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  • 会計事務所と調査会社・異種交流会(前編)

2017.03.21

[企業審査人シリーズvol.133]

暗い夜道の中、青山は足早に約束の店に向かっていた。約束の・・・といっても、相手はおなじみのメンバーである。課長の中谷、調査会社の横田、経理課の木下・・・確かにおなじみなのだが、青山にとって楽しみなことがある。調査会社の横田と経理課の木下は今日が初対面なのである。昨年の秋、経理課の木下と例によって夕食を兼ねた財務談義(レクチャー)をした帰り道、調査会社の横田の話をしたところ、木下が興味を持ったので、「ではそのうち場を設けましょう」と青山が約束し、諸々の調整の末、今日になったのだ。とはいえ、二人を引き合わせるのが目的ではなく、酒豪の中谷と子分の青山の酒席にゲストが2人加わる、といった体である。
 そういう席に青山が遅れて向かっているのには訳があった。営業部に差し戻した与信申請書について、営業担当と話をしていてこの時間になったのだ。対象となる販売先は10年ほど取引がある建材商社なのだが、3年ほど前からあまり情報を出さなくなっていた。調査会社の報告書を見ると、それまで開示されていた決算書が非開示となっており、業績は概数ながら下降線を辿っていた。昨年からは太陽光発電システムを扱って挽回を図ろうとしているとあるが、3年前に開示されていた決算書では、本社新築の残債もあり借入金が月商の7カ月分と多い。手元資金も月商を少し割る程度しかない。「要注意」と判断した青山は、前年同様の与信枠申請を保留し、決算資料の開示と現金回収の交渉を営業担当に打診した。営業担当にとっては毎期コンスタントにフローリング材を捌いてくれる先であり、案の定、先方と改めて交渉することに抵抗感を示した。営業担当が3年目の若手社員ということもあり、なぜ注意しなければならないのか、交渉をどう進めればよいのかといったことを説明し、青山が後日同行訪問することで話がついて、この時間になったのである。
 30分遅れで約束の焼鳥屋の暖簾をくぐると、すぐ右手のテーブルで見慣れた3人が揃って手を挙げた。
 「遅くなりました!乾杯!」と青山が生ビールのジョッキを差し出すと、中谷は日本酒のお猪口で、横田は焼酎グラスで、木下はワイングラスで応じた。木下の前には、焼鳥屋なのに赤ワインがデキャンタで供されている。何とも統一感を欠くテーブルだが、初対面の2人がリラックスした顔をしているのを見て安心した。
 「いやあ、私にとっての先生がこうして一緒されているのは、何とも感慨深いですねえ」
 「どんな堅い人が来るんだろうと思っていたけど、なかなか面白い青年ですね」と横田が言えば、
 「どんな怖い方が来るんだろうと思っていましたが、気さくな方で安心しました」と木下が笑っている。
 「木下さんは会計事務所出身ですけど、会計事務所と調査会社って接点はあるんですか?」
 青山がふたりに聞くと、課長の中谷が「なさそうな印象だけど、どうなの?」と乗ってきた。
「普通の会社の調査と同じように、会計事務所そのものの調査に伺ったことはあるけど、それ以外で会計事務所と直接やりとりすることはあまりないかなあ」と先に横田が答えると、木下が続いた。
「僕は調査会社の方にお会いするのはこれが初めてです。ただ、クライアントの社長から情報開示の相談を受けたことは何度かありますね。同僚は調査に同席したこともあると言っていましたよ」
 「そうだ、そういえば僕も調査で税理士さんが同席したことが一度だけありましたね。決算書のことがよくわからないから、ということで社長が同席を頼んだということでした」
 「会計事務所はクライアントの情報について守秘義務がありますから、調査会社に直接情報を提供することはもちろんありませんし、そういう意味ではあまり接触を持たないようにしている面もありますね」
 「そうでしょうね。こちらもそういう理解なので、接触を試みることはないのですが、中には調査先の社長から決算書は○○事務所で聞いてくれ、と言われることがあって困ることがあります。もちろん、社長から直接担当の税理士に連絡して、ということになりますが」と横田が笑うと、青山がうなずきながら言った。
 「なるほど。近い分野の情報を扱っているけど、それぞれ目的も顧客も違うから、あまり交わらないのですね」
 「僕たちは特定のクライアントの財務に深く関わってきましたけど、横田さんの仕事は多くの会社を広く見なきゃいけないから、大変だと思います。決算書だって、僕が見てきた数の数倍はご覧になっていますよね」
 「われわれは木下君のような専門的な知識は持ち合わせていないからね。木下君の仕事に比べれば“広く浅く”になります。決算書も簿記のように作る側の技術よりも、読み解く技術が求められますね」
 「そこは私たち、企業審査も同じよね」と中谷が言うと、青山も同感して言った。
 「僕は読み解くのに困ったときに、作る側の事情を木下さんに聞いている、ということになりますね」
 「作る側はその会社の経営実態を表すように、会計原則に沿って決算書を作るわけですけど、それでも中には粉飾決算みたいなものも出てくるので、読む方も大変ですね」と木下がワイングラスを片手に横田に言った。
 「粉飾決算は端的な例ですけど、僕らからすると決算書はその手前で経営者の意図がいろいろと反映されているように思いますね。法的に問題がなくても、節税目的とか利益を出したい目的とかで、いろいろ操作をすることがありますからね。昔、新人を調査に連れて行ったときに、先方の社長が決算書を見せながらヒソヒソと節税の話を始めたのを見て、『脱税ですか』と新人が言って、慌てたことがありました。一般的な節税の話だったんですけどね」と、横田が思い出し笑いをすると、木下もうなずきながら言った。
 「脱税と節税は法律の線引きがありますが、確かに程度問題という側面もありますね。粉飾の中にはグレーなものがあるのも確かですが、センセーショナルに報道されるのを見ると少し違和感を持つことがあります」
 そんな話を、4人は目をキラキラさせながら続けている。青山と木下は場所を選ばず会計談義をしてきたが、4人になっても結局は審査や財務の話になっている。それが4人の共通の話題だから当然とも言えるが、「みんな仕事が好きなのだ」ということもまた言えるのであった。課長の中谷が「味見」と称してお猪口にデキャンタの赤ワインを注ぎ始めたのを見て、青山が言った。「課長、仕分けを間違えていますよ」

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