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  • 耐用年数の話 ~それは何年?~

2018.09.05

[企業審査人シリーズvol.168]

その日の昼休み、審査課の青山が弁当を持ってリフレッシュコーナーに行くと、経理課の木下が既に昼食を終え、ティーカップを片手に本を眺めていた。「世界の美しい建築物」と書かれた写真集である。
「お疲れ様です、木下さん。なかなかオシャレな本じゃないですか。建築に興味があるんですか?」
買ってきた唐揚げ弁当を広げながら、青山が声をかけた。
「そうですよ。巨大な建造物とか摩訶不思議なデザインのビルが好きで、建材商社に入ったんですから。数年前になりますが、奇抜な建造物を自分の目で見てみたくて、ドバイへ観光に行きましたよ」
アフタヌーン・ティーをおいしそうに啜りつつ、木下が答えた。
「ドバイ?あのお金持ちが観光に行くリゾート地ですね!」
「確かに物価が高くて、優雅な旅行はできませんでしたが、世界一高い超高層ビルであるブルジュ・ハリファには
登りましたよ。総建造費は15億ドルらしいです」
「凄まじい額の固定資産ですね。一体何年で償却が終わるんだか、想像もつかないですね」
「耐用年数の話ですね。減価償却の大きな要素のひとつです」
ドバイの話から会計の話に飛ぶ、二人の間ではよくある瞬間移動である。そして、目的地は常に会計である。
「実務上は法定耐用年数を用いるのが一般的なんですよね?」
「他国は知りませんが、日本ではそうですね。そもそも、個々の固定資産がどのくらい持つのか見積もるのは困難ですし、企業毎に大きくバラツキが出てしまうと、企業間の比較も難しくなってしまいますからね」
「もし法定耐用年数よりも短い期間で、先に多額の費用を計上してしまうと、どうなるんでしょうか?」
「償却限度額を上回る部分は、税務上損金不算入となる決まりになっています。つまり、抜け駆けして先行費用計上するパターンで税務上も認められるのは、特別償却などの特例を用いたときなどに限られます」
あっという間に弁当を食べ終えた青山は缶コーヒーを開け、木下は違う茶葉で紅茶を淹れなおした。
「それでは法定耐用年数、果たして何年か?クイズをやりましょうか。青山さんはスマホNGですよ」
そう言って木下が自分のスマホの画面を見ながら、楽しそうに出題準備を始めた。
「多少は勉強したけど、覚えているかな・・・。まあ、出題してみてください」
「では、第一問。事務所に用いられる鉄筋コンクリート造の建物は何年でしょう?」
「それは知っています。確か定められている法定耐用年数の中でも最長クラスの50年ですよね」
「なかなかやりますねぇ。では、これが木造だったら何年でしょう?」
「うーん、これは想像ですが、半分の25年あたりでしょうか?」
「良い線行っていますね。正解は24年です」
「建物の法定耐用年数は単純に構造のみによって定められているんでしたっけ?」
「あと、事務所用、住宅用、工場用などの用途によっても年数が変わってきます。例えば工場だと、機械が年中稼働していたり、頻繁に作業車の出入りがあるなどヘビーな環境になりますから、事務所よりも耐用年数は短く設定されています。では、次の問題。ごく普通の自家用車は何年だと思います?」
「うちの父はカローラを大切に乗って10年でしたので、買い換えサイクルを考えると8年ぐらいでしょうか?」
「惜しい!法定耐用年数はもうちょっと短くて、6年です。ちなみに軽自動車は4年です」
「それを聞くと、やっぱり車は消耗品なんだと思っちゃいますね・・・」
「ただ、耐用年数を過ぎて償却が終わっても、まだ使い続けられるなら簿外資産になります。では、最後の問題・・・普段使っているパソコンは何年でしょう?」
「パソコンはどんどん新製品が出てくるから、短いでしょうね。2年くらい?」
「いや、パソコンの法定耐用年数は軽自動車と同じ4年と定められています。ですが実際は、中小企業では『少額減価償却資産の特例』を用いて、購入時に費用計上するパターンが多いようです。30万円未満の減価償却資産については、年合計300万円まで損金算入が認められます。期限が延長されて2020年3月末まで適用できますしね」
「耐用年数の世界も深いですね。それにしても、さっきの木下さんの話をきいて、なんだか僕も海外の建造物を見に行きたくなってきました。最近、連休があってもついついダラダラ過ごしちゃうんですよね」
「青山さん、ダラダラ過ごしていると、脂肪資産が増えていきますよ。まずは体を動かして、脂肪をキッチリ償却しましょう!」
 ドバイから始まったその日の話は、健康指導で終わったのだった。

減価償却に関連するコラム

減価償却は会計の基本的かつ重要性が高い論点なので、これまでも何度か取り上げてきました。
52:報告書の読み解き方-14(業績その2)減価償却と特記事項 … 減価償却の重要性
115:圧縮すること … 圧縮記帳と減価償却の関係性
123:どれがお好み? ~減価償却の4つの方法~
145:1円資産とヴィンテージ
159:投資の行方 ~特別償却の税務と会計~ … 特別減価償却費
162:石崎のCF ~営業CFの「間接法」と「直接法」~ … 営業CFの「間接法」における減価償却費
今回の耐用年数の論点とセットで、③の償却方法は基礎になりますので減価償却に馴染みのない方はぜひご確認ください。①はTDBの調査報告書においても「業績」ページにおいて最大過去6期分の掲載している減価償却費について、その重要性とともに説明したものです。また、減価償却はキャッシュフローにおいても非資金費用として、営業CFの算定上考慮される重要な項目となることを、⑥で取り上げました。最終的に減価償却を終えたのち、簿外資産となるケースについては、④で取り上げています。②の圧縮記帳や、⑤の特別償却については上級者向けの論点となりますが、税務上の施策が絡み、多額の設備投資を行うことが想定される会社の決算書を見る方であれば、知っておきたい会計処理です。これらのバックナンバーも役立て、減価償却と固定資産の体系的な理解に繋げていただけると幸いです。

法定耐用年数の確認方法

木下が青山にクイズを出していた際に確認していた「法定耐用年数表」は国税庁のホームページ上で確認できます。以下のカテゴリーを参照してください。
・ 確定申告書等作成コーナー>よくある質問>青色申告決算書・収支内訳書
 >必要経費>減価償却費>耐用年数表

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