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  • 与信管理の緊急対処 ~まず現地へ!~

2014.02.21

[企業審査人シリーズvol.21]

「えっ?支払延期?」中谷の大きな声に青山は思わず手を止めた。
 「で、売掛はどれくらい?・・・うん、・・・うん、わかった。じゃあまた連絡してね」
 受話器を置いた中谷にただならぬ気配を感じて、青山が「どうしたんですか?」と聞いた。
 「横須賀の川路組から支払延期の要請が来たの。うちも先月の資材で300万円の売掛あるんだけどな」
 川路組は下請主体の工事業者で、青山が勤めるウッドテックから年2~3回資材を仕入れている。
 「課長、川路組はうちの関連の小川土建の現場にも下請で入っとるよ」と水田が声を掛けた。
 小川土建はウッドテックが30%出資している関連会社で、青山も名前は聞いている。
 「そうでしたね!じゃあそういう手も打てるかな・・・」中谷が水田のほうを見て言ったが、青山は呑み込めない顔をして、ふたりの顔を交互に見ていた。
 「川路組が危ないのと小川土建の現場に入ってるのと、何がどうなんですか?」
 「うちの川路組への債権を小川土建に譲渡して、小川土建が川路組への債務と相殺するという苦肉の策がとれるかもしれん、という話じゃ」
 数秒の間だ、頭の中で図を書いていた青山は、ようやく合点した顔をした。
 「しかし小川土建はそんなことを受けてくれるんですか?」
 「関係ない会社ならムリだけど、小川土建は事業上も関係あるからね。ただ、それは非常時の手段であって、まず状況を調べなきゃ。小川土建に川路組の情報がないか聞いてみるわ。もしまずい状況なら、秋庭君、横浜の担当の外野君と一緒に現地に行ってみる?」
そう言うなり、中谷は受話器をとった。

緊急時はまず現地へ

 焦付きの事故を未然に防ぎたい審査部門にとって、こういう事態は避けたいものです。しかしどれだけ手を尽くしても突発的な事態は起きます。したがって、被害を最小限に食い止める準備を進めることが大切です。
 状況が不確かな場合は、まず信頼のおける情報ルートで裏付けをとった上で、その取引先に出向いて状況を確認するのが王道です。情報が不確かな段階で関係者にあれこれ情報を伝えると、取引先を風評によって追い込むだけでなく、債権保全においても他社に出し抜かれる可能性があります。裏付けはあくまでそうした懸念のない先に絞って行い、問題がないと判断できた場合を除いて、早い段階で現地に出向いて取引先と対応を協議することが大切です。急場においても誠意ある形で対話を行う姿勢を見せることで、結果として有利な対応を導ける可能性があります。この際、営業担当に指示して動いてもらうこともできますが、債権額が大きい場合や周到な動きが必要となる場合は、審査部門の担当者やマネージャーが同行しましょう。

相殺と保全手段

 今回、水田と中谷が保全準備として想定したのは債権譲渡による相殺です。相殺はもっとも効力がある保全措置ですが、相対で売り買いをする商流を持っていて相互に債権・債務が発生することが前提となります。非常時に慌てて相殺債権を作ると、後で破産法の詐害行為として無効になる可能性があるため、債権譲渡による相殺は比較的多用されます。
 債権譲渡については相殺を目的としたものだけではなく、信用の不足した相手に予めその販売先からの債権の譲渡を承諾させ、緊急時に行使するという方法が一般的です。こうした手を打てない場合は、現地での現物回収(先取特権等)を行うことになります。

 ただ、現物回収のような手法は販売先の承諾を得なければ後で詐害行為として否認されるリスクもあり、「ダメでもともと」という火事場の緊急措置となります。したがって、契約時の基本契約として期限の利益喪失や契約解除、損害賠償、所有権留保、出荷停止等に関する条項を織り込み、必要があれば連帯保証を付けるといった措置を講じておくことが重要です。

 担保を含む保全措置は損失を最小限にするための措置ですが、いざとなって慌てても有益な選択肢は限られるため、契約時にいかに相手の信用を見定め、それに応じた条件を織り込んで取引をスタートできるかがポイントになります。与信管理はまさに、「備えあれば憂いなし」なのです。

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