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  • 改正個人情報保護法 ~青山たちの仕事始め~

2017.01.10

[企業審査人シリーズvol.128]

青山が勤めるウッドワーク社の仕事始めは5日の木曜日。12月28日の仕事納めからわずか1週間の休暇だが、青山は毎年改まった気持ちになる。スケジュール帳を新年のものに変えるのは毎年のことだが、今年は銀座の老舗文具店でボールペンを新調した。3色を使い分けられるドイツの文具メーカーの製品で、高価なものではないがメタル調のきれいなボディが気に入って購入した。青山は今年の冬休み、旅行など特別な予定はなかったが、年越しそばを食べ、紅白歌合戦を見て、除夜の鐘を鳴らしに行き、三が日はおせち料理を食べて初詣、そして街に出て初売りを覗いた。青山はこういう、時節を満喫する時間の過ごし方が好きだ。季節の巡りや積み重ねを感じることができるからだ。子供のころからそうした時間の使い方をしていた青山は、就職してから(こういうメリハリが大切だな・・・)と改めて感じるようになっていた。
 さて、青山の時節柄を大事にすることとは関係なく、6日の金曜日は新年のお酒を飲みたいという審査課長・中谷の誘いで、いつもの居酒屋に審査課が集まった。中谷の乾杯で、新年会らしい話題が始まった。
 「去年は焦付事故1件、被害額はわずか25万円と上々の1年だったから、今年はゼロにしたいわね!」
 「その30万円も手を引いて最後に残っちゃった、というやつだったからのう」と水田は最初から日本酒・・・?
 「水田さん、それ、日本酒ですか?器がお屠蘇みたいですけど・・・」と青山が違和感を口にした。
 「ああ、これはお屠蘇じゃ。マスターが正月の残り物を出してくれたんじゃ。ところで今年はまたいろいろありそうじゃの。トランプさんの政権が始まって市場がどう動くやら。ヨーロッパでもいろいろ重要な選挙があるようじゃし・・・」と水田が意に介さない様子で話を続けたので、青山もそのまま話に加わった。
 「フランスは大統領選挙でしたっけ。でも、国内は東京オリンピックまでは景気が続くんじゃないですか?」
 「そうだといいけど、中国の景気減速の影響も大きかったし、グローバル経済で日本が影響を受けないことは何もないから、何とも言えないわよね。まあ私たちのお客さんである建設業界はまだまだ良さそうだけど」と、中谷が水田の前にある屠蘇器の銚子を振っている。自分も飲みたくなったようだ。
 「円の動きによって輸入材の仕入れに影響が出るし、うちの調達部も今年は苦労しそうじゃのう」と水田が中谷に盃を渡してお屠蘇を注いだ。
 「この前、銀行に勤めている知り合いが、改正個人情報保護法の対応が大変だって言っていましたよ。外国に情報を出す時に本人の同意を得なきゃいけなくなるとか・・・」と、ビール2杯目の秋庭が話に入って来た。
 「今年の春の改正ね。相手国の個人情報保護のレベルによっても対応は違うようだけど」
 「僕らの仕事にも影響があるんですか?」と、青山が中谷に聞いた。
 「私もあまり詳しくないから、この前に調査会社の横田さんから聞いた話だけど、個人に関する情報の一部について扱いが厳しくなるようなことを言っていたわ。“要配慮個人情報”だったかしら」
 「要配慮個人情報・・・。ホントですね。人種、信条、社会的身分、病歴、前科前歴、犯罪被害情報など・・・とありますね」と、審査課で一番の情報通ならぬ「検索通」の秋庭がスマホから読み上げた。
 「扱いが厳しくなるとは、具体的にはどうなるんじゃ?」と水田が聞くと、秋庭が答えた。
 「取得については原則として事前に本人の同意を得る必要がある、とあります。これらの情報については他の情報よりも高い規律を求める、ということのようですね」
 「差別があってはいけないけど、取引先の与信を見る側からすると微妙なところもあるわね」
 「そうじゃな。要配慮個人情報といっても、中小企業の与信では経営者の前科前歴などのネガティブ情報は避けて通れんからのう。情報がある状態で判断するのと情報がない状態で判断するのは違うからの」と、水田も中谷に相槌を打った。
 「個人情報に限らず、そうですよね。僕たちの仕事はリスク管理ですものね。ネガティブな情報は誰も公開したがらないけど、そういうことを前提にネガティブ情報を集めたり突き止めたりするのが僕らの仕事ですよね」
 「青山君も審査人らしいことを言うようになったのう!」と水田が隣にいる青山の肩をポンと叩いた。
 「ちょっと補足すると、与信管理という仕事のひとつの本質はそこにあるわけだけど、私たちの審査課は“良い会社を目利きする”ことも標榜しているわよね。そこをやろうと思ったら、その会社のもっと定性的な分析や情報収集が必要になるわね。ネガティブ情報をキャッチしてリスクを取り除くのが審査部門の最大公約数のミッションだとすれば、“良い会社の目利き”は理想形の追求ね」と中谷が言うと、青山が頷いた。
 「過去の経歴が未来を左右することはあるが、必ず左右するわけではない・・・今の話は、そういう風にも言えますね」と、できるアシスタントの千葉が言うと、水田が深く頷いた。
 「もっと言えば、誰にも今から始めるチャンスはある、ということじゃの。でも、そのチャンスを提供してくれる相手には、ちゃんと情報を開示して理解を得るのが礼儀であり、基本だ、ということでもある」
 水田がまとめて、一連の会話が終わり、その後あちこちに話が飛んで、お開きの時間がやってきた。
「今年もいろいろありそうだけど、このメンバーで今年も頑張っていきましょう。今年は酉年。羽ばたくわよ!」
 そう言って酔いの回った中谷が手をパタパタさせたが、水田が「鶏は羽をバタバタしても、飛ぶのは無理じゃ」と言うので、一同大笑いしながら店を出た。ウッドワーク社の審査課は今年も明るく幕を開けたのであった。

