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2019.07.08

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創設直前に東日本大震災が発生 スポーツで県民に勇気を与える東邦銀行陸上部

東邦銀行陸上部(福島市)

2011年3月11日に発生した東日本大震災。被災3県(宮城・岩手・福島)を中心に津波等による未曾有の災害となったが、福島県においてはさらに福島第一原発事故という、より複雑で困難な大災害に陥った。それから1カ月も経たない4月1日に、『東邦銀行陸上競技部』が創設された。日本記録保持者などを中心とした福島大学陸上部出身の6名でスタートした陸上競技部は、不安や落胆の中にいた福島県民にスポーツを通じて勇気や希望を与え、今では日本陸上界にその名を轟かす存在となっている。決して平坦ではなかった現在までの道のりを探った。 (仙台支店情報部)

陸上の強豪、福島大学を母体に創設

東邦銀行が陸上競技部を創設したきっかけとなったのが、福島大学陸上部の存在である。福島大学陸上部は川本和久監督の下、2000年頃から女子陸上(短距離)において、地方の国公立大学としては珍しく、オリンピック選手を何人も輩出する強豪チームとして全国に知られる存在である。しかし、大学を卒業すると福島県内にその選手を受け入れる企業や団体がなかった。「せっかく優秀な選手を育てたのに受け皿がないため、県外に分散していく現状をなんとかしたい」という相談を大学関係者から東邦銀行が受けたのがすべての始まりとなった。

相談を受け創設当時から関わってきた陸上競技部部長の阪路雅之氏(写真)は、あくまで社会人として受け入れることにこだわった。「いわゆるノンプロでなく、当行の職員として働きながら、陸上を行うことが前提でした。スポーツ選手である前に社会人として仕事をきちんと行ったうえで、練習と両立させるという条件で、創設することを決めました」と話す。

創設直前に東日本大震災発生

福島大学陸上部の川本氏が監督を兼任し、2011年4月1日の創設を決めたが、3月11日に東日本大震災が発生し、状況は一転する。県外へ避難者が続出するなかで、津波浸水地域や原発事故に伴う避難地域内に支店を抱える東邦銀行にとっても、営業継続がままならないほどの非常事態に追い込まれ、とても陸上競技部の創設に集中できる状態ではなかった。取引先や職員とも連絡が取れない、そうした日々が続くなか、創設の延期も仕方がない状況だった。

しかし、こうしたなかだからこそ、スケジュール通り4月1日の創設にこだわったという。「選手と連絡が取れない、練習場もない、選手が福島にとどまってくれるのか、と不安だらけでしたが、延期する気はありませんでした。こうした状況だからこそスタートしなければという思いだけでした」

まずは練習所となるグラウンドの除染から始めなければならなかった。グラウンドに重機が入り、作業員とともに、監督自ら水をまきながら除染作業を始めたという。選手たちは避難所を回り、体操を教えたり子供たちとふれあったり、避難者が少しでも気分転換できるよう慰問を続けた。

時が経つにつれ、少しずつ練習できる環境が整いつつあったが、選手たちには「大変な状況のなかで、陸上の練習をしていいのだろうか」という複雑な思いがあったという。その考え方に変化が訪れたのは「オリンピックに出て元気な福島の姿を世界にアピールしてほしい」「新聞などで活躍を見て、元気や勇気をもらいました」などの県民からの声が選手たちの励みになったからだという。

「自分の活躍によって、県民に勇気や元気を与えられるとしたら、これほどうれしいことはないという意識に選手たちが変わっていきました」と阪路部長は話す。陸上競技部は、単に東邦銀行の競技チームというだけの存在ではなくなっていた。

