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  • 在宅勤務・リモートワーク環境での与信管理を考える ~青山の在宅勤務 その1~

2020.04.24

[企業審査人シリーズvol.210]

「さて、今日も仕事を始めるか!」
自宅の自分の机に置いたノートパソコンを開きながら、青山が独り言を言った。緊急事態宣言の発令以来、4人の輪番出社体制となったウッドワーク社の審査課だが、青山も週3~4日の在宅勤務に少し慣れてきた。
青山がパソコンに向かって最初に行ったことは、その日出社している同僚・水田への申し送りだった。社内のSNSツールを使い、水田に宛てて、昨日出社した際に水田の机の上に残した書類の概要を書き込んだ。

もともと東京オリンピックの混雑緩和対策として、ウッドワーク社では期間中の在宅勤務導入に向けた準備を進めていた。昨年末から各職場で在宅勤務のトライアルが始まり、今年の2月までに内勤社員のほぼ全員が、在宅勤務を2日程度経験していた。まさかこういう形で本格導入が前倒しになるとは、誰も思っていなかっただろうが、こうした早めの準備が幸いし、緊急事態宣言が出されてすぐ、在宅勤務用のノートパソコンが前倒しで支給された。ただし、全員分は用意されていないし、ネットワーク設定の都合上、少ない台数を持ち回りで使うことができない。審査課では3台しか支給されなかったため、それらは課長の中谷と中堅の秋庭、そして青山に割当てられた。年配の水田はPCリテラシーが低く、トライアルの在宅勤務でもパソコンの操作に苦労していたので、水田には会社で多くの書類を参照しなければならない案件を集め、出社時に処理してもらうことにした。アシスタントの千葉は出社できない日を自宅待機状態と割り切り、週1回の出社日にまとめて業務を処理してもらうことにした。「万全の体制がとれない以上、そういう割り切りも重要なのよ!」と、課長の中谷は宣言した。その水田も、会社ではSNSツールと与信管理ワークフローシステムは何とか操作できている。
青山のメッセージに対し、かわいいウサギの絵文字で「了解」と帰ってきた。「かわいいウサギって感じじゃないんだけどな、水田さんは・・・」と、青山はクスッとひとり笑いをした。

在宅勤務が始まった当初は、人事部の指示により、SNSツールで業務開始・業務終了を課長の中谷に報告していた。しかし2週目に入った今週、朝の連絡をすると、中谷から「うっとうしいから始業・終業の連絡はいらないわよ!」と、冷たい返事が来た。人事部に知られて叱られるのは管理者である中谷だが、毎日なにかしらのやりとりが生じていることを考えれば、これは実態に応じた運用であろう。隣の経理部では毎日きっちり報告を求められているようだが、もとより「こいつはちゃんと仕事をしているのか!?」などと逐一疑わかければならないような関係では、在宅勤務は土台無理なのだ、と青山は思う。「非常時はいろんなことを割り切らないといけないけど、割り切れるような職場に日頃からしておくことが重要なのよ!」と、課長の中谷も言っていた。そう言う中谷も一昨日、青山から一日相談がなかった日は、夕方SNSで「ちゃんと仕事してるの?」とメッセージを送ってきた。青山が苦笑いしたのは、言うまでもない。
続いて、青山はワークフローで滞留している審査案件を確認した。ワークフローは、営業部員が起票した与信限度申請書が送られてくる形をとっており、これがリスト形式で表示されているので、順にクリックして中を開け、確認していくことになる。申請書には本来、信用調査報告書や企業概要データ、顧客から開示された決算資料等の添付資料がある。これらも営業部門が申請する段階で取得し、ワークフローにPDFファイルの形で添付されているので、ワークフロー内で参照できる。ただし、システム内の添付書類が多くなり、システムが重くなるという不都合が生じているため、添付書類については別途クラウド上に参照フォルダを設ける改良が検討されている。
案件によっては、企業概要データしか付いていないが詳細な調査報告書を追加取得したい、というケースもある。出社しているときは職場のIDで直接データを取得するのだが、在宅勤務の環境では参照できないので、その場合は営業部の事務担当に電話やSNSで連絡し、個別に取り寄せることになる。事務担当も輪番で必ず誰かが出社しているので、たいていはすぐに対応してくれる。

その日、青山が処理していた11件目に、ひっかかるものが出てきた。新規取引の案件だが、相手先は設立4年の新興企業である。新規取引なので調査報告書が添付されており、評点は45点と微妙なラインだが、新興企業でこの程度の評点は珍しくもない。決算書も添付されているが、年商3億円ながら今のところ増収増益の推移となっている。ただ、今回の与信申請は、この規模の会社にしてはやや額が大きい。初めての建売プロジェクトに関連した与信のようだ。時節柄、プロジェクトの進捗も気になる。営業担当は、青山が営業部時代の同僚・赤坂だ。青山は在宅勤務用に支給された社給スマホから電話帳を検索し、電話してみた。
「赤坂君?今、会社?家?話しても大丈夫かな?」
「青山さん、久しぶりですね。今日は会社ですか?」
在宅勤務が増えてから、電話のやりとりはまずお互いの所在の確認から始まる。相手がどこで何をしているかわからないので、漠然とした緊張感がある。訪問営業が原則禁止されたため、商談の最中に電話を鳴らしてしまう心配はない。在宅勤務中であれば、仕事の電話をして咎められることもないのだが、それでも社内で電話するのに比べると気を遣ってしまう。
赤坂によれば、それは地元の中堅不動産会社の案件で、同社の販売力により現時点で完売となっており、客がつかないリスクはないようだ。工期は多少遅れる可能性があるが、顧客との合意もとれているという。赤坂がプロジェクト資料を入手しているということなので、SNSで送ってもらうことにした。
「この件は安心したけど、赤坂君もこの時期の営業活動は大変だよね」
「外回りなのに、外回りができません。職人気質の社長に呼び出されて、現場に行くことはありますけどね」
「在宅だと、時間を持て余しているんじゃないの?」
「それが、意外とそうでもないんですよ。結構電話がかかってきますし、こういう状況なので、気になる会社にはこちらから電話で様子を聞いています。そんなことをやっているうちに毎日、あっという間に過ぎていきます。青山さんも在宅で大変ですね。頑張りましょう!」
 活動が制約されている中でもやれることをやっているという赤坂の様子を聞いて、自分も頑張らなきゃ!という気持ちになった青山は、その勢いで昼食の白飯を3杯も食べてしまった。エネルギー摂取過剰である。

在宅での与信管理業務

新型コロナウイルスの感染拡大に各社が対応を余儀なくされていますが、もともと在宅勤務の環境を整えていた会社、環境がない中で試行錯誤している会社など、その状況はさまざまでしょう。先般掲載した弊社実施のアンケートでは、今年2~3月時点で与信管理業務に在宅勤務を取り入れている会社はわずか10%でした。もとより、在宅勤務は育児世帯の従業員など、従業員の多様な働き方を実現していく上で必要な基盤と言えます。人手不足で、企業側で多様な働き方を用意しなければ、採用もままならない時代です。この段階から環境を整えるのは容易ではありませんが、この期間の試行錯誤をウイルス終息後の働き方の多様化につなげていきたいものです。

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