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  • 予期せぬ来訪者たち ~信用状の話 前編~

2019.04.04

[企業審査人シリーズvol.182]

「取引の決済は信用状ベースか。送金はわかるけど、信用状だと何がいいんだったっけ…」
青山がうーんとうなりながら書類から目を上げたが、周りには誰もいない。春の陽気に誘われたのか、課長の中谷は夕方まで出張、秋庭も営業社員の同行で終日不在、水田は休暇である。審査課の青山は決済業務には通常関わらないのだが、社内で少ない輸出案件に関わり、営業担当者に決済方法の説明を求められていたのだ。
時計が17時を回った頃、「!」と青山はデスクの引き出しにあった名刺を取り出し、その番号に電話を掛けた。相手はユニバーサル貿易の七瀬である。(一般的な質問だから問題はないだろう・・・)と青山が受話器を持ちながら自分に言い訳していると、聞き慣れた元気な声が聞こえ、青山が名乗ると素っ頓狂な声になった。
「えーっ!ありえない!昼間に連絡してくるなんて、どうしたの?びっくりしちゃった」
「その…困ってしまって。前に荷為替手形の話を聞きましたが、信用状取引のことをもう一度聞きたくて・・・」
「荷為替手形は覚えてる?貿易取引では、荷為替手形によって輸出者・輸入者共に送金時のデメリットが消えるけど、輸入者の回収不能リスクまでは取り除けない、という弱点があったわよね?」
「そうでした。その回収不能リスクを防ぐ仕組みが、信用状ということでしたっけ?」
「そう!信用状ではその回収不能リスクを銀行が保証することで、輸出者が安心して取引できるようにするものなの。でも、無条件に支払い義務を負担するのは、信用状発行銀行がとても不利になってしまうから、信用状には“信用状発行銀行に到着した船積書類が信用状条件に合致すること”という条件をつけているの」
「船積書類と信用状条件の内容一致ですか?これで確実な貿易取引になるんですか?」
「輸入者は輸出者に確実に要求行為を履行してもらうために、信用状に要求内容を盛り込む。輸出者は代金を確実に回収するために、信用状の条件に合う船積書類を作る。つまりこの仕組みによって、輸入者も輸出者も円滑な取引をするインセンティブを与えられることになるってわけ。さあ、到着!青山くん、君のビルに着いたから、ロビーに来て!」
(ん?)と青山が返事をする前に電話が切れた。青山は急展開に慣れたのか、素直にロビーへと向かった。
青山がロビーに着くと、受付の脇にある小さなベンチシートに座っていた七瀬が小さく手を振った。
「やっほー!近くでお花見していたから、来ちゃった。日は照っているけど、風はまだ冷たいね」
「お花見なんて、いいなあ。まあ、それよりせっかくなんで信用状の続きを教えてください。お礼はこれで」
そう言って青山が缶コーヒーを差し出した。階段で駆け下りる寸前に思い立ち、買ったのだった。
「さすが青山くん、気が利くね!さて、信用状発行の流れをおさらいすればいいのよね」
「さすが、お察しの通り。電話だとちょっとわかりにくいなあ、と思っていたんです」
青山は空いていた来客用ソファーへ案内すると、七瀬はカラフルなメモ帳を取り出して図を描き始めた。
「売買契約を結んだ後、輸入者は信用状発行銀行に信用状発行を依頼します。信用状発行銀行が輸出者側の買取銀行に対して信用状を発行し、買取銀行は輸出者へ通知します。輸出者はそれを元に船積依頼をかけ、船会社から船荷証券を受領すると、その船荷証券と引換えに買取銀行から代金をもらいます。その後、船荷証券を含む船積書類が信用状発行銀行へ渡り、輸入者へ通知後、代金と引換えに輸入者は船積書類をもらって、商品を回収することができるんです。こう書くと、意外とシンプルでしょ?」
「なるほど、信用状を使うことで輸出者はすぐ代金決済ができ、輸入者は商品の確保ができるわけですね」
ようやく頭が整理された青山がふとエントランスに目をやると、課長の中谷がいつのまにかそこに立っている。用事が早く終わって帰ってきたようだが、どう見ても不機嫌な顔をしている。
「青山君、そちらの…徽章を見るにユニバーサル貿易?の方と、何をしているのかしら」
「あっ、いや、これはこの前の若手懇…(モゴモゴ・・・)」と、青山が弁解で溺れかけると、七瀬がすっと立ち上がってにこりと微笑み、落ち着いた声で中谷に挨拶をした。
「はじめまして。ユニバーサル貿易の七瀬と申します。そちらにおります上司のMとご挨拶のため参りました」
中谷がハッとした表情で後ろを振り向くと、色黒で筋骨隆々の中年男性が笑みを浮かべて立っている。
「おう、久しぶりだな、中谷ちゃん。うちの七瀬がお世話になっているようだな。七瀬が携帯片手に知らない方向に歩いて行くのでついていったら、中谷ちゃんの会社に入って、そちらの若者と貿易の話をしているじゃないか。同業他社とはいえ、若者同士で学習していただけのようだから、まあ寛容に頼むよ」
「あなたは昔からそう。突然現れて、見透かしたようなことを言わないでちょうだい。まいっちゃうわ!」
「はっはっは、まあ、いいじゃないか。久々の再会がてら、どうだ一杯?あの期待の若者たちとともに!」
中谷は「はぁ~、わかったわよ」とため息をつくと、少しあきれた表情で青山に向き直った。
「青山、業務外で悪いけれど、付き合ってくれないかしら。この件は不問にしますから」
青山はまだ状況が呑み込めないまま、「ハイ!ご一緒します!」と返事をした。それから課長の中谷はMと待ち合わせの約束をし、青山とともに七瀬とMを見送って、職場に戻るべくエレベータに向かった。
七瀬の上司・Mとは?ダイヤルM?中谷との関係は?信用状の謎が解決しスッキリしたばかりに青山の頭に、新たな謎によって再び霧が漂い始めた。信用状よりも濃く、そしてスキャンダラスな霧が・・・。(つづく)

信用状とは

信用状とは、輸入者の取引銀行が輸出者に対して、輸出者が信用状条件通りの船積書類を銀行に呈示することを条件に、輸入者に代わって代金の支払いを約束する保証状です。輸出者が信用状条件通りの手形と船積書類を銀行に呈示すれば、銀行はこの手形を買い取り、輸出者に対して手形代金を立替払いします。信用状は輸出者にとって非常に利点があり、輸出者が受益者となります。

信用状の役割

①代金回収リスクの回避
信用力の高い銀行が輸入者に代わって代金支払いを確約してくれることで、輸出者は信用状態について情報の少ない取引相手であっても、安心して貨物を出荷することができます。
②資金負担リスクの軽減
信用状に基づき為替手形を振り出すと、輸出者は銀行にその手形を買い取ってもらえるため、船積み後数日で代金を回収できます。また輸入者も銀行への代金支払いと同時に(一覧払い手形の場合)船積書類を受け取ることができ、貨物が届いていればすぐに受け取れます。
③商品入手リスクのカバー
輸入者にとって最大の懸念事項は、契約通りの商品が手元に届くかどうかです。信用状取引では船積書類と信用状条件の一致を確認するので、少なくとも書面上では出荷されたことを確認できます。但し買取銀行による出荷確認作業は書類上にとどまるため、実際の貨物が契約通りかについては留意が必要です。

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