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  • 現況と見通し【事業内容・会社の特色】~報告書の読み解き方-22~

2014.11.28

[企業審査人シリーズvol.61]

午後3時に始まったこの日のレクチャーも「盛りだくさん」となり、会議室のブラインドから西日が射してきた。
 「あっという間に時間が過ぎますね。ここは読んでいただければわかるところなので、飛ばしましょうか」と横田が『現況と見通し』のページを開けながら青山に聞いた。
 「いや、ここだけ飛ばされるのは気持ちが悪いので、ここもお願いします」と青山が頭を下げる。
 「冗談ですよ。ただ、財務諸表とか不動産といったところまでは今日進みそうにないので、今日は評点の話までにして、来週時間が空いたときにまた寄らせていただきましょうかね」
 「手間のかかる新人でスミマセン」と、青山が再びペコリと頭を下げると、「いやいや、ウッドワークさんはうちからも近いですし、休憩がてら寄らせてもらいますよ」と横田が江戸前の笑顔で返した。
 「じゃあ、最初の『事業内容』ですが、ここは調査先の商流を示している部分ですね。私たちも取材に力を入れています。ここをきちんと把握できないと、業績も資金繰りも取引先も正しく取材できませんから」
 「そうですね。初めて見る会社ではここを最初に読み込むようにしています。知っている会社でも、へえ、そんなこともやっていたんだ、という発見があることもあります。事業構成・・・ここはいろんな分け方をしていますね」
 「そうですね。上場企業のように経営指標としてセグメント別の売上比率の数値があれば、それをここに反映するのですが、中小・零細企業の場合には、その会社がどういう数値で経営を管理しているかによって、ここの区分けがかわります。社長が把握していない構成比率は聞き出せませんから。もちろん調査員は、どういう切り口で事業構成を聞けばその会社の事業や業績を伝えやすいか、を考えて聞くようにはしていますが」
 「なるほど、確かに相手の会社が持っていない構成比率はわかりませんよね」と青山がうなずいた。
 「事業構成にはそういう事情もあるのですが、ここで重要なのは、事業の中で何が売上や利益の柱になっているのか、それがどう変化しているのか、そういうことを把握することだと思っています。その会社がやっている商売の内容は、ホームページや会社案内に載っています。でも、その中で何の売上が一番大きいのか、一番利益がとれるのはどれなのか、といった情報はまず載っていません。社長は売り出し中の新規事業を大々的にアピールしたけど、売上に占める比率を聞いたらまだ5%だった、なんてことはよくありますからね」 
 「次の『会社の特色』は、文字通り特色を説明しているところですね」
 「そうです。会社の特色というのは実は把握が難しくて、私たちにとっては腕の見せどころです。昔の報告書では、業歴とか商圏とかシェアとか、何か特徴になることを書いていましたが、今はその会社の『強み』や『弱み』をお客さまに伝えることを意識しています。その会社がどうして商売を続けられるのか、売上を伸ばすことができているのか、逆になぜ苦境に立っているのか、その理由を伝えたいと思っています」
 「うちの中谷も、その会社の存在意義をつかみなさい、ということを言っていたような気がします」
 「そのとおりです。苦境に至って会社が生き残るか否かを左右するのは、その会社が社会にとってどれだけ『なくてはならない』存在か、ということですからね。どんな企業も何らかの存在価値を認められて売上を立てているのですから、それを取材で明らかにしたいと思っています」

商流と「事業の主力」をつかむ

 横田が言ったように、事業内容の正確な把握は企業調査の基本です。調査員も、まずここを取材して、そのビジネスに必要な取引先や設備、収益モデルや資金需要をイメージしながら取材を進めます。既存の得意先であれば、そこが「どういう商売をしているのか」はだいたい把握できているものですが、青山が言うように「実はこんな事業もしていた」という発見を伴うこともあるので、確認してムダはありません。
 また、横田が説明したように、ここでは「何が売上や収益の主力なのか」をつかむことが、とても重要です。たとえば、事業内容が「産業機械の製造」と言われても、よくわかりません。まず、どの業界向けのどういう機械を作っているのか、そしてどの業界向けの何がもっとも売れているのか、利益はどれが一番稼いでいるのか、といったことをつかむことが重要です。
 自動車業界向けと食品業界向けでは需要動向が違いますし、その会社の技術分野の得手・不得手によって利益率も違ってきます。例えば「医療用機械器具卸」では、機械本体の販売が多いのか消耗品の販売が大きいのかによって、収益モデルは異なってきます。これらの情報は業績を予測する有力な材料になります。調査報告書に限らず、営業担当を通じて探ることも有益です。

強み・弱み

 「会社の特色」にはその会社の強み・弱みとその要因について説明することが多くなっています。業績が好調で、評点も上がり調子の会社については、その源泉である「強み」、逆に業績不振で、下降局面の会社については、その理由である「弱み」に比重を置いた記述をするようにしています。
 こうした「強み」「弱み」の考え方は、アメリカの経営学者、マイケル・ポーターの著名な「競争戦略」にも通ずるものです。中小・零細企業の場合は把握 が難しいケースも多く、差別化要素が見あたらないこともありますが、それは「競争優位性を見いだせない」という情報になります。
 調査員は、現地で感じた雰囲気や周辺情報などをこの欄に反映します。年に数百社を訪問する調査員は、「何かおかしいぞ?」と感じるアンテナを身につけていますので、そうした「言語化できない部分」は文章のトーンや内容に、意識的に、あるいは無意識に反映します。昔から「行間を読む」という言葉がありますが、そうした「書かれていない雰囲気」もここから感じ取っていただければと思います。

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