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  • 源泉所得税と年末調整 ~毎年恒例!~

2018.12.06

[企業審査人シリーズvol.174]

今年最後の月に突入し、木下ら経理課員は年末調整の業務に追われていた。従業員から提出された資料に対し、不足資料や記載誤りの指摘の電話を経理課員総出で行っており、木下もその一員として対応している。一方、審査課の青山は9月決算企業の審査を前にした、比較的余裕がある時期を迎えていた。
電話が一段落ついてリフレッシュルームで休憩していた木下に、同じく休憩に来た青山が声をかけた。
「お疲れ様です。木下さんは今年もこの時期は大変そうですね・・・」
「配偶者控除を誤って申告する人や、保険料控除証明書をなかなか出してくれない人がいますからね。でも、それもあと少しで目処がつきそうです。青山さんは、このところ帰りが早いですね」
「スミマセン。僕も今年は保険料控除証明書をなくして、ムリを言って期限を延ばしてもらいました・・・。審査課は大型倒産でも出ない限り、年内は落ち着きそうです。落ち着いたら、また神田にカレーを食べに行きましょうよ。今年のカレーグランプリをテレビで見て、気になったお店をみつけたんです」
「それはいいですね!ぜひ行きましょう。ところで、青山さんは源泉所得税と年末調整については、どういうものだか理解できていますよね?」と、忙しいはずの木下の方から青山に会計談義を持ちかけた。木下にとっては会計談義が「リフレッシュ行動」なのである。
「毎月、給料から天引きされて、年末に簡易版の確定申告をやる、というイメージでOKですよね?」
「源泉徴収の話からしておくと、実務では原則として従業員から預かった源泉所得税は、給与などを支払った翌月10日までに税務署へ納付します」
「年末にまとめて一気にやる、じゃないんですか?」
「違います。給与の支給人員が常時10人未満であれば、半年分をまとめて納付することができる『納期の特例』がありますが、それでも年末に一年分まとめて行うことはありません」
「その半年というのは、企業が任意に決められるんですか?」
「いいえ。その特例を適用する場合は、1月から6月分を7月10日に、7月から12月分を翌年の1月20日に納付する決まりになっています」
「特例に該当する10人未満というケースは、おのずと中小零細企業に限られるわけですね」
「ええ。ただ、源泉所得税の納付遅延は与信管理上のシグナル情報になりますよ。以前、『最初に企業が払えなくなる税金は一般的には何か?』と難しい質問をされたことがありますが、毎月期限が到来する源泉所得税の納付遅延かもしれない、と答えた記憶があります」
「もしその事実をつかんだら、資金繰り悪化の重要なサインかもしれないということですね!ちなみに、納付遅延には当然ペナルティがあるんですよね?」
「はい。預かった他人の税金を納めなかったことになりますので、不納付加算税と延滞税がかかってしまいます。算出される納付額はケースバイケースで変わりますが、会計事務所時代はとくに気を使う業務でした」
「なるほど。ところで僕はまだ独身ですが、配偶者控除と配偶者特別控除の何が違うのか、未だによくわからないのですが、ちょっと教えてもらえますか?」
「前職でやっていたセミナーを思い出します。保険料控除申告書の書き方とか、クライアントの従業員向けに説明した記憶がありますよ。配偶者控除は申告の誤りが多い部分なのですが、それは配偶者の所得によって控除を受けられる額が変わったり、受けられなかったりするからです。控除を受ける人の所得によっても基準が変わってきますので、注意深く申告してもらわなければなりません。最もオーソドックスな控除を受ける人がサラリーマンで給与所得のみ、かつ収入が1,120万円以下だった場合に限定して説明しましょう」
「はい。僕は結婚した頃にそれ以上稼げていないと思うので、それでお願いします!」
「配偶者のパートによる給与収入が103万円以下であれば、配偶者控除として38万円分受けられます」
「103万円の壁とか言われているものですね。配偶者特別控除はそれ以上の場合、ということですか?」
「はい。103万円以上なら配偶者控除は適用できず、配偶者特別控除となります。現在は配偶者の給与収入が103万円以上150万円以下であれば控除額は38万円分、150万円以上201万円未満であれば控除額が段階的に減っていく仕組みになっています」
「ややこしい…。控除を受ける旦那さんは、奥さんの給与を正確に把握しなくちゃいけないんですね?」
「そうです。前職で経験したケースは、奥さんがFXなどの投資による所得があって配偶者控除が誤りだった、というものが目立ちました」
「ヘソクリ的にやっている人もいますからね・・・。でも、ダメなものはダメですね」
「そういうことです。生命保険も一般のもの、介護医療保険、個人年金保険と区分が分かれています。一般ものと個人年金保険は新・旧の区分もあるので、よくよく保険料控除証明書を確認してくださいね」
「はい!来年は期限内にバッチリ出します」
「他にも、住宅借入金等特別控除などもありますが、実務上は、各従業員から申告書を提出してもらって、過不足を精算するとともに税務署へ申告します」
「経理課のみなさんの年末調整のおかげで、サラリーマンが確定申告をしなくて済むんですよね!」
「ただし住宅借入金等特別控除の1年目や、医療費控除は年末調整で対応できず、確定申告が必要になりますから注意してくださいね!」
「困ったときは木下さんに相談するので、大丈夫です・・・あれ?そうすると私の個人情報が筒抜けになる?」
「大丈夫です。相談されなくても経理課員はチェック作業で見ますから、そういう意味でもう筒抜けです。個人のデータに興味を持ったり持ち出したりしない、会計士や経理パーソンには高い倫理意識があるのです」
「そうですね!それは安心だ!」と言う青山は、どこか複雑で曖昧な笑顔をしたのだった。

企業会計上の源泉所得税と年末調整

与信管理には直結しませんが、今回は季節的なテーマとして、企業会計上の基本的な源泉所得税と年末調整の動きについて取り上げました。毎月、従業員から預かった源泉所得税は会計上「預り金」の負債科目に計上され、翌月の支払時に決済されます。なお、給与の支給人員が常時10人未満である法人等では、木下が説明したとおり年2回納付の「源泉所得税の納期の特例」を適用することもありますが、年末調整による各従業員への還付や徴収の後、税務署へ申告する流れは同じです。これらの源泉所得税はすべて従業員の給料に派生するものなど、企業にとってはあくまで「預り金」ですので、基本的に損益面への影響は生じません。ただ納付が遅れてしまったケースでは預かった企業へのペナルティとして、損益計算書に不納付加算税や延滞税が計上されることがあります。そして、こうしたペナルティとしての税金は当然ながら損金算入が認められません。実務上は、法人税等の支払準備のほか、源泉所得税の管理のため「納税準備預金」という納税にあてる資金に限り、預け入れるための口座を利用しているケースもあります。

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