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  • 引当金の種類と要件 ~カフェ・レクチャー~

2016.08.29

[企業審査人シリーズvol.121]

繁忙期を何とか乗り越えた審査課の青山は終業後、経理課の木下と会社近くのカフェにいた。青山から久しぶりにレクチャーをお願いしたのだ。そろそろ・・・と思っていたところに、課長の中谷のプレッシャーも来た。
「青山さん、久しぶりのレクチャーですけど、今日は何のお話をしましょうか」
相変わらず木下はティーカップを、小指を立てて持っている。今日はダージリンのミルクティーである。
「前に貸倒引当金の話をしてもらいましたが、引当金には他にどのようなものがあるのかを教えてください」
「わかりました。では復習になりますが、そもそも引当金とは何か・・・というのは大丈夫ですよね?」
「将来の特定の支払や損失に備えて、貸借対照表上に計上されるものですよね」
「その通りですが、せっかくなので引当金の定義を正確に確認しておきましょうか。まず、引当金の対象は将来の特定の費用または損失であって、その発生が当期以前の事象に起因している必要があります」
「将来の特定の費用または損失、ということは、そもそもこれから出てくるものですよね。そういうものを見越して計上すると、正しい損益計算ができなくなってしまうリスクもありますよね?」
「そうです。たぶんこれから出てくるだろうと何でもかんでも費用や損失を先に計上するのは認められません。適正な業績測定ができなくなりますからね。会計原則のひとつ、『保守主義の原則』を覚えていますか?」
「そういえば去年、ゲリラ豪雨で帰れなくなったときに話してくれましたね。覚えています。“収益は確実なものだけ計上して、費用は漏らさず計上しましょう”という考え方ですよね」
保守主義とゲリラ豪雨がイメージとしてどう結びついたのか、青山は驚異的な記憶力を見せた。
「すばらしい!引当金の計上も、この『保守主義の原則』の考えに基づいて行われることになり、適正な業績測定を損ねるリスクを減らしていることになります。もちろん、過度に保守的な会計処理もNGですが」
「なるほど。引当金の計上要件を、あくまで当期以前の事象というこれまで起こったことが原因のものに限定しているのは、保守主義に基づくものなのですね」
「そうです。引当金の計上要件はさらに、“その発生の可能性が高く、かつその金額を合理的に見積もることができる場合”と続きます」
「それが“適度な保守主義”なのですね。でも、発生の可能性が高いという基準や、見積りの計算のところでは、その中身が肝心ですね」
「青山さん、冴えていますね!利益を多く見せたい経営者は、まだお金が出ていないことを理由にして、引当金を故意に低く見積もったり、最悪計上しなかったりという誘惑に駆られるかもしれません」
「なるほど。負債といえばつい借入金や仕入債務に目が行きますが、引当金も要注意ですね」
「まあ、定性的な事象と合わせて見ないと計上の妥当性はなかなか見抜けませんけどね。なお、引当金はさきほどの要件が揃えば計上しなければならないものです。“計上できる”ではなく“計上しなければならない”というところがポイントです」
ここで青山がコーヒーのお替りをすすめに来た店員にお替りをお願いし、会話が小休止となった。こういう小休止がないと木下のレクチャーはノンストップ状態となる。店員が去ると、木下はすぐに話を再開した。
「さて、次は引当金の種類の話をしましょうか。突然ですが青山さん、ボーナスは好きですか?」
「ボーナスが嫌いな人なんて、まずいないと思いますが。それと引当金と何か関係があるんですか?」
「ズバリ、賞与引当金という科目があります。会社を経営していく上では、従業員に賞与を払ってがんばってもらう必要があります。賞与は夏と冬の年二回というのが恒例ですよね」
「わかりました。その間に決算期がある会社は賞与を見積って計算し、期間配分するために賞与引当金を計上するんですね。適正な業績測定には必要な対応ですね」
「簿記会計脳が鍛えられてきたようですね。では、製品保証引当金は説明できますか?」
「電化製品を買ったときに保証書がついてきて、1年間の無償交換や修理が受けられることがありますが、それにかかる見積り、ということでしょうね」
「そうですね。保証内容は会社によって違いますが、アフターサービス費用について過去の実績率から見積計算するケースがよくあります」
「なるほど。そうやって考えると、会社の業態によって多種多様の引当金が出てきそうですね」
「確かにそうですが、あくまで引当金は将来発生する費用や損失で、キャッシュは出て行きません。なので、税務上は貸倒引当金と返品調整引当金を除いて、引当金繰入額は損金として認められていません」
「なるほど。木下さん、今日はありがとうございます」と、青山は満腹そうな顔で言った。
「今日の話で、明日から計上されない引当金の存在に注意してみようと思います。名探偵のように大きな損失や費用が隠れているのを見つけて見せますよ!」
ここで激辛の中谷課長ならば「私が将来に備えて“青山引当金”を積まなくていいように、しっかり頑張ってよ!」などと言いそうだが、紳士の木下はそんなことは言わない。
「そうすれば、わが社の将来の損失を青山さんが未然に防いでくれることになりますね!」
その日の久しぶりのカフェ・レクチャーは、こうして少々青春映画風に幕を下ろしたのであった。

引当金の計上要件

 木下が話した引当金の計上要件は「企業会計原則 注解18」に以下のように示されており、①~④の付番のとおり4つからなります。
“①将来の特定の費用又は損失であって、②その発生が当期以前の事象に起因し、③発生の可能性が高く、かつ、④その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載する”
 貸倒引当金は債権から控除する形になるため資産の部に表示されますが、それ以外の引当金は負債の部に計上します。また、これらの要件すべてに該当する場合は、引当金として計上しなければなりません。

引当金の種類

 代表的な引当金としては、同じく「企業会計原則 注解18」に以下の11種が列挙されています。
①製品保証引当金 ②売上割戻引当金 ③返品調整引当金 ④賞与引当金 ⑤工事補償引当金
⑥退職給付引当金 ⑦修繕引当金 ⑧特別修繕引当金 ⑨債務保証損失引当金
⑩損害補償損失引当金 ⑪貸倒引当金
一方で、税法上認められている引当金は上記の③返品調整引当金と⑪貸倒引当金のみとなります。また、発生可能性の捉え方が一律に規定されているわけではなく、見積り計算となることもあって、引当金は恣意的に低く見積られたり、引当金自体が計上されなかったりすることも、覚えておきたいポイントです。

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