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143:工事再開? ~建設業会計の話~

2017.08.15

この春、審査課長の中谷が毎年担当する新人営業パーソン向けの与信管理研修で、青山は決算書の基礎講座を初めて担当した。心配顔だった青山だが、終わってみると上々の評判だったので、「また来年もやらせてください」と課長の中谷にお願いしておいたのだが・・・・3月決算の取引先の審査にようやく目処がついた頃、営業部から追加オファーが課長の中谷に届いた。「新人向けのフォローアップ研修をやるので建設業会計の話をしてほしい」という。建築資材を扱うウッドワーク社は建設業者を得意先とするので、建設業固有の会計知識にはそれなりのニーズがある。ヒトゴトのようにその話を聞いていた青山の肩を、中谷がぽんと叩いた。
「またやらせてくださいって言っていたわよね!頼んだわよ!」
困った青山がとる行動選択は限られる。「復習も兼ねて」との枕詞を付けて、経理課の木下に電話したのだった。その日の定時後のリフレッシュコーナーで、久しぶりに木下のレクチャーが始まった。
 「レクチャーの依頼も久しぶりですね」と、木下は自前のティーカップ持参でどこかうれしそうな顔をしている。
 「このところ、毎日青山さんたちの残業を横目に退社していましたから。今日は建設業会計の話でしたね」
「そうです。木下さんは前職の会計事務所のクライアントでも建設業が多かった、と言っていましたよね?」
「ざっと思い出すだけでも、木造建築を主体とした町の工務店さん、内装工事業、防水塗装工事業、管工事業・・・建築設計事務所も担当していました。冬にラーメン屋台で話した失敗談も、建設業者でしたよ」
「建設業の決算書は審査で見ていますが、一般企業と若干違いますよね」
「常用されている勘定科目名も一般企業と異なりますし、会計処理面の特徴を知っておく必要がありますね。勘定科目の違いはご存じですよね?」
「はい。さすがに見慣れました。売上は完成工事高、売掛金は完成工事未収入金、買掛金は工事未払金、仕掛品は未成工事支出金、前受金は未成工事受入金、ですね。このあたりは大丈夫だと思いますけど、改めて建設業会計と言われると、ちょっと自信がなくて・・・」と、青山はマンガの登場人物のように頭を掻いた。

「さすが、勘定科目はスラスラですね。では、『工事契約に関する会計基準』の話をしましょう。この会計基準の範囲は、請負契約の中で土木や建築だけではありません。造船やソフトウェアの受注製作といった、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うもの、となります」
「へえ、建設業だけじゃないんですね。確かにソフトウェアも複雑で大規模になると、開発にかなりの期間がかかりますよね。建設業会計を適用するというのは合点がいきます」
「そういうことです。次に、認識基準は、実質的な取引の単位に基づいて行います」
「そういえば、工事毎に工事完成基準か工事進行基準を選択すると聞いたことがあります」
「その通りです。基準名はご存じですね。それぞれの処理を説明できますか?」
「工事完成基準は完成・引き渡しをもって売上と原価の計上を行う。工事進行基準は工事の進捗度合いに応じて売上と原価の計上を行う。ざっくり言えばそんな感じですよね」
「バッチリです。基準によって勘定科目や数字が大きく変わることを、研修ではしっかり強調してくださいね」
「完成基準はわかりやすいと思うのですが、工事進行基準での各科目・金額の把握は自信がありません」
「確かに、そこが建設業会計の重要ポイントの一つですからね。工事進行基準における進捗度合いの把握方法として、もっともオーソドックスな『原価比例法』を説明しましょう。まず、その工事に対する工事収益総額と原価総額を、しっかり合理的に見積もる必要があります」
「その期に発生した原価と工事原価総額に占める割合で進捗度合いを把握して、というやつですか」
「そうです。原価の発生状況から売上を見積もるのです。もちろん、原価の発生状況と進捗度合いが必ずしも一致するとは限りませんので、より合理的な見積もり方法があれば、それを用いても良いとされています。たとえば施工面積とか、実工事時間とかも、進捗度合いを把握する基準になりますよね」
「そうなんですね。でも、そのように見積もりの要素が多いと、粉飾しやすくなるんじゃないですか?」
「青山さん、冴えていますね!そうなんです。外部から見抜くのは難しいのですが、キャッシュ・フローの状況、財務内容の経年比較や業界平均との比較で異常はないか、といったチェックがやはり基本です。もちろん、定性情報もチェックする俯瞰的な視点が大切ですが、これは審査のプロには釈迦に説法ですかね」
「僕は釈迦どころか菩薩でも褒めすぎです・・・。ふたつの基準をどんなルールで選択するのかを教えてください。1年を超える長期の契約は工事進行基準、短い契約を工事完成基準、という理解でいいですか?」
「確かに実務上では一定期間や金額の規模を目安に選択しているケースも多いですね。ただ、会計基準では、工事途中も進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する、と定められています」
「そのあたりは外部からは認識しづらいですね。税法での扱いと違いはあるのでしょうか?」
「税法上は工事期間が1年を超え、請負対価が10億円超などいくつかの要件に該当する長期大規模工事は工事進行基準が強制されます。ただ、ちょっと複雑ですので、改めて調べてみるといいでしょう」
「わかりました。会計基準も読み直してみます。おかげでだいぶスッキリしました。僕に対する木下さんの決算書レクチャーも、期間が1年を超え、僕の知識充足まで進行基準の適用を強制されそうですね」
「青山さんが対価を払ってくれるのなら、私も基準の適用を考えるのですが・・・」
「・・・では、いつものように現物支給・即時決済ということで。隣の餃子屋で餃子一皿ごちそうします!」
「冗談ですよ、僕のレクチャーは完成時期すらわからない工事ですから」と、木下は高らかに笑ったのだった。

工事完成基準と工事進行基準の決算書上の相違点

会話にあったとおり、建設業においては工事完成基準と工事進行基準といった異なる会計処理が工事契約ごとに選択適用されます。ここでは、両者の会計処理の違いをシミュレートしてみました。
◆設例:工事収益総額100、工事原価総額90と見積もられたケース
①1年目は原価発生が36発生した。期末を未完成で迎え、手付金・中間金などの入金はなかった。
【工事完成基準】完成工事高、完成工事原価の計上なし。未成工事支出金 36がBSに計上される。
【工事進行基準】完成工事高 40、完成工事原価 36がPLに計上される。
※工事進捗度 40%=36÷90
②2年目に残りの原価54を計上し完成。引き渡しを完了させ、全額入金された。
【工事完成基準】完成工事高 100、完成工事原価 90がPLに計上される。
【工事進行基準】完成工事高 60、完成工事原価 54がPLに計上される。
完成工事高と対応する工事原価が計上されるタイミングに期のズレは生じますが、いずれの基準を採用してもトータルでは同額になります。
詳細については、『工事契約に関する会計基準(企業会計基準第15号)』を参照してください。

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