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2019.08.20

∞∞ Data Designers ∞∞

日本のマーケティングオートメーションの先駆けとなった「Marketo Engage」の日本における責任者で、『THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(以下、『THE MODEL』)の著者でもあるアドビ システムズ 株式会社 専務執行役員 マルケト事業統括 福田康隆氏にお話を伺いました。
(所属企業・役職はインタビュー当時のものです)
-ここ数年のマーケティングの取り組み姿勢について、企業の変化を感じますか?

マーケティングオートメーションツール(以下、MA)の導入企業数は国内外で、ますます増えています。しかし、MAを導入すればマーケティングのサイクルが回るものではありません。営業やマーケティングのプロセス化と部門連携が大切だと思います。またこの数年、日本では「SaaS(Software as a Service)」や「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」という言葉が急速にブームのようなかたちで取り上げられるようになってきました。そのような中で、見込み客数を追うマーケティング、案件数を追うインサイドセールス、契約数を追う営業、継続数を追うカスタマーサクセス、というように分業し、効率化する組織が注目されているように感じています。分業体制のなかでMAを使い、効率的に商談のタネを作ることに成功している企業が増えてきているのではないでしょうか。既存顧客に対しても一律で情報を提供するのではなく、顧客の状況にあったコミュニケーションをとるなどMAの活用もが広がってきたと感じます。


-テクノロジーの進化や分業化が進んだことで、マーケティングの取り組みも変わってきているということですか?

はい。例えば、営業プロセス1つを取ってみても、Web会議・商談ツールが台頭し、顧客サイドにも電話によるヒアリングや商談、クロージングが受け入れられる時代になってきましたね。また、マーケティング・インサイドセールス・営業と分業化し、MAやCRM/SFAを組み合わせて上手に活用している成功事例が増えてきて、セミナーやユーザー会などで共有されていることも要因としては大きいと思います。失敗した経験も踏まえた具体的な取り組みを聞くことで「なるほど、こうすればいいんだ」「うちでも取り組んでみよう」とイメージしやすくなり、取り組むケースが増えているのではないでしょうか。

4~5年前のMAが利用され始めた当初は、「MAってメール配信ツールですか?」「ステップメールはできますか?」などの質問が多くありました。最近は、「売上をあげるためにどのうように部門間連携し、その中でMAをどのように活用していくべきか」ということが、コンセプトから実践フェーズに移ってきたと実感しています。
-著書の『THE MODEL』でもプロセスごとの役割や連携の重要性などに触れていますが、どのような想いで執筆されましたか?

これまではマーケティング、営業が個別最適化していましたが、これからは役割分担したうえで連携していく時代になりつつあります。これまで営業が一挙に担っていた、お客さまへのサービスの認知から成約・フォローまでを分業し、連携していくという“型”を共有したいと思っていました。
分業体制を確立していくと同時に必ず起きる問題もあります。部分最適の度が過ぎると、担当するプロセスの数値にフォーカスを当てすぎてしまうことなどが一例です。プロセスを連携するということは決められた指標を守ることやツールだけの話ではなく、人の心の動きを考えなければ成功しません。そのため、『THE MODEL』では、前半でプロセスの中身について、後半は人材、リーダーシップ、組織などについて書きました。分業体制に取り組むと皆、同じような壁に当たりますが、私自身が経験してきた問題やその対処方法をまとめていますので、参考にしてもらえると幸いです。


-福田さんはビジネスにおいて「再現性」を重要視されていますが、実践するためのポイントは何ですか?

再現性を作ることは簡単ではないので、ポイントと聞かれると難しいですね(苦笑)。
ポイントをあげるとすると、「なぜ、そのような判断を下したのか」という意思決定理由を組織として記録し、共有することだと思います。市場環境、社内環境も変化していくので、その時々で判断や行動も変わるはずです。再現性というと一律に成功パターンをコピーしてしまう人もいるのですが、それではうまくいくとは限りません。


-具体的にはどのようなことですか?

例えば、前職で成功したパターンをそのまま次の会社に当てはめようとする人がいます。プロダクトひとつとってもターゲット企業規模、商材の単価、認知状況、利用用途など様々な要因がありますし、世の中の環境もどんどん変化していきますので、当然やり方も変わりますよね。型だけ当てはめても成功はしないでしょう。
「以前はインサイドセールス部門を作って商談数を増やすことできたから、今度の会社でも同じような組織にしよう」「カスタマーサクセス部門が世間の流行りのようだから立ち上げよう」と組織ありきで考えるのではなく、「何故インサイドセールスが必要なのか?」「何故カスタマーサクセス部門を立ち上げるのか?」と本質を突き詰めて考えいく必要があります。組織以外でも、それぞれ意味づけを行い、共有していくことで共通認識が生まれ、再現性が高まっていくのではないでしょうか。

