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  • 特別償却の税務と会計 ~投資の行方~

2018.04.17

[企業審査人シリーズvol.159]

審査課の青山が、今日も経理課の木下のところに相談に来ている。青山の財務・会計知識について、審査課長の中谷はさらなる強化を図るべく、少々難しい案件を青山に割り当てている。青山も課長の中谷に「難しいものを自分に回してください」と伝えてあり、「巨人の星」ならぬ「審査の星」の様相である。
 そうして今日も決算書を握り木下のところに来た青山だが、「なぜ審査課の中谷や先輩に聞きに行かないのか」という疑問を持つ読者もおられるかもしれない。もちろん青山とて、都度生じる日常的な疑問の大半は、審査課内で質問して処理している。ただ、課長の中谷は経理課・木下の財務・税務知識に一目置いており、内容によっては「木下君に聞いてみたら?」と、あえて流すことがある。今日は、そのパターンであった。
「木下さん、この会社ですが、聞いたところによると高額の機械を購入して、特別償却をしたと言っています。中小企業等投資促進税制を活用したそうです。でも、損益計算書上では、前期と同程度の減価償却費しか計上されていません。特別損失にまとまって出てくるはずですが、どういうことでしょう?」
決算書を手にした青山が怪訝な様子で木下に聞いたが、木下はすぐにピンと来た様子で聞き返した。
「なるほど・・・それでは、純資産の中に『特別償却準備金』という科目がありませんか?」
「特別償却準備金?・・・確かに、あります。何か特別な会計処理をしているのでしょうか?」
「これは知らないと混乱するかもしれません。税務上の政策に伴う特別償却に対する会計処理には、償却費として費用計上する『直接減額方式』と、特別償却準備金を積み立てる『剰余金処分方式』の2つがあります。この会社は後者の方式で会計処理をしていますね」
「では、特別損失に特別償却が計上されるのが、『直接減額方式』ということですね?」
「そうです。特別償却ですので多額の特別損失が計上されますが、決算書への減価償却累計額の表示は通常パターンと同じです。でも、この方式では困ったことが発生しますね」
「多額の特別損失が計上されてしまうと・・・当期純利益が正しい業績測定結果を示さなくなってしまう・・・」
「その通り!だから特別損失には計上せず、純資産の部に『特別償却準備金』を計上することで、会計上損益面への影響を出さないようにするのです。税務上は申告書にて調整して、特別償却分を反映させた所得税額を求めます。以前、似たような会計処理のお話ししたのを、覚えていますか?」
「ああ、圧縮記帳ですね。補助金を受けて資産を取得した際に、補助金に対応する金額を『固定資産圧縮損』として計上して、特別損益でバランスを取るんでしたよね」
「良く覚えていますね。税務上の対応のために行われる帳簿上の処理ですが、補助金相当額を固定資産から減額するのではなく、純資産の部に『圧縮積立金』を計上する方法がある、というお話をしました」
「はい。適正な業績測定目線なら、『剰余金処分方式』が望ましい、ということですよね」
「当初の疑問はクリアになったようですが、せっかくなのでこの中小企業等投資促進税制についても解説しておきましょうか」と、木下は今日の仕事に余裕があるのか、オマケの税務談話を始めた。
「お願いします。概要は知っていますよ。中小企業の設備投資を促して、競争力強化につなげてほしいという政策ですよね」と、会計修行僧の青山は素直に応じた。
「そうです。機械装置などの定められた設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除が選択できる制度です」
「ちょっと待ってください。特別償却だけじゃないんですね?」
「良いところに気がつきましたね。資本金が3,000万円超から1億円以下の法人は特別償却のみです。しかし資本金3,000万円以下の中小企業であれば、7%の税額控除も選択できる措置がとられています」
「税額控除を選択すると、減価償却はできないんですか?」
「あくまで、特別償却が併用できないだけで、通常の減価償却は当然行われますよ」
「ん・・・?そうすると、特別償却を選択しても、通常通り減価償却を行っても、償却額のトータルが同じなら、税額控除の方がお得、ということになりませんか?」
「確かに青山さんの言うとおりですが、そこは資金繰りとの相談になるでしょう。設備投資をした当初はトラブルに備えて、資金を温存しておこうと判断するケースが想定されます」
「特別償却を選択した方が、設備投資初年度の税額が抑えられて、キャッシュを確保できるわけですね」
「そうです。ですから、ケースバイケースで選択することになります。ちなみに中小企業等投資促進税制以外にも、環境関連投資促進税制といった、特別償却と税額控除のいずれかを適用できる制度があります。国税庁のタックスアンサーというサイトがあるので、見てみることをおすすめします」
「いろいろとありがとうございます。おかげで特別償却と税額控除関連、だいたい頭の整理ができました」
「会計上はそこまでですが、肝心のその投資が何のために行われたのか、どういう効果が期待され、期待通りだったのか、といったことは決算書を眺めているだけではわかりませんね。その会社の将来性や成長性の目利きも求められますし、まさに青山さんの審査の腕の見せ所ですね。そういえば、青山さんも最近、会社の机の上に分厚い専門書を何冊か並べているらしいですね。先日中谷課長が言っていましたよ」
「そうなんです。僕も自分への投資をしました。値が張る本もありましたが、思い切りました!」
「そのやる気は中谷課長も買っていました。ただ、本を開いている姿を見たことがない、とも・・・」
何やらぶつぶつ言いながら審査課に帰っていく青山の後ろ姿を、木下は失笑しながら見送ったのだった。

特別償却の会計処理

 特別償却については、償却額を費用計上する「直接減額方式」と、費用計上せずに純資産において償却の事実を把握しておく「剰余金処分方式」のいずれかの処理が定められています。あくまで税務上の優遇措置を受ける目的に伴う会計処理ですが、特別損失に特別償却費を計上すると純利益が適正な期間損益を示さなくなってしまうおそれがあることから、「剰余金処分方式」が望ましいといわれます。こうした会計処理は知っておく必要がありますが、審査の観点では多額の投資の中身の把握に加え、継続して投資の効果や融資資金の返済状況を追っておきたいところです。

中小企業投資促進税制

 中小企業投資促進税制とは、資本金額1億円以下の法人や農業協同組合等、従業員数1,000人以下の個人事業主において、一定の設備投資が行われた場合、特別償却(30%)又は税額控除(7%)の適用を認める制度です。対象の設備については機械及び装置で1台160万円以上のものなど、細かく定められています。また、木下の説明にあったとおり、税額控除が選択できるのは資本金が3,000万円以下の法人等となっています。さらに、生産設備を構成する経営力向上設備等に該当する一定規模の設備投資であれば、取得価額の100%の即時償却、または7%相当額の税額控除を選択できる上乗せ措置もあります。詳細には、国税庁のタックスアンサーや中小企業庁のサイトが参考になります。

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