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  • 商業登記の見方 ~虚飾にご用心~

2013.10.04

[企業審査人シリーズvol.2]

青山は、審査に移って登記簿や決算書を見るようになってから、常々感じていることがある。それは、会社というのは実に見栄っ張りだということだ。今日見た調査会社の報告書でも、本店が千葉市花見川区検見川、登記面本店が東京都中央区日本橋、という会社があった。登記面本店とは商業登記上の本店を指すようだが、実際の会社はそこにはなく、本店として表示された場所にある。
「こんなところで見栄を張る必要があるんですかね。」青山はつぶやいた。
「会社の本社所在地はステイタスだからね。書類上だけでもそういう背伸びをする会社は珍しくないよ。」先輩の秋庭が珍しく乗ってきた。

 いつも余裕なげに自分の仕事をこなしている秋庭が声をかけるのは珍しい。ひどいときは耳栓をしていることもある。今日は何かいいことがあったのか?
「商業登記の本店は戸籍の住所みたいなもんだよ。青山の戸籍上の本籍地はどこ?」
「本籍地?」生まれてずっと東京・亀戸で育った青山は、「亀戸じゃないですかね」と答えたが、改めて本籍地を聞いたことはない。
気になった青山は、その日帰宅するなり夕餉の支度をしている母親に「俺の本籍地ってどこ?」と聞いた。
「目黒よ」「目黒?嘘?!」驚く青山に母は補足した。
「結婚したとき2年だけ住んだとき移したの。かっこいいから、亀戸に来ても変えてないのよ。」
虚飾の人は身近にもいた。青山は首を振りながら自分の部屋に向かった。

「銀座本店」や著名企業の類似商号に注意

 実際に会社が所在する本店の住所と、商業登記上の本店住所が異なることはよくあります。その理由はさまざまで、創業地を登記上の本店として残している場合もあれば、小さな会社で社長の住所を登記上の本店としているケースもあります。しかし中には、まったく縁のない土地を登記上の本店とするケースもあり、東京の銀座はそうした登記上の本社が置かれる代表格です。そういう会社はそこに実体がなくても、あえて実際の本店住所より登記上の本店住所が目立つようにホームページや会社案内に記載し、あたかも創業地などのゆかりがあるように見せかけます。業歴が浅いことを隠し信頼度を高めたいという動機なのです。
 こうした「虚飾」は商号にもあります。誰しも自分の会社に立派な名前を付けたいものですし、社名は自由に付けることができるわけですから、一概に「虚飾」と呼ぶことはできません。しかし明らかに有名企業に似せた商号であったり、不釣り合いに大きい商号であったりする場合、取引先の側ではチェックする必要があるでしょう。「日本~」、「エコ~」「~総合研究所」、「~システム」、「ワールド~」といった商号は大きなイメージを持たせる代表格です。これらが商号に付いているから怪しいと決めつけることができませんが、新聞紙上を賑わす詐欺会社の社名に地域や業種を特定しづらい、大きな印象を与える社名が多いのは事実です。

資本金も要チェック

 もうひとつ、ネガティブチェックという意味では設立時の資本金も気にしておくとよいでしょう。一般の会社は最低資本規制度が撤廃された後も、資本金は数百万円から1千万円程度でスタートする会社が大半です。設立時から資本金が億円単位の会社は、大企業の子会社や合弁会社であるか、不鮮明な資金力を持ち合わせた会社か、のいずれかの可能性があります。前回パクリ屋について紹介しましたが、最近の事例では休眠会社の登記を買収した直後、資本金を1,000万円から5,000万円や7,000万円に増資している例が多いようです。
ホームページでも、多くの企業は取引高上位順ではなく知名度順に取引先を掲載しているものです。大事なのはその良し悪しを論ずることではなく、そうした現実の中で真贋や本質を見極めることにあります。
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