少数精鋭で輝かしい実績

様々な苦労を乗り越えてより強くなったからこそ、その後の実績は輝かしいものとなっている。2017年8月に開催された「世界陸上ロンドン大会」では、紫村仁美選手(写真)が女子100mハードルに日本代表として出場。紫村選手は佐賀県出身で、地元の高校教員として陸上を行っていたが、2015年、川本監督との出会いをきっかけに東邦銀行陸上競技部に入部した経歴を持つ。縁もゆかりもない福島にある陸上競技部に入部したことについて、紫村選手は「いつも1人で練習していたのですが、沖縄の合宿を見て、自分もチームの一員となって、切磋琢磨すればもっと強くなれると思いました」と話す。

2017年の「全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」では、女子4×100mリレーの7連覇をはじめ、個人種目でも大活躍をし、初の男女総合優勝を飾った。駅伝やマラソンなど多くの陸上部員を擁する実業団チームが多いなか、女子部員6人全員が優勝や入賞に輝くなど“少数精鋭”のチーム力が勝ち取った栄冠である。こうした実績が評価され、2017年度に顕著な成績を残した実業団チームおよび選手に贈られる「ファイナリストチーム賞」を受賞した。

選手と職場の一体感が生まれる

このように輝かしい実績を積んでも、選手集めには苦労が絶えない。設備充実などの理由による選手の中央志向に加え、福島に対する風評被害も影響していることは否めないという。こうした状況下で東邦銀行は新たに入部する選手を全力でバックアップしている。高校陸上界で400m走トップの実力を持ち入部した、青木りん選手は、東邦銀行の職員と陸上競技部の選手、そして福島大学の学生という3足のわらじを履く努力家である。仕事も勉強も最善を尽くす姿に、銀行の先輩方も刺激を受け、応援にも自然と力が入る。競技会には職場の仲間が大勢で応援に来るという。集団でスタンドから選手の名前を連呼して応援する姿は当たり前となっており、これも、選手と職場の一体感があるからこそであろう。

実業団チームは通常、職場と練習場が離れているケースが多く、普段はチーム内でもそれぞれの出身大学で練習することも多いという。東邦銀行陸上競技部は同じ職場で仕事をしてから、同じ練習場で汗を流す。職場内や陸上競技部内で普段から一緒に生活しているからこそ、お互いの人間性も分かり、チーム内や職場との間に絆や一体感が醸成されていくのだろう。

東邦銀行の支援体制は単純明快。陸上に関しては監督・コーチに任せる(口を出さない)。そして、練習や試合に快く選手を送り出している。もちろん、銀行員としての仕事をきっちりと行ってからの話であり、選手である前に社会人として立派になってほしいという気持ちが込められている。

また、地元との交流にも力を入れ、「とうほう・みんなの陸上教室」を年に1回開催している。陸上競技部全員が講師となり行う陸上教室で、2018年11月に開催された教室には、県内の小中学生約200名が参加した。小学生は、学年ごとに分かれて速く走るコツを学び、中学生は、短距離・ハードル・中距離・トレーニングに分かれ、日本トップクラスの専門的な技術の指導を受けた。その他にも、「とうほうキッズ・ジュニア陸上教室」や福島陸上競技協会との共催で「東邦カップふくしまリレーズ」を開催し、小学生・中学生・高校生のリレー競技力の向上に寄与している。さらに、福島県による「トップアスリート陸上教室」に講師として参加するなど、積極的に地元との交流を続けている。

1人でも多く東京オリンピック・パラリンピックへ

2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」まで1年余りとなった。今年は出場権をかけた大事な大会が待っている。パラリンピックへの出場が有望な400mの佐々木真菜選手を含めて、1人でも多くの選手が活躍するよう期待が膨らむ。「震災直後からスタートした陸上競技部の総決算として、元気、勇気を福島から世界にアピールしてほしい」と話す阪路部長の言葉からも、熱い思いが伝わってきた。
株式会社東邦銀行
■TDB企業コード:180007371
■法人番号:9380001001018
■チーム名 東邦銀行陸上競技部
■代表取締役頭取 北村 清士 氏
■所在地 福島県福島市大町3-25
■陸上競技部HP
 http://www.tohobank-athleticsclub.com/

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