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  • 与信限度と補完方法 ~取引条件と利益率~

2013.11.08

[企業審査人シリーズvol.7]

「うちの会社では上限と下限はどういうロジックで決めてるんですか?」
与信限度に関する青山と水田の会話は続いていた。
「大雑把に言えば、上限については自社の自己資本と相手先の年商の2本立てじゃな。どれだけ大きな取引でも、こけたときにうちの会社が致命的なダメージを受けないようにという観点。もうひとつは相手に深入りしすぎて手を引けなくなるリスクを避ける観点じゃ」
「なるほど。下限はどうなのですか?」
「下限は社内の業務を簡素化するために、少額・小口の取引は限度申請を省略すると決めとるんじゃ。そもそも、与信限度は与信管理の一部に過ぎんからな」そういって水田はニッと笑った。
「それはどういうことですか?」青山の質問が少し詰問調になり、水田は苦笑しながら答えた。
「与信限度は取引先とどう付き合うかを管理する方便で、いくらまで付き合うかを決めておけば、有事のリスクを抑えられるという道具じゃ。じゃが、リスクを管理する方法はそれだけかな?青山君が友達にお金を貸すとき、どうやってリスクを管理するかの?」
「私は人にお金を貸しませんからねえ」
そう即答して、それじゃ話が続かないじゃないかと思い直した青山は、慌てて言葉を継いだ。
「まあ私が貸金業者なら、返してもらえなくなったときのために何かを預かったりしますね」
「青山君は質屋タイプじゃな」水田は笑った。

与信限度の不足を補う「取引条件」

 前回、与信限度額の考え方と実情をご紹介しました。与信限度の算定に万能な方法はないのですが、方法はともかく、取引額の上限を決めておけば、与信を無制限に広げるリスクは回避できます。上限管理を入れるだけでも、売掛債権の管理機能は高まります。売上債権額は「月売上高×回収サイト」ですから、売りすぎるか、回収サイトが延びるか、いずれかの状態になると上限を超えてしまいます。上限を超えたときにアラームを鳴らすことで、売り過ぎにブレーキをかけることができるわけです。
 しかし、お話ししたように与信限度額自体、大雑把な算定しかできませんし、限度を決めたとしても、限度額内の焦げ付きはすべて容認するという腹の括り方はなかなかできないものです。
 そこで、取引先との付き合い方のもうひとつの側面として出てくるのが「取引条件」です。契約に所有権留保条項や期限の利益喪失条項を入れるのは基本的な保全手段であり、与信管理の基本として広く契約に用いられますが、相手の信用状況に合わせて、より踏み込んだ契約や保全措置をとることが重要です。
 算出与信限度から見ると厳しい、もしくは相手の信用度を考えると厳しい事案の場合、踏み込んだ契約や保全措置を付与すれば承認できることがあります。金融機関が融資契約の際に不動産担保をとるだけでなく、財務制限条項(コベナンツ)を付して、財務内容が一定以上悪化した場合に契約を解除できるようにしているのも、契約時の保全措置の一環です。相手との力関係にもよりますが、こうした「リスクの大きさに見合う保全をとること」は与信管理の基本です。

「攻め」としての儲けのコントロール

 与信限度を補う「付き合い方」のもうひとつは、粗利益率のコントロールです。通常、利益率は営業サイドで取引量とともに商談に基づいて申請されますが、本来、相手の信用度に応じて利幅を調整できれば、リスクのみならず収益を最適化できるはずです。エピソードの審査課長・中谷はそうしたところを目指しています。
 実際には、商談先行の後追い審査では利益率のコントロールが難しくなります。運用のカギは、相手の信用状態に関する情報をいかに早く営業部門にフィードバックし、それに基づいて商談を進めてもらうか、ということになります。継続的な取引先であれば、次回取引の条件見直しとして営業部門に申し送るなどの手段がとれます。

 与信限度・保全・粗利益率。この3つを複合的に用いることで、より戦略的で緻密な与信管理が実現します。

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