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  • 古いものと新しいもの、どっちから使う?~棚卸資産の評価方法~

2020.01.23

[企業審査人シリーズvol.202]


「さ~~仕事終わり!早くお迎え行かないと・・・!!」
近年の「女性活躍推進」という社会の流れに漏れず、ウッドワーク社でも子育てしながら時短で働く「ワーママ」や、家事・育児に協力的な「育メン」が増えている。経理課の児島麻耶もそんなワーママの一人である。
「今日もお疲れ様!」と隣の席で独身貴族を地で行く木下に見送られ、保育園にお迎えに行くと、母の姿に気づいた息子が満面の笑みで駆け寄ってくる。一日の疲れが吹き飛ぶ幸せな瞬間・・・だが、この幸せは残念ながら、長くは続かない。
「いつまで走り回っているの・・・早く靴を履いて。お腹空いているでしょ?帰るわよ」
 言葉は強いが語気はやさしく・・・イライラする気持ちを抑え、走り回る息子を捕まえる。これから、夕飯作り、洗濯、寝かしつけと、第2の仕事が待っている・・・。
「ただいま~。おっ、洗濯物、たたんでくれてありがとう。このバスタオル片付けてこようか?」
 慌ただしく洗濯物を取り込みたたんでいると、夫の健太が帰宅した。健太が「家事・育児意識高い系」のいわゆる「育メン」であることに、麻耶は心底感謝している。
「ありがとう。でもいいわ。この後すぐお風呂でしょ?すぐ使うからもうこのまま出しておこうよ」
「えっ?!!それだと、このバスタオルばかり使うことになって傷んでしまうから、ダメだよ!俺はいつも、畳んだものを列の一番奥にしまって、手前から使ってるよ。そうすると、常に一番先に洗濯したものから使えるから」
「おおざっぱなO型」の典型である麻耶は、健太の発言を聞いて、彼の血液型が「几帳面なA型」であったことを思い出し、少しだけ面倒だなぁと思いながら、健太の言い分はもっともなので、従うことにした。
「・・・わかったわ。じゃあ、我が家のバスタオルは『先入先出法』ということね」
「えっと・・・『先入先出法』ってなに?」
日中、同じ経理課の木下と一緒に在庫の棚卸評価をしていたこともあり、麻耶の口から無意識に会計用語が飛び出したが、健太は技術職で会計とは無縁である。
 「『先入先出法』っていうのは、在庫の評価方法の一つよ。商品を仕入れて販売している会社には、仕入れたけれどまだ売れていない在庫あるでしょ?決算書には、その在庫がいくら分ありますって計上するのだけど、その金額は仕入れ値で計上するのが基本よ。ただ、扱っている商品が多いと、今回売ったのがいつ仕入れた分なのか、残っている在庫はいつ仕入れた分なのかを把握し続けることが大変なの。だから、先に仕入れたものから売ったと仮定するのが『先入先出法』なのよ。先に入れたものを先に出す、文字通りでしょ」
「あぁ、なるほどね。ということは・・・残っている在庫が一番最近仕入れたもの、ということか!」
「その通り。冴えてるわね。我が家で言うと、一番最近洗濯したバスタオルが、棚に残っているということ」
「そういうことか!うん、『先入先出法』、イイネ!ちなみに他の方法もあるの?麻耶が洗ったばかりのバスタオルを使おうとしたのは、『後入後出』??」
 バスタオルの順序がよほど重要だったのか、健太からの質問は続く。健太と会計の話をするなんて珍しいな、と思いながらも、なんだか少し嬉しくなって麻耶は答えた。
 「『後入後出』だと、『先入先出』と結局は同じでしょ(笑)。でも考え方はいいわ!後から仕入れたものを先に売るという仮定は、『後入先出法』よ。そうね・・・イメージとしては、牛丼屋さんの紅ショウガとか?減ってきたら上に足すけど、また上からみんな取るんじゃないかしら?もしかしたら補充のときに残っていた分は処分しているかもしれないし、実態は知らないけど。あとは『平均法』っていうのもあるわ。文字通り、平均単価で計算するというものね。仕入の都度計算するものは『移動平均法』、週ごと、月ごとのように、一定期間ごとに計算するものは『総平均法』と呼ばれているわ。健太は石油を扱っているから平均法をイメージしやすいんじゃない?素人目には、古いものも新しいものも、タンクの中で混じってしまう気がするから・・・」
 「うん、確かにそれはイメージしやすいね。在庫だけでもいろんな方法があるんだね」
 「そうよ。他にもいくつか方法はあるんだけど、それぞれメリット・デメリットがあるわ。要は実態に合った方法を選択して使い続けることが大事ね。事実は一つでも、どの方法を使うかによって決算書上の金額が変わってしまうんだから、都合のいいように好き勝手に使うと利益操作になってしまうでしょ?」
 「利益操作?え?バスタオルの話から、なんだか難しい話になってきたぞ・・・」
 麻耶が説明しようとしたとき、これまで機嫌良くブロックで遊んでいた息子が、麻耶のところに駆け寄ってきた。
 「おかあしゃん、パンたべたい!」
 息子の「パン・リクエスト」で、夕飯の準備が遅れていることに麻耶は気付いた。
 「もうすぐ夕ご飯だから少しだけね。すぐ作るからもう少し待ってね。健太、この話の続きはまた今度!」
 買ってきたばかりのパンの袋を開けながら、麻耶は二人に声をかけた。残っていた賞味期限切れのパンは明日、健太と麻耶の朝ご飯になる。息子にはいつだって『後入先出』なのである。

後入先出法の廃止

本文で何度も登場した『後入先出法』ですが、我が国においては企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正により、2010年4月1日開始事業年度から廃止されました。理由としては、新しいバスタオルから使おうとした麻耶に対して健太が違和感を抱いたように、『後入先出法』は一般的に、棚卸資産の実際の流れを表現しているとは言えないことや、貸借対照表価額に市況の変動を長期間反映しない可能性があること、恣意的に在庫量を調整することで、棚卸資産に含まれていた保有利益を意図的に当期の損益に計上できることなどがあります。

棚卸資産の評価方法の選択

本文で触れられた評価方法の他に、取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する『個別法』、値入率等の類似性に基づいて棚卸資産をグルーピングし、グループごとの期末の売価合計額に原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする『売価還元法』があります。『個別法』は貴金属など個性が強い棚卸資産の評価に、『売価還元法』は百貨店など取扱品種の極めて多い小売業などに適しています。
 企業会計基準第9号では、「これらの棚卸資産の評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければならない」と定められています。

棚卸資産評価と利益の関係

今回は詳細な説明を省略しますが、「売上原価=期首棚卸資産+当期仕入高-期末棚卸資産」で算定されるため、棚卸資産の評価は、売上原価、引いては利益の金額に影響します。カレッジコラムバックナンバー「在庫と利益の関係 ~地下倉庫と頭の整理~」も合わせて読んでみてください。

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