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  • 地域未来牽引企業 ~攻める!新年~

2019.01.10

[企業審査人シリーズvol.176]

2019年の年が明け、お正月休みが光陰矢のように過ぎた仕事始めの日。審査課の青山は社内研修のスライドを作成している。1年目の営業部員向けフォローアップ研修で与信管理の講座を任されたのだが、「守り」の与信の話だけでは受講者の興味を引き出せない。何か「攻め」の話を加えられないかと考えていたところ、年末に「攻めの与信」の社内元祖・中谷課長から「地域未来牽引企業に触れたら?」という助言があった。
「地域未来牽引企業って、何だ?!」と思った青山が調べてみると、経済産業省が経済施策として地域経済の中核企業を選定したものだとわかった。「これは使えそうだな」と思った青山は、成長企業への着目から「攻めの与信管理」に触れようと考えたのだった。そうしてスライドを鋭意作成中の青山の席へ、経理課の木下が訪ねてきた。彼も同じ研修で財務の講座を任されている。
「青山さん、初日早々気合いが入っていますね。これは何ですか?」
「地域未来牽引企業のリストです。経済産業省が選定した企業で、地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれ、地域経済においてバリューチェーンの中心的な担い手や、その候補となり得る企業だそうです」 
途中で噛みそうになりながら青山がそう言い終わると、木下がパソコンの画面を覗き込みながら言った。
「ああ、聞いたことがあります!お正月に大学時代の同期会があったのですが、九州出身の友人が、実家の会社がそれに選出されたって自慢していましたよ。2,148社に加え、2018年の12月には1,543社が追加選定されたとありますね」
「そうなんですよ。講座で危ない会社を目利きするだけじゃなくて、これから伸びる会社も目利きしましょう、という話をしようと思ったのですが、こういう優良企業のリストってなかなかないんですよね」
「確かにそうですね。上場企業でないかぎり、調べる手段が思い浮かびません」
「そうなんです。この中には“隠れ優良企業”と呼ばれるような会社も多そうです。国としては、地域経済に影響力や波及効果の大きい企業を選定して、そこを支援することで地域経済全体を活性化したい、という意図があるようです。大規模な養鶏業者や、花火を作っている会社もありますよ」
「私も前職でいろんな業種の経理や決算に携わってきましたが、地場大手と呼ばれるような規模のクライアントは1、2件で、そういう会社の経理処理は分業だったので、全容をつかめたとは言い難いですね」
 「調査会社の横田さんから聞いたんだけど、地域未来牽引企業の選定には、ビッグデータが活かされているらしいわよ」と、会議に行っていた中谷の声が突然背後から聞こえたので、ふたりは揃って身震いをした。
「おっ、おかえりなさい。ビッグデータですか。何に使ったんでしょうね・・・」と青山が首をひねった。
 「だって、地域経済に影響力や波及効果が大きいって、どうやってわかると思う?」
 「ん?確かにそうですね。取引関係とか出資関係とか、そういう情報がないと客観的に絞れませんね」
 木下が解答に近づいたところで、中谷が「LEDIX」で検索するよう青山に指示を出した。
 「あっ、これですね。Local Economy Driver Indexの略称なのか。何だか営業の八木田さんが喜びそうですが・・・おっ!何か近未来的なグラフィックが表示されました」
「なるほど。お金の流れや経済波及効果の大きさを立体的にシミュレートしたものですね」
「へえ、これは視覚的でわかりやすいですね。研修でも紹介します」と、青山の目が輝いた。
「私も横田さんの受け売りなんだけど、日頃の審査ではこんな形で企業を見ることはないから、なかなか新鮮よね。図形を重ねたマークで各企業を表現しているページもあって、なかなか面白いわよ」
「面白いですね。企業のポジティブなイメージが湧きます」と木下が感心していると、青山が言った。
「財務でポジティブと言えば成長性分析ですが、なかなかそれだけだとピンと来ませんよね。売上高や利益の増加率以外に、従業員の増減を見る観点も以前の講座で紹介しましたが、あまり響きませんでした」
「決算書の財務分析はあくまで過去情報ですので、そこから成長性を見極めるのは容易ではありません。代表的な手法としてDCF法がありますが・・・将来のキャッシュフローを見積もり、割引計算によって現在価値を求め、投資効果を検証したり、企業の将来性を見極めたりします」と、木下がフォローした。
「割引計算、前に減損会計について教えてもらったときに出てきましたね」
「その通り。減損会計の場合は収益を生み出す特定の資産グループで行いますが、これを会社全体に視野を広げてやれれば理想的です。まあ、これも過去のキャッシュフローをベースとした推定にとどまります」
「さて、企業の新たな見方を学んでポジティブな気持ちになったところで、早速今晩一杯やる?」
中谷のなかば強引な会話の進行に、青山の顔がみるみる曇った。
 「中谷さん、まだ初日ですよ。9連休のあとの5日フルの出勤になりますし、金曜日にしませんか?」
 「攻めの与信管理の話をする講師が、そんな守りでどうするの!木下君も一緒に来てくれるわよね!」
 「いや、私も実は明日が経理課の新年会で、新年早々の連チャンは少々きついのですが・・・」
「木下君も大丈夫!私なんて土曜も日曜も同窓会だったんだから。“攻め”の気持ちで今年の仕事のスタートよ!じゃあ、六時半に裏の焼き鳥屋で待ってるわ」と、中谷がふたりの肩をポンとたたいて自席に向かった。
 「さっきまでポジティブな未来のイメージを見ていたのに、急に昭和レトロな世界に巻き込まれましたね」
 「そうですね。平成も終わり新時代に入りますが、今年もいろんな台風の多い一年になりそうです・・・」
 そう言ったふたりは、中谷のポジティブ&アグレッシブな招待に素直に従う覚悟を決めたのだった。

地域未来牽引企業

 地域未来牽引企業とは平成29年12月に経済産業省が選定・公表した、地域経済牽引事業の担い手の候補となる地域の中核企業です。選定企業は、地域経済への影響力を有し、雇用を担うとともに成長性が見込まれる企業とされており、選定企業は都道府県毎に経済産業省のホームページで閲覧することができます。「LEDIX」では、地域未来牽引企業の強みや取引状況がデータビジュアライゼーションで視覚的・直観的に示した、新しい「企業の見方」と言えます。そのまま与信管理に用いるものではありませんが、希少な優良企業リストとして、ベンチマークにしたり、新たに商圏を開拓する際の目印としたりすることができそうです。
なお、TDBでは関連書籍として「ビッグデータで選ぶ地域を支える企業」を出版しています。本書では選定企業のうち8社について、経営者や自治体へのインタビューと、取引データを用いて構築されたネットワークデータを使った構造分析から各企業の牽引力の一端を探っています。興味がありましたら、ご一読ください。

DCF法の活用

木下が話したDCF(ディスカウンテッドキャッシュフロー)法は、企業価値を算定する一手法で、将来キャッシュフローを見積もり、割引現在価値を求めます。減損会計や貸倒引当金の算定手法、また不動産鑑定やプロジェクトの評価などに広く用いられています。TDBでも財務データベースをもとに、DCF法を使用した企業価値評価サービス・「Value Express(バリューエクスプレス)」を提供しています。
末筆ながら、今年一年の皆さまのご多幸とご健勝をお祈りします。今年もウッドワーク社のキャラクターとストーリーをご愛顧ください。

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