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  • 与信限度更新とファクタリング ~後輩との会話~

2016.05.09

[企業審査人シリーズvol.113]

審査課の青山のところに、営業部時代の1年後輩だった反村から電話がかかってきた。反町ならぬ反村(そりむら)は、その珍しい苗字とともに大きな声と早口が特徴で、後輩ながら仕事が早いのでいつも感心していた存在だ。
 審査案件についてたまに電話のやりとりがあり、その日も前週に与信限度を更新した先についての確認が主な用件だった。

 「青山さん、昨日与信限度更新の通知が来ましたよ。事前に話していたとはいえ、そのまま承認されて安心しました。ありがとうございます」
 「そのまま通すと、経営状態から見て与信を絞られてもおかしくなかったからね。ソリがちゃんと相手の業況をヒアリングしておいてくれたから、それが裏付けになって何とか枠を維持できたよ」
 ソリというのはトナカイが牽く乗り物ではなく、反村のあだ名である。
 「ええ。僕もいい社長なので何とか助けたいという思いがあったので、いろいろ一緒に材料を探しました。ウソはありませんし、自分なりに裏もとったので、今期は大丈夫だと思います」
 「うん。そこは僕も納得できたよ。前期の業績悪化が懸念されたけど、前期の赤字が一過性だと判断できたし、今期の売上の目途もわかったからね。調査会社の報告書も取り寄せたけど、そこでもかなり具体的な受注案件とともに業績回復の見立てが示されていたから、ソリの話の裏もとれたよ」
 「いい社長なのですが、決算書をよく見せようとかそういうところは下手というか・・・数字を整えたりせずにありのまま出してしまう人なので・・・まあ、だから信用できるのですが。そうそう、青山さんに電話したのは、もうひとつ聞きたいことがあってです」 
 「その社長が、最近融資案内のファックスがよく届くと言っていました。そういうのって、最近多いとか、青山さん何か聞いていますか?」
 そう聞いて青山は、先週調査会社の横田との月例の情報交換で聞いた話を思い出した。
 「詳しくはないけど、最近多いという話は調査会社の人が話していたよ。単純な融資だけじゃなくてファクタリングも多いようだね」
 「ファクタリング?聞いたことがありますが、何でしたっけ?」と反村は素直に聞いてきた。
 「売上債権の買い取りだよ。売掛金の入金前に早く現金化したい、というときに、手数料を払って買い取ってもらう、というやつだね」
 「ああ、そうだ。大手のゼネコンで下請業者への支払で使っていることもありましたね」
 「そうそう。手形が印紙代で敬遠されるようになって、期日指定現金払いが増えてきたけど、期日現金は手形のように割り引けない。早く現金化したいニーズに対応して、ファクタリング業者が売上債権を買い取ってくれる、というやつだね」
 「でもファクタリングって、融資じゃないですよね?怪しい貸金業者からお金を借りるわけじゃないから、心配ないんじゃないですか?」と、反村は頭の回転が速い。
 「いや、貸金業者と違って利息制限法とかの縛りがないから、実質的にそれを上回る手数料をとられたり、反復的に使ううちに債権譲渡担保をとられて、首根っこを押さえられたりすることもあるようだよ」
 「そういうことなんですね。まあ、あの社長はそういうところで金を借りようとは思っていないでしょうけど、気を付けたほうがいい、ということですね」
 「そうだね。もちろん、貸金業もファクタリング業もまっとうに行っている業者はたくさんあるから、一概には言えないけど、中にはそうした法外の取引を迫る業者もあるようだから、安易に手を出さないことだね」

 「青山さんもすっかり審査の人ですね!助かります。そういう話題も、取引先との会話では活かせますから」
 反村がいつものように早口でお礼を言って電話を切った。青山は後輩・反村に頼りにされてうれしい気持ちになった半面、「自分が営業のときにも今の情報網があればなあ」と反村がうらやましくもあった。 

与信限度の更新

 与信限度(額)は、「取引可」との与信判断をした先に対して、「どれだけ取引するか」を縛る工夫としてよく用いられています。
 一方、業種・業態もしくは取引形態によって、一律的な算式で算出・運用するのが難しいという事情もあり、多くは過去実績や与信申請額を調整する形で運用されているのが実情です。 通常年に1回行われる与信限度の更新も、過年度実績をベースに、取引先の信用状態に応じて加減する運用となります。「攻めの与信管理」の観点で言えば、「もっと売り込む先」「現状維持先」「取引を絞る先」を識別していくことになるわけですが、「取引を絞る」選択については、当然ながら取引先、そして間に入る営業との軋轢が生じやすくなります。
 今回のエピソードでは、直近で売上減少・赤字転落となった取引先に対し、今期以降業況が回復するとの見通しに対して裏付けをとり、現状維持との判断をしています。取引先の信用悪化が疑いないものであれば、軋轢を恐れずに絞る動きをしていく必要がありますが、誤ると長年の取引による信頼関係を大きく崩す可能性もあるため、材料をよく集めて判断する必要があります。 

売上債権ファクタリング

 このところ、「金利優遇」や「事業支援」をうたった金融業者の勧誘がまた増えているようです。ファクタリングを用いた勧誘も増えているというのも、エピソードの中にあった通りです。
 ファクタリング自体は、昔から銀行系の大手ファクタリング業者があるように、売上債権を現金化する金融手段として定着しています。近年は大企業が印紙コストを敬遠して手形による支払いをやめ、期日現金払いとする動きが増えてきました。
 従来手形を割引に回して早期現金化していた納入・下請け業者のニーズを補う形で、ファクタリング業者を仲介するケースも増えています。ただ、中には法外の手数料をとったり、ファクタリングを入り口として貸金で借り手を抜けられなくしたりする、悪質なファクタリング業者もあるようです。
 売上債権の買い取りは一過的な取引にも見えますが、手形の割引と同じで資金繰りにおいては反復利用になりやすく、反復化すると売掛債権譲渡担保を供与したり、債権譲渡登記が行われたりするようになります。債権譲渡登記はこのシリーズでも触れたように、それ自体が信用に影響するものではありません。ただ、通常の商流からは想定できない、よくわからない金融業者が債権譲渡登記の債権者になっている場合は、それを知った取引先が保守的な判断をすることは容易に想像がつきます。
 資金繰りに窮し、金融業者に重要な取引先への債権譲渡通知書を渡してしまうようなことになると、それこそ会社の生命線を握られてしまいます。「お金に困る」という事象がなくならない限り、そこに付け入る悪徳金融もなくならないわけですが、時代とともにその形は変化していきます。
 審査の場面ではあまり目にすることはないかもしれませんが、与信判断においてはそうした金融の存在を理解しておく必要がありますし、また重要な取引先の資金状態を把握し、パートナーとして啓蒙していくことも、安定した商流を維持するためには大切です。
 
  
 

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