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  • 業種別の決算書の特徴・前編 ~卸・小売業~

2019.11.07

[企業審査人シリーズvol.197]

経理課の木下はその日の昼休み、昼食を買いに行った会社付近のコンビニで、営業課の若手・石崎とばったり再会した。カタカナ言葉を連発する営業課の八木田課長に課題を出され、一時期はよく木下のところに会計の質問をしに来ていたが、このところ姿を見なかった。せっかくだから、ということで2人はコンビニ弁当を持って近くの公園のベンチに陣取った。営業課の中で若手だった石崎だが、谷田、中野という2人の後輩が入り、何かと2人に聞かれて教えることが多くなった。
「木下さん、ホントにお久しぶりですね。前にいろいろ会計の話を伺ったお陰で、営業先の社長の話にもついていけるようになりました。営業は順調なのですが、最近はわりと大きな会社を任されることが増えてきて、そういう会社は建築以外の事業の話を聞くと、まだわからないことが多くて困っています。決算書は業種が違ってもそれほど違わないと思っていたのですが、そうでもないのですね」
「基本は同じですが、業種固有の科目があったり、各科目の金額のバランスが独特だったり、ということはありますね。私も前職の税理士事務所ではいろんな業種の会社の会計をサポートしてきたので、各業種の財務面のおおまかな特徴くらいはお話しできますよ」
久しぶりの再会だが、石崎は木下の顔を見ると会計の話を聞きたくなるらしい。そして、木下も若い社員を見ると会計のことを教えたくなる性分なので、弁当を食べながら話が会計へと入っていくのは必然であった。
「ありがとうございます!最近、後輩の谷田が難しい質問をしてくるので、もっと勉強しなきゃいけないと思っていたんです。谷田は実家がかまぼこ屋のせいか商売勘があるんですよね・・・」
「大丈夫ですよ、大枠がわかっていればいいんです。では、わかりやすい卸売業から説明しましょうか」
「卸業者といえば、製造業者などから商品を仕入れて、小売店などに販売するBtoBビジネスですね」
「はい。もっとも大きな卸業者は総合商社になりますし、ほかにも特定の分野に特化した専門商社がたくさん存在します。取扱商品に関しては専門家であり、貿易商社などは国内外の橋渡し役を担っていますね」
「その、卸売業の財務面の特徴というと、何なのでしょうか」
「まず、製造業のように大規模な製造設備や工場を持たないので、固定資産が少ない傾向にあります」
「固定資産が少ないということは、貸借対照表全体もスリムなイメージでよいでしょうか」
「全業種平均と比べると、そうなります。では、これが損益面ではどういう特徴につながると思いますか?」
「固定資産が少ないと・・・、減価償却費も少ないはずですね!儲けが出やすくなるのでしょうか?」
「減価償却費が少ないのは確かですが、粗利率は低めに算出される傾向にあります」
「仕入商品が主な原価になると思いますけど・・・なんで粗利が低くなるんでしょうか?」
「なかなかビジネスモデルでの差別化が難しいんですよ。小売店も値段が安い仕入先を常に選ぶので、価格競争にさらされやすいんです。よって、卸売業は薄利多売になりがちなんです」
「でも専門商社のように、特殊な商品で独自の仕入ルートを構築している場合は高利益になりそうですが」
「その通りです。ただ、全体で平均をとると、薄利多売で粗利が低くなる、という傾向になります」
「ちなみに木下さんが前職で担当していた卸売業はどんな商売でしたか?」
「それこそ、建材の卸売業の会社を担当していましたよ。学校のグラウンドのように広い敷地を持っていて、そこに山のようになっている砂利を見に行きました。ひっきりなしに、ダンプが行き来していました」
「砂利ですか!それも棚卸をするんですよね。何だか大変そうですが・・・」
 弁当を食べていた石崎の歯にジャリ!と堅い物が当たった音がして、石崎が手でそれを取りだした。食べていたアサリ弁当に殻が残っていたようだ。しかしそんなことは意に介さず、2人の会話は続く。
「砂利も大変でしたが、棚卸で言えば品目が多い小売業の方が大変でしたよ」
「小売はイメージしやすいですね。毎日、コンビニやスーパーにはお世話になっていますし、卸売業者などから商品を購入して店頭やネットで個人に販売するBtoCの業態ですね」
「そうです。販売先は小口分散で、商品も多品種を扱うことが多いですね。その小売業の財務的な特徴といったら、何があると思いますか?」
「コンビニでお弁当を買いましたが、現金で払いましたから・・・即金回収で売上債権が少ない、ですか?」
「ご名答です。最近は電子マネーやクレジットカードを使う人が増えてきたので少し事情が違ってきましたが、卸売業などと比べれば売上債権回転期間が短くなります。また、粗利が高い傾向でもありますよ」
「セールで70%オフなんて書いてあったりするので、薄利多売なのかと思っていましたが・・・」
「売り出し直後の売価を高めに設定して、販売機会に応じて価格を変動させていくのが小売業の一般的な戦略ですからね。一方で、最近はネット販売の競争激化によって、家電などは常に価格競争にさらされています。とくに店舗を持つリアルな小売業は、粗利段階では高めの利益率であっても、店舗の運営費用などの販管費が全業種より重くなる傾向があります」
「なるほど。消費増税の対応でレジを買い換えると、それでまた販管費が増えたりするのでしょうね。木下さんは小売店の決算もやったことがあるんですか?」
「ありますよ。健康食品を扱っている会社で、業者への卸売りも一部ありましたが、主には通信販売で直接個人に販売していました。扱う商品数は少なかったので棚卸の苦労はありませんでしたが、通販なので会社の通帳には毎日、個人名義の売上代金の振り込みがたくさんあって、決算時のチェックが大変でしたよ」
「それは根気がいりそうです・・・軽減税率も導入されたりして、小売はますます事務が大変そうですね」
「私は学生時代にコンビニでアルバイトしていて、レジ打ちに掃除、品出し、発注と大忙しでした。たくさんあるタバコの銘柄と略称を覚えるのも大変でしたし。今のコンビニはサービスが増えて、もっと大変でしょうね」
「いやあ、木下さんがコンビニの店員ですか・・・」と言いながら、石崎が吹き出した。
「何かおかしいですか?」と真顔で聞く木下に石崎は「いや・・・」と言ったまま、笑いのツボに入ったのだった。

業種による財務・損益面の特徴

特定業種の審査を行っている方でも、広く業種別の財務・損益面の特徴を知っておくことにはメリットがあります。企業は複数の事業を営むことが多く、この配合が決算書の構造を特徴付けていることがあります。例えばメインは卸売業だが兼業として小売を行っているため粗利率が業界平均よりも高い、といったケースです。

全業種平均と比較した卸売業の特徴

・多額の機械設備などが不要で、固定資産が少ない。そのため、減価償却費が軽い
・売上原価のメインは製商品の仕入で重く、売上総利益率が低い

全業種平均と比較した小売業の特徴

・基本的に即金回収のため、回収待ちの売上債権が少ない(売上債権回転期間が低位)
・売上原価が軽く、売上総利益率が高い一方、店舗運営費などにより販売費及び一般管理費は重い

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