極論を言えば、マーケティングも営業もインサイドセールスも誰もいなくて、製品を作れば勝手に売れてお客さまに活用してもらえればよいのですが、大抵それができないので、それぞれの役割が必要になります。顧客の状態に合わせてマーケティング、インサイドセールスが有益な情報を届け、契約を目指します。契約した顧客に対しては活用してもらい、顧客満足度を上げ解約を防ぐためにカスタマーサクセスがサポートします。組織ありきではなく、全てに必要性があります。組織論は手段になりがちなので、なぜ、その組織が必要なのかという本質を常に考え、目的が売上拡大や顧客維持であることを認識していれば、手段の目的化を防ぐことができます。
-著書『THE MODEL』でも、過去の偉人や著名人の格言や考え方が出てきますが、そのようなフレーズは普段から使っているのですか?

そうですね、よく使います。本を読むのが好きなんですが、表現の差こそあれ、どの本を読んでも、どこかで聞いたことがあるような内容であることが多く、原典のメッセージと同じところにたどり着きます。要は本質的なものは何かを理解することが大事だなと感じます。
書籍でも繰り返し使われるようなメッセージはビジネスにおいても有効です。メッセージを伝える際には、言葉が重要であり、言葉は人を動かすことができると思っています。
私は伝える際に「自分の言葉で相手に伝える」ことを大切にしています。やはり実体験を交えた自分の言葉になっていないと、相手の心には届きません。
もうひとつ大切にしているのは「有名な方が話した言葉」を使うことです。ジャック・ウェルチの言葉であれば、聞く側も「あの伝説の経営者も言ってることなのか」と伝わり方が変わります。また、セミナーや勉強会などでスティーブ・ジョブズの昔の動画を紹介したりもします。これらは有名な方が話す方が、言葉の重みがあることと、私が言いたいことを全く違う表現で心に刺さる伝え方をしているので、効果的です。改めて言葉やコミュニケーションは大事だな、と思います。伝わらないと意味がありませんからね。


-孫子や野村克也監督も取り上げていましたね。

野村監督は好きですね。マネジメントに携わるようになってから、やり方や考え方は参考にしています。野村監督のことをあまり知らない人はID野球でデータの分析のみしていると勘違いしがちですが、実際はそうではありません。ヤクルトスワローズの監督に就任してチームを建て直した時は、技術的なことは一切言わず、ミーティングで人としての在り方を説いていました。データは大事ですが、データを使うのは人であり、人にはそれぞれの個性があります。「データありきではなく、そこから何を読み解くか。データを重視しつつ何を求めるか」が野村監督の野球の本質です。この考え方は経営にも活かせると感じました。他にも影響を受けた人は多いですね。
-では、事業を推進するうえで、データをどのように活用していますか?

まず、取れるデータを全て並べます。そうすると明らかな異常値や繋がりがおかしい点など疑問を持つポイントが必ず浮かび上がってきます。そこで仮説を立てて現場に行って確かめてきます。数字には2種類あります。受注件数など操作不可能な「嘘をつかない数字」と商談数やリード件数など解釈で操作可能な「嘘をつく数字」です。この2種類の絡みをみていくとずれてくるポイントが見えてきます。

例えば、インサイドセールスの活動により商談数は増えているが、営業の成約件数は減っている場合、どう解釈すればよいでしょうか。成約率が低下しているということは営業のスキルが落ちている、それならば「営業強化の研修を行った方がよい」と対策を考えるかもしれません。
しかし、実態は違いました。
インサイドセールスは営業へパスしたリードが商談に結び付くと評価される仕組みでした。そのため、商談数が伸びないと営業に頼んで商談記録を作成してもらっていました。営業にとって成約率は評価に関係ないので、頼まれたら作成します。結果、緩い商談が多くなり、成約へ結びつく割合は減りました。
このケースでは、当初考えた営業強化の研修は根本的な解決策ではありません。インサイドセールスの教育が必要なのかもしれませんし、マーケティングが獲得するリードの質をあげることを考えなければいけないのかもしれません。これは現場に行かなければ真因はみえてきません。


-数字の定義を細かく設定するアプローチで是正できるものですか?

経験上、それはあまりうまくいきません。どこまでいっても解釈の問題が出てきます。部門間の関係がギクシャクしてしまう弊害も生まれます。さらに現場のプレッシャーが増し、空気感が悪くなり、負のスパイラルにはまります。
組織を連動して動かす時は、多少のゆるみを残しておくことが大事かなと思います。商談のステップを予め定義していても、それほどうまくいきません。無駄な方向に労力と意識が向いてしまい、本来のゴールから外れてしまう弊害があります。


-データのほころびを見つけて正常化するには細かく原因を探っていくことがポイントですか?

