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  • 循環取引と融通手形 ~毎月同じじゃおかしい?(後編)~

2014.03.24

[企業審査人シリーズvol.25]

「取引明細から怪しい取引を見つけることって、よくあるんですか?」
 千葉が席に戻った後、青山が聞いてみると、水田が眉間にしわを寄せて答えた。
 「あんまりいい話じゃないけどな、グルグル取引に巻き込まれたことがあってな」
 「グルグル取引って、循環取引というやつですか?」
 「そうそう。それにうちの営業担当が巻き込まれてしまってな。まだ若いやつじゃったがプレッシャーに負けたんじゃな。経営状態が悪い工務店に話を持ちかけられて、乗ってしもうたんじゃ」

 与信管理の市販本に書いてあるようなことが、うちの会社にもあったのか。青山は少し驚いた。
 「どうしてそれがわかったんですか?」青山は身を乗り出して水田に続きを促した。
 「取引実績を見ておると、最初の3年間一度も与信限度を上げたことがなかったのに、突然立て続けに増額の申請が上がってきてな。販売先の売上は増えてないし、おかしいなと思ったら、ある仕入先の商品の売上だけが増えていることがわかったんじゃ。それで営業担当を問い詰めたんじゃ」
 「被害はあったんですか?」普段は無関心に仕事をしている秋葉も、この話は初耳だったのか聞いてきた。
 「幸い金額は1,000万円くらいで済んだ。早い段階で気づいたから何とか回収はできたんじゃが、俺が気づいてなかったら、とんでもないことになっとったよ」
 少し得意げな雰囲気で湯飲みを持った水田に、青山も秋庭も心の中で小さな敬礼をしたのだった。

循環取引・架空取引の魔の手

 取引額が通常の動きから見て不自然な場合、商流、すなわち販売先の販売先まで見て取引の中身を見ることが大切だと前回お話しました。そこを見ていくと、自社の不正につながっていることがあります。そのひとつが、今回水田が話した架空売上や循環取引のケースです。

 循環取引は「グルグル取引」などとも呼ばれ、数社が架空の売上実績を立てるために、A社がB社に、B社がC社に、C社がD社に、D社がA社にといった具合に循環して行う取引です。各社で売上が水増しされ、支払いに手形を振り出すことでそれを割り引き、当座の資金を捻出できます。こうした取引では、商品は流れず伝票だけが流れていくわけですが、一度この循環に手を付けると、各社は回を重ねるたびにそれぞれが乗せた利幅分だけ多くの額を販売する(支払う)ことになるため、取引額が雪だるまのように膨れていきます。最後は資金繰りに行き詰まり、連鎖倒産が起きます。

 循環とまではいかずとも、業績不振の2社が互いに手形を振り出し合う「融通手形」もあり、いずれも企業間取引においては破綻を招く麻薬のようなものです。こうした手形操作には金融機関や手形割引業者が常に眼を光らせており、「融手の噂」「手形割り止め」といった情報が出てきたらそれはかなり警戒レベルの高い信用情報と見る必要があります。

巻き込まれないために

 循環取引では、自社の営業所や営業担当が片棒を担いでしまう可能性があります。単に騙されて担ぐケースもありますが、知っていて自分の売上欲しさに荷担してしまうケースもないとは言えません。
 こうした取引に巻き込まれると、仮に損失額で深傷を負わずに済んでも、自社の風評が出回ったり、管理面・コンプライアンス面で穴が多いと疑われたりするリスクが生じます。社内でも、経緯の調査や取引に荷担した営業担当の処分(左遷や懲戒免職)など、多くの関係者を巻き込んで有形無形の損失を被ることになります。

 外で戦う営業担当はノルマを背負い、さまざまな誘惑に晒されながら戦っています。今回紹介したような与信面での不正に限らず、さまざまな不正にはまるリスクを抱えているわけです。そうした自社の営業担当の不正を未然に防ぎ、営業担当をリスクから守ることも、審査マンの重要な役割といえます。

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