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  • 営業向け与信管理研修の企画(前編)

2017.02.21

[企業審査人シリーズvol.131]

少し前の話になる。審査課の青山と経理課の木下がクリスマス・ソングをBGMにリース会計の話をした少し前、ウッドワーク社の会議室では審査課長の中谷、青山、アシスタントの千葉、そして同社を担当する調査会社の調査員・横田が顔を揃えていた。そう、これは青山が中谷の社内研修を手伝うことになったお話である。
審査課では毎年4月と9月の下旬に、主に新人営業パーソンを対象とした与信管理研修を開いている。課長の中谷が講師となり、1回2時間×3回、与信管理の目的や意味、営業パーソンとして身に付けておいてほしい知識と行動を教えている。半ば「天然」的な要素を含め歯に衣着せぬ中谷の話は、失敗事例にとりあげられる営業パーソンは毎年閉口しているものの、受講者には好評を得ている。中谷も講師のような仕事が嫌いではないし、若手の営業パーソンに顔を覚えてもらったり、覚えたりする場として積極的に活用している。しかし、審査課が当時の水田課長から講師を任されて数年が経過している。今年の4月の講座を終えた中谷は、(そろそろ次の展開を考えよう)と思ったのだった。
 中谷の頭にある「次の展開」とは、後輩育成を兼ねて講師役を育てることにあるが、IT系の秋庭は講師のような仕事に苦手意識が強く、適性もあまり感じない。かといって課長を引退した水田に再登場を願うのは時間軸に逆行する上、定年後の楽な立場で「水田節」が暴走するかもしれない。青山はタレントとしては適性がありそうだが、まだ経験不足で、ひとりでやるのは厳しそうだ。そこで中谷は、自分が独断でやってきた内容をパートに分け、青山や他のメンバーが関わりやすくすることに決めた。そして、そのパート分けの中に、調査会社の横田によるレクチャーを加えることとした。横田に相談すると、持ち時間が1時間程度であり、内容的にもさほど準備が必要なわけではないということで、快く引き受けてくれた。そして迎えた今日は、来年4月に開催する講座の最初の企画会議なのである。
 「横田さん、今日はありがとう。次の4月の営業向けの与信管理講座の検討をキックオフします!」
 「声をかけていただいて、ありがとうございます!」と、横田は気持ち良い笑顔で返した。仕事柄、セミナーや講演は経験があるのだろうが、(そういう仕事がきっと好きなんだろうな)と思いながら、青山が発言した。
 「中谷さんの与信管理講座は人気の講座ですからね。まだ引退を考えなくてもよいのでは・・・」
 「青山、何だか腰が引けているじゃないの!あなたにもそろそろ営業の矢面に立ってもらうわよ」
 「青山さん、いよいよデビューじゃないですか、一緒に頑張りましょう!」
外部招聘の講師である江戸前・横田に励まされて、青山は少し顔を赤くした。
 「一応、私の方でこうしたらどうかな、という案を作って来たんだけど」と言って中谷がレジュメを配付した。A4サイズの1枚に、パートの見出しと時間配分、担当者だけが書かれたシンプルなものだ。
 「あくまでたたき台を用意しただけなので、今日はブレイン・ストーミングのつもりで自由に意見を出してね」
 会議室のテーブルには中谷が千葉に頼んでおいたチョコレートとクッキーが用意されている。中谷が「今日はブレイン・ストーミング」と言うときには、こうして必ずお菓子が用意されている。お菓子を食べながら話せる、というだけでリラックスした空間になるし、甘いものを口に入れれば脳を活性化できるかも、との期待もある。
 「横田さんには営業先を訪問した時にチェックしてほしいポイントを解説していただきたいのだけど」
 「なるほど。倒産事例とかパクリ屋の話を頼まれるのかと思っていましたが、より実践的ですね」
 「それも考えたんだけど、倒産事例とかパクリ屋とかって、それだけ話していると、どこか他人事みたいな感じになるのよね。とくにまだあまり経験のない子は、自分はそういう会社は当たらない、と思っちゃうのね」
 「確かに、与信管理の教育って、『交通事故に気を付けましょう』とか、『災害に備えておきましょう』とかいうのと似ているかもしれませんね」と、千葉が笑いながら言った。
 「そうね。リスクマネジメントって何でもそうだけど、不幸な場面に遭遇する確率論だもんね」
 「僕らも営業をしていると、焦げ付きを経験していない社長に信用調査の必要性をご理解いただくのに苦労することがありますよ。不良債権が出てから慌てて相談いただくこともありますから」と横田も同意した。
 「ところで、この最初にある『あなたの理想の顧客とは』というのは何ですか?」と青山が中谷に聞いた。
 「これは、与信管理が確率論の話だってことを踏まえて、今回加えたパートよ」
 「倒産しそうな顧客がどういう顧客なのかっていう話ですか?」 
 「それじゃあ、確率論の話になっちゃうじゃないの」
 「でも、営業としてどういう顧客の獲得を目指すかっていう話は、純粋な営業の話ですよね」
 中谷と青山の会話を聞いていた千葉が、口を開いた。
 「ああ、わかりました。純粋な営業の話と与信管理の話はつながっている、という話をするんですね」
 「さすが千葉ちゃん、勘がいいわね!」と中谷が言うと、横田も笑顔でうなずいている。
 青山が中谷の顔を見ると、(勘が悪いわね・・・)と目が語っている中谷と目があった。

営業パーソンの社内教育

 与信管理部門が社内の営業パーソンの研修に関わることは珍しくないでしょう。与信管理において不良債権の防止という目的を果たす上では、案件ベースの個別の対応だけでなく、こうした教育機会を設けて営業パーソンを啓蒙していくことはとても有益です。与信管理のマインドを持った営業パーソンが商談や顧客訪問において顧客に対して高い感度を持つほど、与信管理の質は高まります。ただ、こうした教育活動はノウハウや内容が社外で交換されるものではありません。この点、調査会社では営業担当が各社の相談に応じてこうした教育に関わる経験を持っています。まだ活用したことがない場合は、相談してみると良いでしょう。

営業活動と与信管理を結ぶ観点

 営業活動と与信管理は、よくクルマのアクセルとブレーキに例えられます。営業活動は基本的にはアクセルですから、ブレーキを必要とした経験が乏しい営業パーソンは、アクセルを踏み続けます。ブレーキが必要な場面に遭遇するか否かは、会話にもあったように確率論であり、ゆえに与信管理教育は「交通事故に気を付けましょう」「自然災害に備えましょう」といった標語的なメッセージに終わりがちです。こうなると、その重要性の理解度は受講者の性格や想像力に依存してしまいます。今回、中谷はこれを突破するために工夫を試みています。それは、「営業活動においてどういう顧客の獲得を目指すのか」というところから営業パーソンに考えてもらおう、というものです。ビジネスモデルにもよりますが、顧客との取引は多くの場合、継続的なものです。継続的に良い取引をして、お互いに実りが多く付き合っていけるのはどういう顧客なのか。この観点があればこそ、「顧客を選別する」視点が生まれます。逆に一度きりの取引が多いビジネスモデル、あるいは一度きりの取引を重視する営業活動では、こうした観点がなく、与信管理の重要性も変わります。中谷の試みは、与信管理をアクセルとブレーキという、相反するイメージで語るのではなく、与信管理が営業活動と表裏一体であることを伝えるひとつのアプローチと言えます。

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