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2020.02.06

[企業審査人シリーズvol.203]


審査課員の青山が、いつになく難しい顔をして営業部から戻ってきた。午前中に扱った審査案件について営業担当に直接話をしに行くと席を外したまま、青山は小一時間も戻ってこなかった。
「ずいぶん長かったけど、その顔は営業にゴリ押しされて困ったという顔じゃないの。大丈夫なの?」
「ええ、本題の方は営業担当者に追加のヒアリングをしてもらうことにして、納得してもらったんですが・・・」
「そのわりには随分長かったわね・・・」
「その営業担当が得意先からベンチャー企業との取引について相談されたとかで、話が長くなったんです」
「ベンチャー企業か、うちの業界じゃあまり出てこない話題じゃのう・・・」
午後の最初のせんべいを袋から取り出しながら、ベテランの水田が話に加わった。
「うちから廃材を買ってリサイクルしている得意先がベンチャー企業から引き合いを受けて、迷ってうちの2年目の営業担当、中野君に相談したようです。お宅ならどう判断するのか、参考に教えてほしい、とか・・・」
「なるほど。ベンチャー企業はどこも業歴は浅いし財務基盤も脆弱だし、一般的な与信判断の物差しを当てたら当然評価が低くなるから、与信判断で悩むのはまあ当然よね」
「そうなんです。自分でも審査の経験がないので、意見を求められて困りました」
「困りながらも、何か答えてあげたのよね?どんなことを言ったのかしら」
「事業の裏付けと出資背景をよく調べた方が良い、みたいなことを言いました」
「なるほど・・・正解が何かは私も自信ないけど、私でもそう言うかもしれないわね」
即座にダメ出しをされるかと身構えた青山は、中谷のコメントにほっとしたような顔をした。
「そうじゃな。ベンチャー企業といっても創業者が仲間と出資して始めた会社もあれば、金主がついている会社もある。投資会社がすでに出資している場合もあるから、そのあたりは信用判断の材料になるじゃろう」
「そうですよね。最低資本金制度が撤廃されて、少ない資本金でも株式会社が設立できるようになったから、そのあたりはチェックが必要ですね。まあ最初は自分たちだけで始めた事業だとしても、誰か第三者が出資してくれていれば、事業の将来性についてそれなりの裏付けになりますよね」
「ただ、金主が明かされなかったり、よくわからない個人投資家だったりする場合は、単に金回りの良い知り合いだったり、あるいは筋の良くないところの出資だったりするから、注意が必要じゃ」
「投資育成会社とか、名の知れた投資会社とか、ノウハウを積んだ会社の出資は裏付けになるわよね」
「出資においてそれなりの投資判断をしているはずじゃからの。ただ、シビアな世界でもあるから、追加出資の可能性を探る意味でも関係性はよく探っておきたいところじゃ」
せんべいをおいしそうにかじりながら、ベテランの水田が補足した。
「事業の将来性は、素人じゃなかなか判断できませんものね。とくに技術的なものだと知識がないとわかりませんし・・・投資のプロが投資に値すると判断した、ということで二次的に判断するしかないんでしょうか」
「まあ、出資背景があればまだよいほうで、出資を受ける前段階といった会社になると、余計に難しいのう」
「そういうできたてほやほやの会社なら、事業の将来性の前に、事業の実態をよく確認する必要があるわね。中には投資詐欺のようなケースもあるから、事業の実態や成算について実際に物を見たり、事業化に至ったプロセスを確認したり、といったヒアリングが必要になるでしょうね」
「そうか、将来性の目利きの前に、それが本当か、という確認作業も必要なわけですね」
「まあ、突き詰めていけばその経営者を信用できるか、というところになるわな。ベンチャー企業に限った話じゃないが、業歴のある会社はそれまでの営業実績や財務内容が信用の裏付けになる。経営者の目利きが十分できなくても、そういう実績情報である程度の信用判断ができるということじゃ。取り込み詐欺業者は古い会社の商業登記を買ったりして、そういう実績を粉飾するわけじゃ」
「ベンチャー企業の創業者は企業経営の面で実績がないケースがほとんどでしょうから、その目利きというのはホントに難しいですよね」・・・と、青山の眉間にまた皺が寄ってきた。
「人情派の水田さんは経営者と言ったけど、私はまず事業の目利きがあって、その次に経営者かな。まあ事業はその時点でのものであって、それを発展させたり次々に生み出したりする力があるかは経営者次第だから、難しいけど。でも、経営者を一番にすると、情にほだされるリスクが高くなりそうだわ」
「それもそうじゃな。まずその事業に惚れ込むことができるか、そしてその経営者に惚れ込むことができるか、ということになるな。事業に惚れ込むというのは、そのベンチャー企業に何かあったらその事業を自分の会社で買えるか、その経営者に何かあったら経営者を自社に迎えられるか、と言い換えてもよいな」
「なるほど、ある意味、賭けですね。自分で惚れ込んでの投資なら、失敗しても諦めがつきそうですね」
「そうじゃ。ベンチャーという言葉は冒険を意味するからの。一緒に冒険したいと思うかどうかじゃ」
「人の採用でも同じことを言いますよね。一般的に良い人か、じゃなくて、一緒に働きたいかって・・・」
「そうですね。そういう意味では中谷課長はまだ一緒に冒険したいと思う人がいない・・・いや、事業重視だから、一緒に夢を見たいと思う人がいない・・・?」
「何をつまらないこと言ってるの!今の話をちゃんと営業の中野君にフィードバックしてあげなさい!」
顔を紅潮させた中谷が会話を切り上げたが、水田を見るとリズムをとるように小刻みに身体を揺らしている。
「水田さん、どうしたんですか?何だか揺れてますけど・・・」
「わしらの世代はベンチャーと聞くと、テケテケテケテケ・・・とエレキギターが聞こえてくるのじゃ」
「エレキギター?僕はてっきり貧乏揺すりかと思いました」
「ベンチャーズも知らん若者とは話ができん!さっさと仕事を片付けんか!」
課のトップ2にツッコミを入れて平気でいる青山に、審査課の若手有望株としての成長が見えたのだった。

ベンチャー企業の与信判断

「ベンチャー企業をどう判断すべきか」、これはTDBでもよく相談を受けるテーマです。TDBの信用調査では実績を信用と見るため、業歴の浅いベンチャー企業に51点以上の評点が付くのは稀です。ただ、評点が低いからと取引を見送ると、将来の優良顧客を逃すことになるかもしれない・・・ここにベンチャー企業の与信判断における悩みが生じます。青山たちの会話にあったように、判断材料となる「実績」情報が乏しいベンチャー企業との取引判断は「賭け」や「投資」の判断に近く、与信管理の担当者にとっては「究極の目利き」とも言えます。「正解」のないテーマではありますが、次の3つは基本ポイントとして押さえておきましょう。
①出資背景:経営陣以外の出資があるか、出資者の信用はどうか、追加出資の可能性はあるか
②事業背景:実態があるか、事業化の経緯はどうか、事業の成算や計画に納得できるか
③経営者:事業への真摯さ(金儲けだけではない社会的ビジョン)があるか、自らを客観視する力があるか

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