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  • 与信管理実務アンケート ~10%のスピードアップ~

2018.03.06

[企業審査人シリーズvol.156]

その日の昼過ぎ、調査会社の江戸前調査員・横田がウッドワーク社を訪ねてきた。情報収集に余念がない審査課長の中谷は、とくに用がなくても月に一度は立ち寄るよう横田に伝えており、月初の業務処理が落ち着いた10日前後に横田がやってくる。「調査会社は情報買うだけじゃなくて、日頃からちょっとした情報がもらえるようにしておくことが大事なのよ」、そういう話を青山は中谷から5回くらい聞いている。
 横田が来るときには大抵、青山が課長の中谷から同席を求められる。この日も同席を求められた青山が、電話対応でやや遅れて応接室に入ると、ちょうど横田が資料をかばんから取り出したところだった。
 「やあ、青山さん。ちょうど今日の本題に入るところでしたよ。中谷課長がご興味を持たれるだろうと思って、今日はこれを持ってきました」
 パワーポイントのA4・横のカラーの資料を、横田が中谷と青山の前に差し出した。
 「『与信管理実務の実態』・・・確かに、そそられるタイトルだわ」と、中谷が早速資料をめくり始めたので、調査員の横田が少し慌てて説明を始めた。
 「弊社でアンケートをとりまして、3,000名以上の回答をいただいたものを、まとめたものです」
 「与信管理規定の運用状況、与信管理規定の策定予定・・・新規取引開始申請書の項目!かなり細かいところまで聞いているのね」
 「そうですね。与信管理実務についてのアンケートなので、かなり具体的です」
 「これは・・・設問への回答を、取引先の数で分けているのね」
 「そうです。与信管理の業務はやはり取引先の数によって実務が変わって来るので、ここでは取引先が1,000社以上の層と100社未満の層、その間の層の3つに分けて、回答を整理しています」
 「うちは1,000社以上の括りになるわけですね。たしかに、これを見ると取引先が100社未満の会社では、与信管理規定はなく都度判断している、という会社が64%もあるんですね。取引先が1,000社以上になると、都度判断の会社は24%しかないです」
 「ほんとね。与信管理規定があって、満足のいく運用ができている会社が取引先1,000社以上だと27%。でも、規定はあるが運用に課題がある、と答えている会社が48%。やっぱりどちら様も課題を抱えていらっしゃるのね。この仕事は最終的には貸し倒れが発生しなければ良いわけだけど、取引先の見極めというのは永遠のテーマだから、これでもうバッチリ!という境地にはなかなか辿り着けないわ」
 「でも、景気が良くなって倒産も減ってきて、与信管理担当者にとっては景気が悪い頃より仕事がしやすいんじゃないですか?」と青山が口を挟んだ。
 「確かに私がこの仕事を始めた2000年頃とか、リーマンショックのあととかは実際に焦げ付きも増えたりして大変だったわ。でも、今が楽になったかと言えば、そういう感覚はないわね。結果として焦げ付きになっていなくても、取引先をモニタリングすることに変わりはないし。むしろ倒産のパターンが多様化して、面倒になってきた印象もあるわね」
 「そうですね。この資料の7、8頁にもありますが、最近1年間で債権回収においていわゆるヒヤリハットの経験をしたとか、ノーマークの売上債権が不良化したという回答は、どちらも3年前より減っています。具体的に心配な取引先がある、との回答も3年前より減っています。それでも、取引先が1,000社以上ある会社では、最近1年間のヒヤリハット経験は50%、ノーマーク先の債権不良化は35%もあります。心配な取引先がある、との回答も減ったとはいえ、取引先が1,000社以上ある会社では70%が『ある』と回答しています」
 横田がそう言うと、青山は少しため息をついた。
 「そうなんですね。ということは、景気が悪くなると今より仕事が大変になるわけか・・・」
 「そうよ。比較的余裕があるうちに審査課員になって、じっくり案件を見ることができるのだから、恵まれているわよ。私が審査を始めたときは最初から大変だったのよ。まあ、景気には長く持ちこたえてほしいけど、それまでに与信管理の業務フローをもう少し自動化して、業務処理の負荷は減らしておきたいわね」
 「中谷課長のところは、案件の審査結果を営業に返すまでにどれくらい時間がかかっていますか?」
 「ちょうど僕が先日集計をしましたが、平均で3.6日でした」
 「そう。営業部門には審査課の約束として”どんなに忙しくても1週間以内”と言ってあって、審査課内では目標を”3日以内”として運用しているの。ただ、繁忙期の滞留や情報収集の時間もあって、まだ目標には届いていない。再来年に社内の業務システムをリニューアルする予定になっているので、与信管理についてもできるだけワークフローに取り込んだら、もっと早くなるかもしれない」
 「この資料の23頁を見ていただくと、審査結果を営業部門に返す時間で一番多いのは『3日以内』です。次に多いのが『1日以内』となっていますね。これはスルーする条件が広いこともあるかもしれませんが、ワークフローによる即日処理が可能になっていることも大きいと考えられます。書類のやりとりだと、それだけで1日、2日かかってしまいますからね」
 「なるほどね。やっぱり『3日以内』をめやすにしている会社が多いようね。与信管理の仕事って、他社や他の業界がどうしているかっていう情報がなかなかないので、こういう情報は貴重だわ」
 「そうですよね。中谷さんが掲げる目標にも改めて納得できました」
 「ワークフローの整備を待たずにスピードアップを図るためには、必要なことがあるわね」
そう言って中谷が青山の方を向くと、青山が(えっ?)という表情を浮かべて椅子ごと20cm後退した。
 「青山の処理速度を半年以内に10%アップすること。審査課平均3.6日に対し、青山は4.1日だったでしょ。まずは底上げをしないと!」
 「青山さん、頑張ってくださいね」と、男前の横田がニヤリと笑うと、青山は絵に描いたように頭を掻いた。
 「横田さんが来て同席するたびに、何か持ち帰らされているような気がします・・・」
3人の笑い声が応接室に響いた頃、審査課ではベテランの水田が本日3枚目のせんべいをかじっていた。

「与信管理実務の実態」

 今回横田がウッドワーク社審査課に持参した「与信管理実務の実態」は、2017年9月に弊社が実施した「与信管理実務アンケート(新規取引編)」をまとめたものです。与信管理規定の運用状況、新規取引開始申請書の項目や重視する項目、その添付資料、自社格付けの運用状況、格付に含まれる要素など、実務的な内容が多く含まれています。以前弊社で行っていた交流型セミナーではさまざまな業種の与信管理担当者がグループワークを行い、各社の手法に多くの気づきを得て持ち帰られていました。ご興味がありましたら、弊社営業担当者にお問い合わせください。アンケートにご協力いただいた皆様には、この場で改めて御礼申し上げます。弊社では今後も、各社の与信管理実務をサポートする情報を提供してまいります。

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