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  • 登記・役員・大株主その3【資本金と株主】~報告書の読み解き方-3~

2014.06.13

[企業審査人シリーズvol.37]

「役員の話になりましたけど、資本金についてはいつも総額を確認する程度です。ここにも何か情報があるのでしょうか」と、青山の質問は続いている。
 「資本金については、報告書では最大11回分の変更履歴を表示していますが、ここにも情報が隠れています。増資を繰り返している会社や、資本金が千円単位まで細かい会社は、ベンチャー企業のように出資者が多く手の込んだ資本政策をとっている会社であることが多いですね。逆に減資をしている会社は、過去に経営不振に陥って、その累損を解消したという推測をすることができます」
 「資本金自体はいくら以上だったらどう、とかいうのはありますか?」と青山はまだ総額にこだわっている。
 「資本金の大きさは大企業や中小企業といった区分や税率に関わるので、その会社の方針によって変わってきます。以前は株式会社なら1,000万円、有限会社で300万円という最低資本金制度がありましたね。それは撤廃されましたが、一般の株式会社の設立時の資本金は1,000万円が未だに主流です。設立時に1億円を超えているといった場合は大企業の子会社であるケースが大半ですけど、株主が個人の場合はその資金源をよく確認する必要がありますね」と横田の説明は滑らかに続く。
 「なるほど。資本金はそれを拠出している株主とセットで見なきゃいけないということですよね」
 「そうです。株主は商業登記事項ではないので、調査員は取材で先方に聞きますが、取材しながらまず同族会社かどうかを確認しています。同族会社なら、株主構成から相続や権限委譲の状況が見えてきます。死亡した個人が株主に長く残っているような場合は、相続トラブルが発生して長引いている可能性もあります。同族で株主が多すぎると、相続問題が生じやすくなるとも言えますね」
 「役員以外の個人の大株主がいる場合は、気になりますね」青山が口を挟んだ。
 「そうですね。それは役員以外に実権を持つオーナーがいることを意味します。オーナーの存在や素性を確認する必要があるでしょう。中小企業では上場会社のように持株会社を作ったりせず、オーナーが各社の大株主として君臨している場合も多いですからね」
 「法人株主の場合は、その法人の信用を確認しなきゃいけませんよね」
 「そうです。ベンチャーキャピタルや投資ファンドが株主に入っている場合は、株式公開を予定しているか、あるいは過去に予定していた場合があります。ただ、計画倒れになっているケースもあるので、これは必ず信用の裏付けになるわけではありません。過信せずに経緯を確認することが大事です」

資本金と株式

 「登記・役員・大株主」の最初の部分に資本金や株式に関する情報が掲載されています。株式については与信管理上、さほど重視されることはありませんが、横田が説明したような観点は、調査員が意識している点です。
 また株式については中小企業の多くが「発行可能株式の1/4の発行済株数」「種類株なし」「株式譲渡制限あり」という状態ですが、種類株を発行している場合は株主との間に特殊な権利関係を設けているので、理由を推測しましょう。
 発行可能株式数は授権株数(授権枠)などとも呼ばれ、会社の発行株式数を制限する枠を指します。かつては発行済株数の4倍までという制限がありましたが、平成13年の商法改正により「株式譲渡制限規定」を設けている会社は自由に決められるようになりました。また「一単元の株式の数」という欄には、議決権を与える株式数を一定数に定めている登記がある場合にその株式数を掲載しています。かつては少数株主の権利行使を制限する単位株制度と端株制度がありましたが、現在は単元株制度に一本化されています。種類株式は、議決権や配当など株主の権利を制限した株式です。配当優先(劣後)株式・残余財産に関する優先(劣後)株式・議決権制限株式・譲渡制限株式・取得条項付株式・取得請求権付株式などがあります。株式譲渡制限については、本来自由に売買できる株式の譲渡を制限する登記で、株式譲渡制限会社は「非公開会社」とも呼ばれ、「公開会社」と区別されます。 

大株主は取材情報

 株主名、持株数、各株主との関係を掲載しています。これらは調査員が調査先で取材した情報であり、取材協力を得られない場合は把握が難しくなります。株主が法人の場合は企業コードも掲載していますが、企業コードがない場合はTDBにその会社についての情報が何もないことを示しています。その会社自身が株主に載っている場合、自己株式を保有していることを示します。上場企業では自己株式の保有を資本政策の一環としてコントロールするのが一般的ですが、中小企業が保有している場合は、相続や株式の集約の過程で保有者が浮いた株を会社が買い取ったケースが多いと見られます。
 なお、この欄は「大株主」とある通り、掲載は持株数上位順で最大10名までです。また、調査時点で変更予定がある場合は付記に予定を掲載します。多くの中小企業は大株主=役員ですが、横田が説明しているように役員以外の個人が大株主にいる場合は、その素性を確認することが重要と言えるでしょう。 

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