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  • 減損会計の話 ~ディスカウント・ランチ~

2017.06.06

[企業審査人シリーズvol.138]

しばらく忙しかった審査課の青山と経理課の木下は、久しぶりにランチに出掛けた。近くに最近開店したばかりの、大きめのハンバーガーを提供するアメリカンな店である。運ばれてきた皿の上には、バンズからジューシーな肉が大きくはみ出たハンバーガーが載っている。青山がどう食べようかと思案している間に、木下はテーブルに備え付けのバスケットからフォークとナイフを取り出し、分解を始めている。
「木下さん、少し前によく耳にした減損会計について理解があやふやなので、少し教えてもらえませんか」
質問を投げておいて、青山は思い切ったようにボリュームのあるチーズバーガーをかじっている。
「前職の会計事務所では減損損失を計上するケースがありませんでしたが、大学の頃に“のれん”とセットで論文を書いたことがあります。個人的にも思い入れのあるテーマですよ」
そう言う木下はフォークとナイフを使っているが、分解しているのは「和風ハンバーガー」である。すでに8等分されており、バンズとハンバーグと具材のきのこを器用にフォークで刺して、上品に食べている。
「僕も実例に遭遇しませんけど、新聞の決算発表ではよく見るので、前から気になっていたんですよ」
「そもそもなぜ減損処理を行うのか、ということはご存知ですか?」
「保有している資産の価値が下がったら、それを反映しないと決算書が実態と乖離するので切り下げる、という感じですよね。でも、株とか売買市場が存在している資産なら時価を客観的に把握できますが、減損が計上されている資産を見ると、売却価値の算定が難しいんじゃないかと思うものも多いですよね」
「青山さん。なかなかいい着眼点です。でも換算するのは売却価値じゃありませんよ。減損会計においては、資産価値は将来のキャッシュ・フローを見積もって、それを割引計算して算定するのです」
「そうか。持っている資産がキャッシュを生む力を見積もって、それがなければ価値を切り下げるのですね」
「その通り。つまり減損処理は、行った投資に対して回収が見込めなくなった場合に、その収益性の低下を反映させるために行われるわけです」と、木下は休みなく小分けのハンバーガーを口に運びながら答えた。
「具体的にはどんなプロセスで計算するんですか?モグモグ」と青山が食べながら聞いた。
「日本基準における減損損失計上までのプロセスは、おおまかに4つのステップに分けられています。まずは固定資産のグルーピングです。固定資産は単体でキャッシュを生み出すことは稀で、例えば製品をつくる工場があれば、土地・建物に加えて、そこにある機械や設備も必要です。キャッシュを生み出す最小単位を見定めて、それらをグルーピングするわけです。グルーピングができたら、次の“減損の兆候の把握”に進みます。つまり、減損が生じている可能性があるかどうかをチェックするわけです」
「減損の徴候・・・具体的にはどんなことですか?」
「営業活動から生じる損益やキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているケースや、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落が認められるようなケースです。このような状況があれば、次のステップとして“減損損失の認識”に移ります」
「ちょっと待ってください。資産価値は、将来生み出すキャッシュ・フローによって測定するんでしたよね」
「そうです。将来キャッシュ・フローの総額を割引計算しますが、割引前の将来キャッシュ・フロー総額が資産価値を下回っていないかのチェックを行い、減損損失を認識することになります」
「割引計算についても教えてもらえますか?」
「正確に言うと、現在価値への割引計算です。簡単な例えで言うと、金利を2%としたとき、1年後にもらえる102万円を現在価値に換算すると100万円になる、ということです」
「なるほど。将来的にその資産が価値を生んでいくと考えると、現在の価値はそれより低くなるわけですね」
「はい。ですが、“減損損失の認識”のステップでは、割引“前”の将来キャッシュ・フロー総額と簿価を比較します。つまり、割引計算前の段階ですでに簿価を下回っているのであれば、減損は確実ということです」
「なるほど。次の段階で正確に割引現在価値を求めて、差額を減損損失に計上するということですね?」
「正確に言うと、減損損失の額をグルーピングした個々の資産に振り分けるといった、細かいプロセスもあるのですが、ざっくり言えば青山さんの言った通りです」
「なるほど。概要がわかりました。少々ややこしいので帰ってから自分で整理してみますね。ちなみに、木下さんが学生時代に書いた論文ってどんな内容だったんですか」
「“のれん”についてです。日本基準では規則的に償却していきますが、国際会計基準は償却しないルールです。そこで、私は論文で新たなルールを仮設しました。その名も“50%償却法”です。取得価額の50%まで償却しつつ、残りの50%は必要に応じて減損会計を適用する、という折衷案です」
「木下案まで考えたんですか・・・しかも、意外とアバウトな案ですね」
会話と食事を同時に終え、青山が財布から開店時に配られていた割引券を1枚木下に渡した。
「50%とは高い割引率ですね。ディスカウント・キャッシュ・フローは面倒ですが、こういう割引は大歓迎です」
「1,200円のハンバーガーの簿価が600円になるのですからね」
「いや、ハンバーガーは資産ではありませんから。食べてしまって現在価値もありませんし。青山さんを資産とするならば、その維持費用ということになるでしょうか」
青山は自分が資産計上されたときの減損可能性について、“迷想”をしながら会社に戻ったのだった。

減損会計の必要性

減損会計は資産の収益性の低下を反映させる会計処理であり、平成14年に企業会計審議会によって「固定資産の減損に係わる会計基準」が公表されました。原則として固定資産は取得価額を決算書上の簿価としていますが、例えばバブル期に取得した不動産については、当時に比べると大幅な時価の下落が想定され、そのままでは“含み損”を抱えたまま計上され、売却時に多額の固定資産売却損が生じることで、はじめて損益計算書に損失として認識されます。したがって、すでにその収益性の低下が把握されているのであれば、適時簿価に反映し、適正な財務状態を示そう、というのが減損会計の適用の趣旨になります。

減損会計の会計処理

日本基準における減損会計の処理は木下が説明したとおり、大きく4つのステップに分けられ、まとめると以下のようになります。
・ステップ1:資産のグルーピング
・ステップ2:減損の兆候の把握
・ステップ3:減損損失の認識の判定(割引前将来キャッシュ・フロー総額の見積もり)
・ステップ4:減損損失の測定
なお、それぞれのステップにおける詳細は、企業会計基準委員会により公表されている「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に定められています。

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