きれいな数字をKPIとして厳密に管理することが目的ではありません。私はずっと外国人上司の下で働いてきましたが、彼らの定番フレーズは「How can I help you?(どうすれば、あなたを助けることができる?)」でした。マネジメントは現場が動けるように、何をしてあげれば業績向上につながるのかを考えるのが仕事です。とは言え、現場は問題を言えなかったり、そもそも問題を認識できていなかったりします。現場で起きている問題を改善するのは経営の役割なので、現場で何が起きているかを把握しなければなりません。数字はそれを把握する材料で、聞くためのきっかけです。そのため、そこまで厳密な数字であることにこだわりはありません。


-現場で何が起きているかを把握するための数字の見方とは?

一つ目は単純な比較をしないという事です。例えば受注率を比較する時に部門Aの受注率30%と部門Bの20%は市場環境も競合など前提が異なる可能性があり、単純に横に並べて比較しても意味はありません。それぞれの部門別に過去の受注率を時系列で変化を見るなどトレンドに着目した方が変化や課題を見つけやすいと言えます。
また、複数の指標を組み合わせてみることも有効です。わかりやすい例で言うと「件数」と「金額」です。パイプライン管理上、1億円の見込金額がある二人がいるとします。内訳をみると、Aさんは1億円の案件が1件、Bさんは1,000万円の案件が10件です。二人の合計見込み金額は同じですが、Bさんの方が案件が分散されているためリスクは低いと言えます。これは極端な例ですが、組織全体の数字を見る時には意外と件数と金額のバランスを見逃している事が多く見られます。
-話は変わりますが、帝国データバンクは企業ベースで660万件、拠点ベースで900万件のデータが保有しています。福田さんが自由にそのデータを使えるとすると何をしますか?

MAが日本で導入され始めた当初は、サイト訪問や資料ダウンロードなどの「行動」をとらえてホットリードと見る「行動」重視の企業が多かったのですが、最近はリードの「属性」を重視する傾向が強くなっています。ターゲット企業を設定しても、リードの属性がわからなければ、アプローチすべきターゲット企業かどうか判断がつきません。マーケティングの立場からするとコストをかけ施策を行って集めてきたリードですが、全てのリードに均等に力をかけるのではなく、会社として攻めたいターゲットに絞りこむことがBtoBでは特に重要な戦略ですね。

ではどの会社を攻めるのかを考えるとなると、いくつかのインプットが必要になります。ひとつは現場の感覚です。我々の業界ですと「SaaSツールを複数使っている」という企業があれば、感度が高いと判断できます。他には「マーケティング予算をかけている」「この業界が盛り上がっている」なども現場からのインプットです。ただし、現場の感覚だけでは恣意的になってしまうので、そこに対してTDBが保有するデータを組み合わせて裏付けし、セグメンテーション、ターゲティングすることが不可欠ではないかと思います。ターゲティングができていないと、散弾銃で撃ちまくるようなマーケティングしかできませんので、
もう少しスコープを絞ったマーケティングを行うためにデータは必要だと思います。


-他にこんな属性を見られたら面白そうと思うものはありますか?

まだ、成功パターンを見つけられている企業は少ないのではないでしょうか。アメリカではWebサイトをクローリングして収集した情報をAIで分析するようなことも行われているようですが、まだ世間に受け入れられるサービスとして確立されるまでは至ってないようですね。我々のようなマーケティングツールですと、Webサイトにどのようなタグがはいっているのかがわかると提案がしやすくなります。財務諸表や決済データも融資の判断にも使われるようになってきましたね。他には、非上場企業の広告予算、スタートアップ企業の調達金額や投資したベンチャーキャピタルなどがわかると、「この企業はいつ頃IPOを狙っていそうか」なども見えてくるかもしれません。個別調査のデータとオンラインで広がっているデータを組み合わせると新しい発見があると思います。


-TDBカレッジは「ビジネスパーソンのデータリテラシーを高める」をコンセプトに運営しています。ビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

データはビジネスを理解するものです。データを見て読み解き、こういうことが起きているのではないか?という仮説を立て、現場で確かめるということが重要です。その繰り返しがデータを読み解く力になるはずです。


-福田さんにとって「データ」とは何ですか?

好きな言葉に「データが正しい限り、それは嘘はつかない」というものがあります。実際には先ほども言ったように、「嘘をつくデータ」もありますので、「正しいデータ」との関係を紐解くことで真因がわかります。真因を探るために、「データ」と真摯に向き合っています。

私にとって「データ」と向き合うことは、「知的なゲーム感覚」で推理小説を読み進めていくようなものです。推理小説はきっとこういうことが起きているんだろうなと推理して、現場に話を聞いて、合っているのか、間違っているのかをたどっていくことが面白さです。データとの向き合いも同じ感覚であり、だからこそ仕事が面白いと言えるのではないでしょうか。


(聞き手:株式会社帝国データバンク 営業企画部 貞閑洋平)


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