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  • 会計と税務の交際費 ~おひとり五千円まで!~

2017.11.07

[企業審査人シリーズvol.148]

この春、審査課の青山が講師デビューを果たした新人営業パーソン向けの決算書講座は、4月から6月まで3回に分けて行われたが、上々の評価であった。先日経理課の木下を訪ねてきた石崎のように、若干消化不良の新人もいたが、営業担当の基礎的な決算書の知識が、かつて同じ新人の立場で営業をしていた青山によって説明されたことが、わかりやすかったようだ。営業部の課長によれば、今回の研修の後に簿記の勉強を始めた新人もいるらしい。普段厳しい審査課長の中谷も、「次回も頼んだわよ!」と合格印を押した。
 研修講師が終わり、そのまま審査繁忙期に入った青山だったが、バックアップしてくれた経理課の木下にお礼をしていなかったことを思い出し、スペイン料理店に誘った。パエリアやアヒージョがおいしいと話題のお店だ。
 「遅くなりましたが、おかげさまで件の社内研修ではいい形で講師デビューを果たせました。人前で話すのは苦手だと思い込んでいましたが、受講生が良いリアクションをしてくれると、乗って話ができますね」
 「それは良かったです。そういえば青山さんの研修を受けた新人の石崎君が、私に追加の質問をしに来ましたよ。こうして決算書に興味を持ったり、理解を深めたりする社員が増えていくのは、僕も嬉しい限りです」
 「今日は僕のおごりで・・・とまでは言えないんですが、多めに出させてください!」
 「気を遣わないでくださいよ。我々サラリーマンの交際費は、限られた資金繰りの中から捻出するしかないんですし、それはお互い様ですからね」
 「交際費・・・そういえば、会計上や税務でも交際費計上のルールがいろいろありましたね」
いつもと違うスペイン料理屋に来ても、このふたりの話題は同じである。
 「税務上、交際費は原則として全額損金不算入となるという話は、前にしましたよね。ただ、損金算入が認められるケースもあり、一定のルールが設けられています。特に中小企業では重要な論点ですよね」
 「今日は僕の決算書の先生を慰労するつもりでしたが、また解説をさせてしまいますね・・・」
 「こういった話題は私にとってはお酒の友ですから。前職の会計事務所業務では、交際費の処理にはとくに気を遣ったものです。まずはその範囲を確認しましょう。交際費の範囲、青山さんは言えますか?」
 「法人が、得意先や仕入先といった関係する事業の方に行う接待や贈答・・・でしたね」
 「その通りです。よって、従業員への慰労は除かれますし、広告宣伝費も交際費ではありません。交際費の中でとくに注目されるのが飲食代なのですが、一人あたりの金額が5,000円以下の場合は交際費に該当せず、損金算入が認められます。私は会議費や雑費等に分類して、交際費と明確に区分して処理していました」
 「一人あたり5,000円以下・・・結構細かいですねぇ」
 「ここはシビアな定めがありますね。接待飲食費に関するQ&Aも国税庁から出ていますので、実務家は必見です。それを立証するため、飲食等の参加者との関係や人数、飲食店の所在などが分かる書類の保存が求められています。交際費だけをテーマとした本がいくつも出版されているくらいですから、それだけ実務では頻出する重要論点なんですよ」
 交際費について語り合うふたりの前には、スペイン産のワインに加え、珍しいイベリコ豚の生ハム、エスカルゴのアヒージョといった豪勢なおつまみも並んでいる。
 「損金への算入が認められるケースを確認していいですか?」
 「期末の資本金が1億円を超える法人は、交際費のうち接待飲食費の50%は損金算入が認められます」
 「一人あたり5,000円以下のものも除かれる・・・しっかり記録をとっておかないと、わからなくなりますね」
 「そういうことです。ただ、期末の資本金額が1億円以下の中小企業については、さきほどの接待飲食費50%基準、あるいは年間800万円までは交際費の損金算入が認められています」
 「そうなんですか!結構、太っ腹ですね。損金不算入という原則が骨抜きになる印象ですが・・・」
 「私が前職で担当していたクライアントはほとんどが資本金1億円以下の中小企業でしたから、年800万円までに収める運用が一般的でした。この上限額は、徐々に損金算入が認められる額が拡大してきた経緯があるんですよ。平成21年3月以前は400万円までのうち90%。平成26年3月以前は600万円までのうち90%が損金算入できる額、と定められていました。とくに私の担当は建設業関連が多かったので、この90%の掛率が撤廃され、上限金額が上がったときは歓迎ムードだったのをよく覚えています」
 「それも景気対策だったんでしょうかね。中小企業の活性化、景気浮揚を狙った政策だったと・・・」
 「そう思いますよ。地域の顔になっている中小企業などは関係する業者も広く、人的なつながりが財産です。会社を運営していくうえで必須の経費ということでしょう」
交際費談義をしながらも追加注文をしていたふたりのテーブルは、いつの間にか皿で一杯になっている。
 「ところで青山さん、この調子で行くと今日の我々の一人あたり単価は5,000円をはるかに超えそうですよ」
 「今日はお礼を兼ねて、珍しいスペイン料理にしたんです。われわれも景気浮揚と行きましょう!」
 その後ふたりはワインのボトルを2本空け、会計は一人あたり単価が5,000円を大幅に超えた。おごるはずの青山は木下に頭を下げ、ワリカン精算となり、ふたりの景気浮揚は一晩限りのものとなったのだった。

交際費の範囲と損金算入

 木下が説明したように、一般的な実務会計上の交際費の扱いは、税法上における交際費等の範囲に基づいた処理となります。税法上の交際費等とは、得意先や仕入先その他事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為のために支出する費用をいいます。したがって、従業員の慰安のために行われる社内旅行などは福利厚生費、社名入りのカレンダーや文房具類は広告宣伝費に分類され、交際費とは区分して処理されるのが一般的です。また、社外の関係者を交えた飲食費で一人あたり5,000円以下のものも、税法上の交際費から除外されます。これら交際費等の範囲については租税特別措置法の第61条の4に示されています。詳細は国税庁のタックスアンサー、実務における個別事例は専門書を参照してください。
 なお、損金算入が認められる額については、事業年度終了の日における資本金が1億円以下の法人は①年800万円の損金算入限度額までか、②交際費等の中の接待飲食費の50%のいずれか多い額となります。この資本金額が1億円以上の法人は②のみ損金算入が認められます。

交際費の適正額

 中小企業の決算書の中にも、多額の交際費勘定が計上されていて営業利益以下がマイナスになっているケースがあるかもしれません。交際費は損金算入が認められる年800万円が一つのめやすにはなりますが、交際費が売上の獲得にどの程度貢献しているかを捉えることは極めて難しいため、会社規模や業種によって適正な額はまちまちと言わざるを得ません。よって、損益面においては役員報酬がどの程度計上されているかとともに、経年での業績推移を捉えていくことが肝要です。また財務面では役員勘定の有無から実態の自己資本の充実度を見極めたいところです。

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