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  • 企業会計7つの一般原則(前編) ~青山の夏期講習~

2015.08.21

[企業審査人シリーズvol.93] 

仕事を終えてビルのエントランスに立った青山は、突然のゲリラ豪雨に立ちすくんだ。さっきフロアの窓から見たときは降っていなかったのに・・・おまけに天気予報では雨は降らないだろうと報じていたため、傘は持っていない。そこへ、同じく仕事を終えて帰る経理課の木下が後ろからやってきた。

 「お疲れ様です。木下さん、この大雨ですよ。傘、持っていますか?」
 「あいにく。青山さんと相合い傘ができませんね」
 「仕方ないですね。どうせすぐ止むでしょうから、時間をつぶしませんか」
 木下は青山の誘いに乗り、会社の隣にある喫茶店に小走りに駆け込んだ。ふたりとも、お金はなくとも時間だけはたくさんある、という若者である。席に座るなり、熱いおしぼりで顔をふきながら木下が言った。

 「昨日、折りたたみ傘が壊れてしまって・・・タイミングが悪いというか、マーフィーの法則ですね」
 「法則…。そう言えば気になっていたんですけど、木下さんに決算書の質問をすると、たまに○○の原則の考えによるものだ、という説明がありますよね」

 「それは、企業会計原則における一般原則、損益計算書原則、貸借対照表原則ですね。長年、簿記や会計を仕事としてきたので、つい口に出てしまうんです。青山さんも本を読んだりして知ってるでしょ?」
 「それが、僕は実践派なので・・・決算書については簡単にわかる式の本を2~3冊読んだんですが、ちゃんとした勉強はしてないんですよね。原則を知らなくても決算書が読めればいいや、という具合で・・・」
 「そうでしたか。じゃあ、せっかくの雨宿りだし、レクチャーしましょうか。全部説明するのは大変なので、まず7つの一般原則を紹介しましょう」

 「7つの習慣、ではなくて7つの法則ですね。・・・・って、一般原則が7つもあるんですか!」
 「まぁ、そう言わずに。簿記や財務諸表を勉強したら必ず登場しますから、知っておいて損はないですよ」
青山にコーヒー、木下に紅茶が運ばれてきて、木下のゲリラ・レクチャーが始まった。
 「まず、一般原則における大きな柱として『真実性の原則』があります」
 「それは何となくわかりますよ。決算書は真実でなければならないということですよね」
 「確かにそうであるべきなのですが、話はそう簡単ではないのですよ。実際には様々な会計処理が認められていますから、絶対的な真実ではなくて相対的真実性を指す、と言われています。2つめは『正規の簿記の原則』です。正確な会計帳簿の作成を要請する、というやつですね」
 「何だか当たり前のことのように聞こえますね」
 「原則とはそういうものです。どんぶり勘定で決算書を作ってはいけません、きちんと帳面を付けましょうということですね。そして3つめは『資本取引・損益取引区分の原則』です」
 「取引を区分する…。資本取引と損益取引?ここはちょっと説明してほしいです」
 「資本取引というのは資本の払込や減資などによる資金の動きを指します。損益取引はその元手を運用した結果の、利益の獲得に伴う資金の動きを指します。簡単な例で言うと、増資によって株主からお金を受け取った時に、それを売上として計上してはならないと言うことです」
 「なるほど。逆に売上をそのまま資本にすると、結局、利益がどれだけ出ているのかわからなくなっちゃいますよね。お金の出入りを資本と損益に分けなさい、という原則なのですか」
 「まあ、そういうことです。他にも利益が出ていないのに無理に配当する、つまり資本を食いつぶすような配当もこの原則に基づいて禁止されています。そういう配当は、タコがお腹を空かせて自分の足を食べてしまうと言う喩えから、タコ配当なんて呼ばれています」
 「タコ社長は聞いたことがありますが、タコ配当というのは知りませんでした。確かに利益から配当しないと、元手がどんどん減ってしまいますからね」
 「その通りです。ちなみにこの『資本取引・損益取引区分の原則』は、特に資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない、としています」
 「資本剰余金と利益剰余金・・・利益剰余金は与信管理でもよく見ますけど、資本剰余金というのはあまりなじみがなくてピンとこないんですよね・・・」
 「またの機会があったら、資本の話もしますよ」
外の雨足は弱まってきたが、熱を帯びた木下による一般原則のゲリラ・レクチャーは、まだ終わりそうもない。学習熱心な青山にとっては予期せぬ「夏期講習」となった。

企業会計原則

 企業会計を行う上で重要なルールの一つに「企業会計原則」があります。1949年に現在の企業会計審議会によって取りまとめられたもので、法律ではありません。
 ですが、その趣旨は実務において習慣として発達したものの中から、一般に公正・妥当と認められたところを要約したもので、すべての企業が会計処理を行うにあたって従わなければならない基準とされています。
 具体的には「一般原則」に加えて「損益計算書原則」、「貸借対照表原則」があり、その中身は今日に至るまでに一部修正されたところもありますが、根幹的な部分や重要性は変わっていません。

7つの一般原則と真実性の原則

 会計基準においては7つの一般原則があり、具体的には下記のとおりです。
①真実性の原則/②正規の簿記の原則/③資本取引・損益取引区分の原則/④明瞭性の原則
/⑤継続性の原則/⑥保守主義の原則/⑦単一性の原則

 今回、木下の説明で取り上げられたのは①から③までです。一般原則において全般に共通する重要な原則が『真実性の原則』であり、その他の一般原則の上位に位置します。しかし、ここで言う「真実性」とは絶対的なものではなく、「相対的真実性」とされています。
 一つの取引において一律の会計処理を要請するようなものではなく、例えば固定資産の減価償却の方法にも定額法や定率法が認められているように、企業はそれらを選択することができます。

正規の簿記の原則

 正確な会計帳簿の作成を要請する原則です。正確な会計帳簿を作成する上で、取引がすべて記録されているか(=網羅性)、それらの記録が検証可能な証拠資料に基づいているか(=立証性)、また、継続的・組織的に記録されているか(=秩序性)といった要件を満たすことが求められています。

資本取引・損益取引区分の原則

 文字通り資本取引と損益取引の区分を要請する原則です。資本である元手の増減と、その運用によって獲得した儲けを混同してしまうと、経営成績や財務状態を適切に把握できなくなってしまうためです。

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