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153:とおせんぼう? ~「経営セーフティ共済」の話~

2018.01.30

経理課の木下が従業員の交通費精算をしていると、審査課の青山から内線がかかってきた。インターネット時代で死語となりつつある「ホットライン」とは、青山と木下の間の内線のような状態を指す言葉である。
「もしもし、木下さん。ちょっと与信判断で木下さんに確認したいことがあって・・・今、大丈夫ですか?」
「大きな取引先とかですか?複雑な会計処理をしているなら、決算書を見たいところですが・・・」
「いやいや、まだ設立して5年程の中小企業です。例の新規開拓強化月間で、営業の新人が獲得した案件なので、こちらも前向きに対応したいんですよ。ただ、確認すべきことが見つかってしまって・・・」
「なるほど。そういうことなら電話で何とかなりますか。気になる点とは何でしょうか?」
「ざっくりとした決算書をもらっていて、それを見ると役員報酬はしっかり取られているようなんですが、経常利益は毎期100万円以下で収益性は良くありません。手元現預金も月商未満です。営業担当によると、外部からの借入金は月商未満に抑えているし、顧問税理士のアドバイスで『とーさんぼう』もしっかり払っているから大丈夫との説明を受けたらしいのですが、この『とーさんぼう』って木下さんご存じですか?」
「営業担当に聞いてみましたか?彼はわかっているのでしょうか」
「いや、何だか新人に聞くのをためらってしまって・・・」
「それはいけませんね。もし彼も知らなかったら教えてあげないといけないじゃないですか。その『倒産防』は、倒産防止共済のことでしょう。中小企業がよく加入している共済の一種ですよ。最近は『経営セーフティ共済』という呼称が使われているようですが、正式名称は『中小企業倒産防止共済制度』です。ちなみに運営主体は独立行政法人の中小企業基盤整備機構だったはずです」
 「倒産防止共済の略称!行く手を阻むものではないのですね・・。取引信用保険みたいなものですか?」
日頃はどちらかといえば優等生タイプの青山だが、ときどきおかしなことを言う。
「行く手を阻むのは『通せんぼう』ですよ・・・連鎖倒産を避けるという目的はトリシンと似ていますが、『倒産防』の特徴は積み立てである点、その積立額に応じた借入ができるという点です。掛金設定が毎月5,000円から20万円の範囲で任意に選択でき、掛け金は積立総額800万円まで損金算入が認められます」
「なるほど。会社の規模や資金繰りの状況に合わせられるんですね。積み立てでも損金算入が認められるということは、会計上保険積立金のような資産計上がされるのですか?」
「払った掛金はP/L上に費用として計上されます。保険積立金といった資産勘定は計上されません」
「なるほど!そういえば積み立てが500万円以上あると聞いてきたそうですけど、決算書上、それらしい資産計上がないのはそういうことなのですね。ちなみに、加入条件は中小企業であることですか?」
「そうです。継続して1年以上事業を行っていることと、業種によって資本金の額と従業員数の要件があります。例えば、建設業は資本金の額が3億円以下、従業員数は300人以下であるとか・・・」
「中小企業庁の中小企業の定義通りですか」
「いや、確かそれに加えてゴム製品製造業、ソフトウエア業と情報処理サービス業は資本金額・従業員数が別に定められていました。個人事業種や企業組合・協同組合なども使えたはずです。ゴム製品製造業等の条件は中小企業立法でよく見かけるので、覚えています」
「なるほど。中小企業における優遇税制で見かける資本金1千万円よりは広いんですね」

ホットラインの会話はそこで終わったが、その日の終業後、リフレッシュルームで紅茶を嗜んでいた木下のところに青山がコーヒーを持ってやってきた。
「木下さん、さっきはありがとうございました。『倒産防止共済』について、もうちょっと聞いていいですか?積立額に応じた借入ができる、というところなのですが」
「そうです。前提として、売上債権が回収困難となったときに借入ができる仕組みです。その回収が難しくなった債権額か、または、掛金総額の10倍相当額の範囲内のいずれか少ない額までを請求できます」
「なるほど、保険金が下りるわけじゃなくて、あくまで借入なんですね。500万円の積立があるとすると、5,000万円までの売上債権であれば、借入でカバーできるわけですね」
「その通り。共済制度なので、保険とは違います。ちなみに、回収困難と認められるのは、取引先が取引停止処分、破産手続開始の申立て、私的整理といったいわゆる倒産状態となった場合だけでなく、災害による不渡りや特定非常災害による支払不能でも借入ができます。ただ、夜逃げはNGとわざわざ書いてあります」
「あくまで一定の法的な裏付けが求められるわけですね・・・。税務上は掛金の損金算入が認められるんですよね。その点では、一般的な保険商品と比べてどうなんでしょうか?」
「保険はあまり詳しくないですが、全額損金のタイプは掛け捨てであったり、返戻率が低かったりすることが多いです。前職で担当した中小企業が加入している保険は1/2損金タイプや1/3損金タイプが一般的でした。このパターンだと、税務上損金とならない部分がB/S上に保険積立金として累積計上されていきます」
「『倒産防』は保険積立として計上はされないということでしたが、解約して取り崩すことはできるんですか?」
「40カ月以上掛金納付の実績があると、任意解約でも100%の解約手当金となります。ただ、掛金は損金算入してきたので、この解約手当金は益金となります。会計上は、営業外収益か特別利益に解約手当金を計上することになるでしょうね。ちなみに取引先が倒産していなくても、事業資金が必要な時に、解約手当金の95%を上限として借入ができる一時貸付金制度もあったと記憶しています」
「なるほど、継続して掛金を積み立てると掛け捨てではなくなり、積立分を取り崩せるようになるということは、一種の簿外資産といえますね」
「前職では中小企業の社長から節税に絡む相談も受けましたが、まずは使い勝手の良い、この『経営セーフティ共済』を案内していました。そういえば、思い出しました。この前に飲み代を立て替えた5千円を青山さんからお返しいただかなければいけませんが、私はセーフティ共済を使わなくて大丈夫ですよね?」
「そういえば・・・・絶対貸し倒れにならないから安心してください、と言って立て替えてもらったんですよね」
慌てて取り出した青山の財布には、そこには千円紙幣が3枚あるのみであった。
「明日は給料が入るので必ず!」と言う青山は、資金繰りに悩む債務者の顔になっていた。

中小企業で活用の多い「経営セーフティ共済」

取引先の倒産等による連鎖倒産のリスクを抱える中小企業は少なくありません。連鎖倒産による経営難を回避するために、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している制度が経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)です。この制度は中小企業倒産防止共済法に基づき昭和53年に発足しました。掛金月額は、5,000円から20万円までの範囲(5,000円刻み)で任意に設定でき、800万円まで積み立てられる上、損金算入が認められています。こうしたメリットから、多くの中小企業において資金繰り対策を兼ねた活用がされています。加入要件などの詳細は、中小機構のホームページを参照してください。

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今回の質問

【問178】次の4つの取引のうち、資産と負債が共に増加する取引はどれでしょうか?

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