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  • 系列・沿革その1【系列情報】~報告書の読み解き方-11~

2014.08.29

[企業審査人シリーズvol.48]

「さて、今日の到達目標、『系列・沿革』ですね」と、横田が報告書見本のページをめくりながら青山に声をかけた。当の青山は眠そうな顔ひとつせず、熱心に報告書見本を覗いている。社内で「いいやつ」で通っている青山は、こういうところでも粗相はない。時計は15時をまわったところだ。
 「まず、資本関係、関係会社と分かれていますけど、最初は何が違うのかがわかりませんでした」
 「資本関係には、その会社の親会社にあたる会社、関係会社には兄弟や子供にあたる会社を掲載することになっています。親については直接出資を受けていることを関係の前提にしています。一方、関係会社のほうは出資がなくても、代表が兼務していたり株主が一緒だったりという、緩い関係でも掲載しています」
 「グループ系列っていう欄もありますけど、資本関係とは違うんですか・・・」と青山が項目を指差した。
 「昔はなかった項目ですけど、企業グループに属している場合にその頂点企業を掲載しています。直接出資がなくても、親の親が頂点企業であればその会社を書きますし、調査先が頂点企業であればその会社が掲載されます。系列情報をデータベース化することを目的に新設した項目です」
 「なるほど。ここはやはり、支配される親会社がどういう会社か、というところが気になりますよね」
 「そうですね。親会社というのは経営面の従属関係を示すだけじゃなくて、有事の際に資金援助をしてくれる可能性がある先ですからね。まあ、2000年以降は上場企業グループでも、グループ子会社が倒産するといったことが起きているので、常識が変わりつつあるとは言えますが、子会社の業績不振や損失は親会社の連結業績にも影響しますし、どちらにせよチェックは重要です」
 「親会社になるような会社は、たいてい大きな会社なので情報が拾いやすいですが、そうじゃない中小企業で関係会社がたくさんあるような場合は、ちょっと面倒ですね」
 「そうですね。中小企業では親会社を置かず、オーナーが筆頭株主や代表取締役としてグループ企業を多数束ねているケースもありますからね。その場合に重要なのは、グループの中でどこが収益を稼ぐ中核会社なのかを押さえることでしょうね。中核以外の会社が好調でも、中核会社が倒れるとそのグループはおかしくなりますから」
 うなずきながら、青山が「与信管理の面で見ておかなきゃいけないことは、ほかにありますか?」と聞いた。
 「関係会社の場合、取引関係の有無はやはりチェックしておくべきですね。中小企業のグループでは、グループ間取引で取引条件や利益を調整することがよくあります。お金が足りないときに支払いを延ばすとか、グループ内の調整は柔軟性がありますが、グループ外に接している会社にそのしわ寄せが行くことになります。やはりグループ全体を見る必要がありますね」
「なるほど。グループを一体として見ないと、ちゃんと与信管理ができないわけですね」
「だから、グループ会社の企業情報もすぐご覧いただけるように、企業コードをお付けしていますよ」と横田がニヤッと笑った。 

系列情報の見方

 このページでは、企業の「履歴書」的に、親(親会社やグループ系列)・兄弟(関係会社)、会社設立の経緯と設立後の特記事項(トピックス)を掲載しています。
 まず系列の部分は横田が説明したように、「資本関係」に当該企業が出資を受け入れている会社(株主に登場する会社)を、「関係会社」に出資は受けていないが代表や役員が兼務している、あるいは当該企業が出資している会社を掲載しています。「グループ系列」には、資本関係に掲載した会社の中で頂点にある企業、または当該企業が所属する企業グループの頂点企業を掲載します。「グループ系列」は、データベース上で系列関係を抽出できるよう、新設されました。 

企業は単体ではない

 資本関係はその会社の方向性や資金調達を左右する重要な要素であり、そこに示された親会社の信用をセットで見極めましょう。出資比率や役員の受入れ状況は当該企業との関係や距離を示しています。商流の中で親会社との取引関係があるのか否かも大切なポイントです。事業に関連性が薄いほど、苦しくなったときに手放される懸念があります。商流に組み込まれていると逆に、事業再編により吸収合併される可能性も出てきますが、この場合は与信リスクの増加にはつながらないケースが多いはずです。
 また関係会社は当該企業と横並び、もしくは下に位置する会社ですが、こちらも具体的な関係を把握しておく必要があるでしょう。中小企業では、持株会社のような親会社を置かず、代表一族が個人出資で多数の関係企業を抱えている形態がよく見られます。グループの中で中核的な存在の会社を特定し、その信用をチェックすることがポイントです。さらに当該企業が出資している子会社がある場合は、その事業採算によってその会社が資金支援などの負担を抱えることになるため、こちらも成否を確認しておく必要があるでしょう。最近倒産した大阪の酒類問屋も、原因は飲食店を手がける不採算子会社への資金流出でした。
 またグループ会社と取引関係がある場合は、仕入・販売価格の調整や在庫の押しつけ・受け入れといった利益操作が生じる土壌があると見て、業績を見る場合に留意しておくことも大切です。
 上場企業の情報開示が単体開示から連結開示へとシフトしているのは、「企業は単体では良否を判断できない」という考え方に基づくものです。与信管理においても、そうした見方は必須と言えるでしょう。

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