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  • 不況期に強まる「運やコネ」重視の経済的帰結 ~景気のミカタ~

2020.05.20

不況期に生じる「運やコネ」を重視する価値観の変化・・

今回の景気のミカタは、不況期に強まる「勤勉さ」よりも「運やコネ」を重視する価値観の高まりが日本経済に与える影響について、焦点をあてています。

2020年度の日本経済は大幅減少が避けられず

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止に向けて、4月7日に政府が緊急事態宣言を発出、さらに16日には全国に適用されるなど、経済活動が大きく制約されました。さらに、外出自粛や休業の広がりなどを通じて市場機能の多くが制限されるなか、国内・海外需要が大きく冷え込んでいます。

TDBマクロ経済予測モデルによると、2020年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率20.2%減少し、2020年度通期でも前年度比5.1%減少すると予測されており、日本経済は非常に厳しい状況が続いていくとみられます。

“運”では済ませられない、日本社会にはらむ大きなリスク

図表1:人生での成功は「勤勉」よりも「運・コネ」が大事と考える割合~各国比較~
また、2020年度の正社員の採用予定が59.2%と前年より5.0ポイント減少するなど企業の採用意欲が落ち込むなかで※1、3月の有効求人倍率は1.39倍へと低下し、2016年9月以来3年半ぶりの低水準となりました。新規学卒者にとっても就職活動が1年前とは様変わりしたと言っても過言ではないでしょう。卒業年の違いでこれほど変わる状況は“運”という一言では済ませられない、日本社会がはらむ大きなリスクとなりえます。

データをみる限り、日本における勤勉の重要性に対する価値観は、国際的には低いものとなっています。World Values Surveyが実施している世界価値観調査には、「人生での成功を決めるのは、勤勉が重要か、それとも運やコネが重要か」という質問があります。2010年の日本の結果をみると、「人生での成功を決めるのは運やコネが大事」と考えている人は32.6%となっており、中国(21.9%)やアメリカ(23.2%)より10ポイント前後も高くなっています(図表1)。
図表2:人生での成功は「努力」よりも「運・コネ」が大事と考える割合
日本人は勤勉な国民で、それが戦争から復興を遂げ経済大国になった要因と考えられてきましたが、そうした価値観は徐々に薄れ、運やコネを重視する傾向が強まっています。同調査を時系列でみると、1990年は25.2%、1995年は23.0%だったものが、2005年に40.9%へと急上昇しました(図表2)。2010年はやや低下しましたが、2000年代になって以降、日本人の価値観が勤勉から運やコネを重視する方向へと変化してきた可能性があるのではないでしょうか。

不況が価値観に影響を与える

図表3:人生での成功は「勤勉」よりも「運・コネ」が大事と考える割合~年齢別~
このような変化が生じる背景として、若いころの不況経験が、価値観に影響を与えることが実証的に明らかとなっています※2。具体的には、高校や大学を卒業して間もない18歳から25歳の頃に不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与えることが知られています。この年代に不況を経験した人は、「人生の成功は努力よりも運による」と思い、「政府による再分配を支持する」が、「公的な機関に対する信頼を持たない」という傾向があるのです。また、この価値観は、年を重ねてもあまり変わらないことが特徴です。

上記の調査を年齢層別にみると、若年層ほど勤勉よりも運やコネが人生の成功で重要だと考える人の割合が高くなっています(図表3)。また、これは女性よりも男性の若者でその傾向がより強く表れます。日本はバブル崩壊以降、若年層の就職が困難な時期が続き、さらに2000年代に入ると、いわゆる「超就職氷河期」に直面するなかで、若年層を中心として勤勉に対する価値観が大きく揺らいだ可能性があるでしょう。

“勤勉より運やコネ”の広まりでチャレンジが阻害される社会になる

人生の成功に重要なのは勤勉よりも運やコネだという価値観は不況になると強まり、さらに就職という時期と重なった若者にはより直接的に響くことは想像に難くありません。こうした価値観が社会に広まると、経済政策にどのような影響を与えるでしょうか。

先行研究※3によると、“運”による所得の差を埋めるのは、民間の保険や家族の助け合い、そして税や社会保障による再分配制度です。しかし、「勤勉より運やコネ」という価値観が広まると、こうした再分配制度が有効に機能しなくなることが懸念されます。

一般に、コネを排除するためには、参入障壁をなくして競争を厳しくすることが最も優れた解決方法になると言われています。また、運の要素を小さくするためには、再参入が何度でもできる、失敗してもチャレンジできる競争的な制度を作ることが大切になってきます。

しかし、「運やコネで人生が決まる」という価値観が広がると、こうした解決策を取ることが難しくなります。規制を強化する政策がとられると、規制で守られた人のなかでの格差は小さくなり、そのなかでの“運”の要素は小さくなります。一方で、規制の外部にいる人たちとの格差は拡大し、規制の内側に入れるかどうかという“運”の要素がより大きくなってしまいます。

その結果、既得権者がより強く守られ、新たなチャレンジが阻害される社会へとつながってしまいます。したがって、不況期には「勤勉より運やコネ」といった価値観の変化が起こりやすいため、より柔軟な社会を築くためにも経済をいかに早く立て直すかが重要となってくるでしょう。
※1 帝国データバンク、「2020年度の雇用動向に関する企業の意識調査」、2020年3月12日
※2 Giuliano, Paola and Antonio Spilimbergo, “Growing Up in a Recession: Beliefs and the Macroeconomy,” IZA, Discussion Paper, No.4365, 2009
※3 大竹文雄、『競争と公平感』、中央公論新社、2010年

執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士

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