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  • 財務諸表の注記の話 ~見落とすべからず~

2016.10.11

[企業審査人シリーズvol.124]

秋めいてきた木曜日、審査課の青山と経理課の木下は連れ立って「ランチ兼決算書勉強会」に赴いた。しかし、オフィス街のランチタイムは軒並み満席で、洋食屋のテラス席に案内された。ウッドデッキのテラスにはルーフがかかっているが、オープンテラスであることには変わりがない。痩せている木下が、少し寒そうにジャケットを着たまま言った。
「残念ながらメインフロアではなく外のテラスですね。決算書に例えると、本表ではなく注記項目かな・・・」
「注記ですか・・・・あまり気にしたことはなかったですね。あそこって補足情報みたいなもので、本表ほど気にしなくてもいいと思っていましたけど、そうじゃないんですか?」
冗談をスルーする青山の非礼を木下もスルーした。レクチャー開始のパスが出て、木下は満足のようだ。
「とんでもない!欄外だから重要性が乏しいとは限りませんよ!では今日のテーマは注記にしましょう!」
欄外・注記といういかにも玄人好みのテーマとなり、寒そうだった木下は上着を脱いだ。
「青山さん、割引手形や裏書手形の譲渡金額、減価償却累計額くらいはチェックしていますよねぇ?」
「それくらいは見ていますよ。手形の割引や裏書は貸借対照表だと受取手形からマイナスされますが、期日未到来の割引手形や裏書手形はまだリスクが残っていますからね」
「その通り。割ったり回したりして手元を離れても、不渡りになったら遡及されてしまいますからね。貸借対照表上の受取手形がゼロでも、多額の割引や裏書が注記されていたら、それだけリスクがあるという見方ができます。じゃあ、減価償却累計額はどうでしょうか?」
「貸借対照表で固定資産が純額表示されている場合に、減価償却累計額を確認することで、それらの取得価額を把握することができる、ということですね。」
「各資産の償却方法や耐用年数が記載されることもありますから、やはり無視できません。」
「そういえば、会計処理を変更した、というようなことが注記に書いてあるのも、見たことがあります。」
「おっしゃるとおり。『重要な会計方針に係る事項に関する注記』として記載されますので、有価証券や棚卸資産の評価基準、引当金の計上基準などを確認することができます。会計方針や決算書への表示方法を変更した場合も、注記に記載するルールになっています。」
「なるほど、こうして改めて話をきくと、確かに注記は審査でも見逃せませんね」
「上場企業になると、注記の情報量はさらに多くなり、重要性も高まりますよ。例えば、青山さんは偶発債務なんて言葉は聞いたことがありますか?」
「少し話題になりましたね・・・、偶発債務・・・。簿外の負債のようなもの・・・でしたっけ?」
「半分正解です。現時点ではまだ発生していないものの、将来、一定の条件がそろうと偶発的に発生する債務です。まだ正確な見積ができないので、引当金には計上せずに注記にとどめる、という扱いです」
「具体的にどんなケースがあるんでしょうか?」
「そうですね・・・。たとえば係争中の案件について、判決が下って損害賠償を負うとなると、金額が巨額になる、といったケースですかね」
「なるほど。それは確かに気になる情報です。注記にそんなリスクが隠れているんですね!」
「そうですよ。リスクという点では、借入に際して担保に供している資産についても、注記に記載されることがあります。可能性は低いかもしれませんが、借入金の返済が難しくなった場合、対象の担保供与資産が差し押さえられることが想定されます」
「なるほど。会社の規模が大きくなれば、借入金も、それに対応する担保も大きくなりますから、与信先の資産価値を精査する場合には、見落としたくないところですね」
「見落としたくないといえば、継続企業の前提に関する注記は青山さんもご存知ですよね」
「ゴーイングコンサーン、というやつですね。審査の勉強をはじめる基礎研修でも取り上げられました」
「そうです。注記についてはまだまだ話してないことがありますよ。上場企業の連結決算書で適用が増えている米国会計基準やIFRSでは、決算書の内訳が注記として説明されているので、注記だらけです」
話の区切りがついて、(青空教室も悪くないな)などと思った青山だが、次の瞬間にまだ料理を注文していないことに気が付いた。木下も同じような顔をしている。何より、談義の間、誰も注文を聞きにきていない。
「やれやれ、私たちは“注記の中身”としては重要性が低そうですね」と木下が言うと、青山が言った。
「木下さん、メニューの下に注記があります。『テラス席のお客さまはカウンターにて注文を承ります』?」
「それは重要な注記を見落としましたね。前はそんなシステムじゃなかったはずだが・・・」
ふたりはそそくさと立ち上がり、店内の注文カウンターに向かったのであった。

注記の必要性

会社法の規定による会社計算規則では、「重要な会計方針に係る事項に関する注記等」の項目に区分して、個別注記表を表示するよう求められています。また、それ以外にも、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書により、会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項を注記しなければなりません。また、実務上は必ずしも「注記表」といったワンシートにまとめられるわけではなく、貸借対照表などの注記事項として記載することも認められています。
代表的な注記項目を挙げると、以下のようなものがあります。
・重要な会計方針に係る事項に関する注記
・会計方針の変更に関する注記
・表示方法の変更に関する注記
・誤謬の訂正に関する注記
・貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書に関する注記

有価証券報告書における注記

上場企業が作成する有価証券報告書は、金融商品取引法によって作成が求められます。またその中に含まれる注記の内容は、中小企業の決算書よりも多様でボリュームも大きくなります。決算書に関わる注記であれば、連結・単独財務諸表の本表の後に【注記事項】として項目が設けられ、前述の会計方針などの注記に加え、「重要な後発事象に関する注記」が盛り込まれることもあります。
 また、二人の会話でもでてきた「継続企業の前提に関する注記」は与信判断にも直結する重要な項目です。
企業が将来にわたって継続していくという前提(ゴーイングコンサーン)に、重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在するケースとなり、具体的には売上の著しい減少、継続的な営業損失や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過などが該当します。有価証券報告書提出企業の与信管理においては、注目すべき基本ポイントと言えます。

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