やSF映画の世界はすぐそこに近づいているのかもしれません。
こうした話は映画や小説としては受け入れても、いざ職場の業務に持ち込まれるとなると、否定的な意見を持つ人も多いでしょう。今まで自分がやってきた仕事が変更を余儀なくされ、場合によってはその一部や全部がなくなるという不安心理に駆られることもあるでしょう。しかし個人の趣向はともかく、仕事において機械と対決することは現実的ではありません。同じ物をロボットや機械を使うことで楽に、短時間で作れるのであれば、機械を使うのが合理的判断です。「手仕事」「職人技」の価値が引き合いに出されるかもしれませんが、「手仕事」「職人技」とは“機械と同じではない(機械にはできない)”成果を出す仕事や技であるはずです。
ロボットや機械にできることをそれらに任せることで、人はより創造的な、「人にしかできない仕事」に力を注ぐことができます。昔の人が定規を使って手書きでグラフを書いたり、何百回も電卓を叩いたりしていた仕事を、今のわれわれはパソコンのアプリケーションソフトであっという間に片付けています。そうした“進化”や“時代の変化”はこれからも避けられません。仕事において、機械は「戦う相手」ではなく「使いこなす相手」です。

審査業務における「人の仕事」

 さて一般論が過ぎましたが、審査業務はこれからどうなるでしょうか。与信先の企業情報を読み込むと、過去の判定事例の学習を活かして与信判定をしてくれる。財務データから過去事例に基づいてアラームを発信してくれる。そうしたことが、近い将来当たり前になるかもしれません。繁忙や疲労から起きるヒューマンエラーもなくなります。ただ、会話にもあったように、責任ある最終判断を行い、営業現場や経営層に説明するのは人です。また現在のAI技術は「過去事例」から学習したことは確実に処理しますが、経済環境や業界環境の未来の変化については、過去の統計に基づく予測はできても、ベテラン審査人・水田の「先読み」や対応力には及ばないでしょう。ただ、私たちはこれから、機械的な仕事が近い将来AIに置き換えられていくと考えて、「人にしかできない付加価値の高い仕事とは何か」を自問しながら、仕事をしていく必要がありそうです。

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