個人情報保護法の改正

2015年9月に改正個人情報保護法が成立し、全面施行日が2017年5月30日に決まりました。この改正では個人情報取扱事業者の監督権限が各分野の主務大臣から新たに設置される個人情報保護委員会に一元化され、取り扱う個人情報の数が5,000以下である事業者を規制の対象外とする制度が廃止されます。また会話中にあったように本人に不当な差別や偏見が生じる可能性がある個人情報を「要配慮個人情報」として、取得に原則として本人の同意を得ることが義務化されます。また外国にある第三者に個人データを提供する場合に制限が設けられるなど、総じてより厳しい保護・管理が求められる内容になっています。運用の細部について各社が情報を収集しながら対応を検討している段階ですが、与信管理においては経営者等に関する情報が従来より得にくくなることが想定されます。
こうした動きは個人情報を保護する時代の流れですが、こうした時代では「利害関係者に必要な情報を正しく開示する」という当事者の情報開示姿勢が重要になり、その姿勢自体が評価対象になりそうです。昨今の不祥事報道において「起こしてしまった内容」よりも「その後の対処」で印象が大きく左右され、とくに「隠したこと」が「起こしたこと」以上の非難を浴びているのは、その表れと言えます。
企業審査においても、個人情報が適正に管理されなければならない法律の趣旨を理解し、業務にあたる必要があります。過去のネガティブ情報だけを重視する保守的な運用では、法律の趣旨に反するどころか、自社の商機を逃すことが増えるかもしれません。一方で、個人情報に限らずネガティブ情報の収集は企業審査には欠かせません。流通する情報を確実に集めつつ、流通しない情報をどう集めていくか、審査パーソンの情報収集力が改めて問われる新年になりそうです。

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