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  • 再建型倒産の話 ~倒産の基礎・3~

2013.11.29

[企業審査人シリーズvol.10] 

「倒産の形態についてはだいぶ理解が深まりましたけど、私たちの仕事は倒産しそうな会社を見抜くことですよね。倒産しちゃった後の形態を知っておいて、どう役に立つのかがまだイメージできてません」中谷の30分に及ぶ解説を聞いて、青山は素直な感想を漏らした。
 「そうね。審査人の常識だから、というだけじゃ覚えておく動機付けとしては弱いかしら」中谷はひと呼吸置いてから、話を続けた。
 「倒産後の債権回収に関わっていく中で、具体的に進め方が異なってくる部分があるんだけど、そこはまた次の機会にするわ。青山が最初に言ってた、倒産した会社がその後も営業するのか、しないのか、というところも大事になってくるのよ」
 青山の顔に「?」が浮かぶ。名前の通り、ホントに素直でわかりやすいわ。中谷はそう思いながら、やさしく続けた。
 「倒産時点の債権をどう回収するか、というのが当面のテーマになるけど、再建型の倒産の場合は、その後も会社は生き残るわけでしょ。一度不義理されたから金輪際取引をやめる、というのも選択肢だけど、当面は存続に協力して在庫や投資を儲けによって回収しようとか、もっと言うと、相手によってはスポンサーに名乗りを上げて傘下に入れちゃおうとか、考えるわけよ」
 「へえ、そうなってくると営業戦略みたいなことになってきますね!」青山の顔に「興」の字が浮かぶ。軽い興奮と強い興味が顔に出ている。
 「そうよ、攻めの審査が理想と言ったでしょ」そう言った中谷の声も弾んでいた。

再建型と清算型

 企業倒産には再建型と清算型があるという話をしましたが、これらは最初からきっぱり道が分かれているわけではありません。再建を目指したものの、関係者の協力が得られずに清算に移っていくことは珍しいことではありません。
 何せ、再建型といっても一度関係者のお金を踏み倒しているわけですから、それでも事業を続けていくには法的な管理のみならず、当事者に強い意志とエネルギーが、そして関係者の忍耐と協力が必要になります。会社更生法の場合は経営陣が退陣することでけじめがついた形になりますが、民事再生法の場合は旧経営陣が残ることもありますから、結局その過程で賛同を得られず会社更生法に切り替えたり、清算に移行したりするケースが出てきやすくなります。流通業大手だったマイカルが経営陣の混乱もあり、民事再生法を申請した後、民事再生手続きの中止と会社更生法の申請を余儀なくされたのは記憶に新しいところです。
 清算型であれば相手の会社との縁はそこで切れ、ある意味で後腐れなく回収に集中できるわけですが、再建型の場合は「それでも付き合うか」という判断が発生します。それはとても戦略的な判断になります。

倒産への戦略的な対処

 再建型とはいっても、相手方との関係によって選択肢は限られてきます。自社の債権額が小さい場合はそこで取引を終えることも多いでしょう。
 ただ債権額が大きく、自社の商流の中でも一定以上の存在感がある相手である場合、少なくとも当面は営業を継続してもらうほうがメリットは大きいと言えます。そういう会社が急に事業を停止してしまった場合、それまでの売掛がダメになるだけでなく、納入予定だった在庫もムダになることがあります。特注品を納入しているケースです。さらにその特注品を作る金型を作ったばかりだった、その生産のために設備投資をしたばかりだった・・・といったことになると、実際の損失額は売上債権額をはるかに上回ることになります。

 倒産後の方向性を会社が説明する債権者集会では、債権者の利害が錯綜する場面が多いものですが、商流に絡まない金融機関はすぐに清算して回収すべきものを回収してしまおうとするのに対し、商流に絡む事業会社は当面の商流が破綻しないように、不義理されたことにはいったん目を瞑って再建計画を支持する傾向があると言われます。
 これもどちらが悪いわけではなく、それぞれの立場や利害からすれば当然のことです。そうした中で自社がどういう立場をとるか、という判断を行うことになるわけです。
 中谷が言うような買収に至るケースは極端ですが、もしその企業の事業に成長性や将来性があるならば、倒産は過去の負債を一度清算した会社を安く買うチャンスにもなります。審査部門が企業の「目利き」を深く行っていれば、そういう戦略的判断において意見を求められるまで自らの立場を高めることができるわけです。

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